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リスクに基づくカリエスマネージメントシステム ICCMS

リスクに基づくカリエスマネージメントシステム ICCMS
リスクに基づくカリエスマネージメントシステム ICCMS
個人のリスクに基づくカリエスマネージメントシステム、「ICCMS」というシステムが日本に上陸しました。リスク評価に基づくう蝕予防プログラムは目新しいコンセプトではありませんが、世界中で実践している歯科医院はまだ少ない状況です。それを憂いたカリオロジーの権威たちが立ち上がりました。

カリエスリスクには個人差がある

ヴィペホルム研究(図1)について聞いたことがあるでしょうか?1946年から1951年にスウェーデンのルンド市郊外にあるヴィペホルム精神病院において、糖類摂取とう蝕発症の関係を調べる目的で行われた研究です。精神病患者を実験台にしたことで、今日では倫理的に批判される内容ですが、当時は異なる価値観が通用していました。大きな功績は、う蝕の発症には、糖類の摂取量よりも摂取回数が大切なのだということを明らかにしたことです(図2)。ところが、この研究で、キャラメルのような粘着性のあるお菓子(トフィー)を1日に24個、ほぼ2年間与え続けられた被験者グループでも、約1/5はう蝕を全く発症しませんでした。このように、う蝕の発症には個人差があります。それは、多因子が関与するカリエスリスク像が人それぞれに違うことを意味しています。その患者さんのう蝕の発症を本気で止めるには、個人のカリエスリスク像を評価し、的を射た予防処置をしなければなりません。また、ローリスクの患者さんに不必要な予防処置を施すことも妥当ではありません。
図1:ヴィペホルム研究をまとめた本の表紙
図2:ヴィペホルム研究の糖類摂取とDMFの関係を示すページ

リスクに基いたう蝕予防プログラム

個人で違うカリエスリスクに基いたう蝕予防プログラムはたくさん発表されています。それらを、パーソナライズド・カリエス予防プログラム(PCPプログラム)と、私はまとめて呼んでいます。PCPプログラムの例としては、古くはペール・アクセルソン先生のニーズに合わせた予防プログラム、日本では熊谷崇先生のメディカルトリートメントモデル、アメリカ西海岸発のCAMBRA、オーストラリアで考案されたCMSなどなど挙げると切りがありません。それぞれにリスク評価のパラメータも違い、重み付けも違います。(詳細については、「ザ・クインテッセンス」2019年6月号70~82ページにまとめました。)ここでは、PCPプログラムの中でも、新しく登場したICCMSを紹介したいと思います。

ICCMSの登場

ICCMSは、International Caries Classificationand Management Systemの略で、「アイシーシーエムエス」と呼びます。ICDAS(International Caries Diagnosis and Assessment System:国際う蝕診断・評価システム)というのは耳にされたことがあるでしょう。「アイシーダス」と呼ばれ、発表されてから15年が経った今、研究分野では主流になりつつあるう蝕診断システムです。ICDASにう蝕管理分野を発展させたものがICCMSです。ICDASもICCMSもカリオロジーの世界的権威が集まって作られました。ただ、ICCMSは登場してから7年で、この間に細かい点については変更が続き、どう応用していいのか漠然としていました。ようやく最近になって専用のウェブサイトができました(https://www.iccms-web.com)。英語が主体ですが、概要については日本語訳がダウンロードできるようになっています(図3)。 図3:ICCMSの概要の日本語訳

ICCMSの応用

このウェブサイトによると、ICCMSは4つの“D”が柱になっています。つまり、Determine(患者レベルのう蝕リスクを決定すること)、Detect(患歯レベルのう蝕の進行ステージと活動性を検出すること)、Decide(患者と患歯レベルの個人に合わせた治療計画を決定すること)、Do(歯質保存のためのう蝕予防・制御・介入を行うこと)です。この4つの“D”のコンセプトは、PCPプログラムの定義そのもの(i.e.個人のリスクに基づくう蝕予防プログラム)で、リスク評価なしで予防や修復治療することと一線を画します。つまり、PCPプログラムの実践が世界中で市民権を得ていくだろうことが予想されます。このウェブサイトの日本語訳を行う作業が現在進行中で、近い将来、全文を皆さんに読んでいただけるでしょう。

日本の歯科衛生士さんへメッセージ

リスクファクターとリスクインディケーターの違い リスク評価を行う時に留意しておいてほしいことは、リスクファクターとリスクインディケーターの違いです。ICCMSの論文でもこれらを一緒に扱っているものがあり、混乱するかもしれません。リスクファクターというのは、生物学的に歯面に直接生じている因子をいいます。それはカイスの輪に表される細菌、食物、宿主のそれぞれの因子です(図4)。一方、リスクインディケーターというのは、歯面に間接的に働く社会経済因子(所得、教育レベルなど)や過去のう蝕経験などです。違いを明らかにすることによって患者さんへのアプローチにはリスクファクターに注目すべきことがよく理解できます。リスクインディケーターは、患者さんを理解する上では大切なものの、例えば、う蝕予防のために教育レベルを上げるようアドバイスするのはナンセンスですね。両者を一緒の範疇に入れないようにしましょう。
図4:リスクファクターを示すカイスの輪

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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