これまで、歯科といえば「外来」というイメージでしたが、高齢のため身体が不自由になり通院できなくなる患者さんが増えていることや、老人ホームや介護施設などから依頼を受けるなどして、居宅や施設に出向いて歯科治療や口腔ケアを行う歯科医院も増えてきました。とはいえ、日本全国でたったの9%(平成27年5月時点)。それも東京や大阪、名古屋といった大都市に集中しています。こうした診療形態は一般的に「訪問歯科診療」と呼ばれていて、高齢化が進むなか大きな需要はあるものの、まだ取り組んでいる歯科医院は少ないのが現状です。しかし、時代の要請から、将来的には確実に増えていくことが予想されています。 あなたが勤務する歯科医院では、すでに訪問歯科診療に取り組んでおられますか?今回は歯科衛生士さんにも分かりやすいように「訪問歯科診療」について、さらに「介護度」や「介護施設」についてもう少し詳しく掘り下げていきましょう。 <項目> ・「訪問歯科診療」とは ・「訪問歯科診療」ではどんなことをするの? ・「訪問歯科診療」の訪問先 ・老人介護施設の種類と特徴 ・「要支援」・「要介護」の違い についてお話ししていきたいと思います。 「訪問歯科診療」とは そもそも「訪問歯科診療」とは、歯科医師や歯科衛生士、歯科助手が通院困難な患者さんの居宅や入所施設に訪問し、歯科診療や口腔ケアを行うことです。したがって、誰でも受診できるわけではなく、"通院が困難な方"に限られています。 例えば、 ・介護認定を受けている高齢の方 ・介護老人保健施設や介護老人福祉施設に入所している高齢の方 ・障がいなどで身体が不自由な方 ・歯科、口腔外科の標榜がない病院に入院中の方 など、"自力での通院が難しい方"が訪問歯科診療の対象になります。 「訪問歯科診療」ではどんなことをするの? 一般の歯科医院で行っている診療内容(う蝕予防や歯石除去、口腔ケアなどの予防ケア)と大きくは変わりませんが、高齢の患者さんが多いため、歯周病の治療や義歯の作製、修理や調整、さらに口腔ケアや口腔機能リハビリテーションなどの割合が多くなります。リハビリでは、摂食嚥下機能を改善する目的で行うものや、食事評価など、歯科医院ではこれまで馴染みが少なかった領域も多く、患者さんの口腔機能に関連したトラブル全般を引き受ける場合もあります。 「訪問歯科診療」の訪問先 「訪問歯科診療」の訪問先には、患者さんの居宅のほか、老人ホームや介護施設、さらに歯科を有していない病院などがあります。 老人介護施設の種類と特徴 ではここで、老人介護施設の種類と特徴についてまとめてみましょう。ひとくちに老人介護施設といっても、たくさんの種類があることをご存じですか?分かりやすいように表にしてみましたので、ご覧ください。 介護施設には、実にいろんな種類があり、それぞれに特徴を持っていることがお分かりいただけたと思います。 高齢者が介護サービスを受けるためには、住んでいる市区町村から介護保険の認定を受ける必要があります。認定は介護を必要とするレベルによって7段階に分けられますが、「要介護」か「要支援」のどちらに認定されるかで、受けられる介護サービスの内容も大きく変わってきます。さらに、施設に受け入れられるかどうかは介護度によって細かく分けられていることにお気づきになりましたか? では次に「要介護」「要支援」の違いについてもご説明しておきましょう。 「介護認定」ってなに? 「要介護」・「要支援」の違い 「要介護」とは、入浴や排泄、食事などの日常生活において常に介護を必要と見込まれる状態のことを言います。一方、「要支援」とは、現在は介護の必要はないものの、将来的に要介護状態になる恐れがあり、家事や日常生活に多少の支援が必要な状態を言います。例えば図のように入浴にも介助者が必要になるのが「要介護」、入浴は一人でできるけどお風呂掃除が困難な場合「要支援」の状態と言えばわかりやすいでしょうか。 「要介護」「要支援」の状態についてもう少し詳しくご説明しましょう。 次の表をご覧ください。 「訪問歯科診療」に取り組む際、他職種の方との連携や意思疎通は欠かせませんが、要介護認定の目安を理解しておくことで、コミュニケーションもよりスムーズになります。 いかがでしたか? 今回は特に介護施設の種類や特徴、要支援と要介護、さらに要介護認定のめやすなど、「訪問歯科診療」を取り組むうえで、ぜひ歯科衛生士さんに知って欲しい知識をまとめてみました。次回は「特別養護老人ホーム」の所長さんにお話を伺いましたので、その内容をご紹介いたします。学校や外来診療では学ぶことができない介護現場のお話が満載です。ぜひ、ご期待ください。