地域社会に貢献できる歯科医師の養成を目指して
前回は、なぜ離島で歯科医療を学ぶのかについてご紹介しました。今回は、長崎大学歯学部で行われている離島歯科医学教育の概要についてお伝えします。 長崎大学歯学部では、離島・へき地をはじめとする地域社会に貢献できる歯科医師の養成を目指しています。そのためには、歯科疾患の診断や治療に関する知識・技術だけでなく、地域の医療体制や住民の生活を理解することが大切です。離島実習は、単に大学の外で診療を見学するものではありません。地域に暮らす人々の健康を、歯科医療の立場からどのように支えるのかを考える機会でもあります。では、学生たちは現地へ向かうまでに、何を学び、何を考えるのでしょうか。離島歯科医学の授業について
長崎大学歯学部では、5年次に「離島歯科医学」という科目を設けています。この授業では、離島における医療・保健・福祉の現状や、多職種連携の重要性について学びます。特徴的なのは、歯科医師以外の専門職からも学ぶ機会が設けられていることです。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など、それぞれの専門的な立場から多職種連携について理解を深めます。また、離島での歯科保健医療実習や巡回診療の取り組みについても学び、現地での実習に備えます(図1)。![]()
図1 長崎大学歯学部が開講する「離島歯科医学」の授業内容。歯科医師以外の専門職からも学ぶ機会が設けられている。 受講対象は歯学部5年次の学生で、全8回で構成される(長崎大学歯学部2026年度シラバス「離島歯科医学」、p. 276~8より筆者作成)。
特に離島における歯科医療は、歯科医師だけで完結するものではありません。高齢化が進む地域では、食事や会話といった日常生活を支えるために、さまざまな専門職との連携が必要になります。そのため、学生には、口腔の問題を歯科だけのものとして捉えるのではなく、患者さんの全身の状態や生活と結びつけて考えてほしいと思っています。離島の現場で学ぶ地域医療と多職種連携
講義で学んだ知識を実際の地域医療につなげるのが、離島での実習です。実習には、歯科医院での診療だけでなく、訪問歯科診療や二次離島の診療所、介護・行政の仕事など、地域の医療や福祉を幅広く理解するための内容が組み込まれています。 都市部では、必要な医療機関を比較的容易に受診できる場合でも、離島では移動手段や医療資源の制約が課題となることがあります。また、高齢者の在宅療養を支えるためには、歯科診療所だけでなく、地域の医療・介護関係者との連携が欠かせません。学生には、こうした現場をとおして、大学病院で学んできた歯科医療が地域のなかでどのように実践されているのかを知ってほしいと考えています。同時に、限られた医療資源のなかで地域の健康を支えている方々の工夫にも目を向けてほしいと思っています(図2)。![]()
図2 離島実習・研究者のメンバーと、現地のドライバーさんを囲んで。
将来の歯科医療に生かす
離島実習で学んだことは、将来どのような地域で診療する場合にも役立つはずです。高齢化にともない、通院が困難な患者さんや、医療・介護の支援を必要とする患者さんは今後も増えていくことが考えられます。 歯科医師には、診療室で適切な治療を行うことに加え、患者さんが住み慣れた地域で生活を続けられるよう支援する役割も求められています。離島での教育を通じて、学生には、患者さんの口腔内だけでなく、その方の暮らしや地域の状況にも目を向ける姿勢を身につけてほしいと願っています。私自身、学生に持ち帰ってほしいのは、特別な知識ではなく「この患者さんはどのような暮らしをしているのか。そして、歯科医療を通じて、その暮らしにどのように貢献できるのか」という問いです。患者さんの生活や背景を理解しようとする姿勢が、これからの歯科医療に必要であると思っております。 次回は、実際に五島で行われている離島実習に焦点を当て、学生がどのような現場を訪れ、何を経験しているのかについて、具体的にご紹介します。
著者入江 浩一郎
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科口腔保健学分野教授
略歴
- 2006年 岡山大学歯学部卒業
- 2011年 同大学大学院医歯薬学総合研究科予防歯科学分野修了
- 2012年 米国ワシントン大学歯学部
- 2015年 岡山大学病院講師
- 2017年 米国コロンビア大学医学部
- 2022年 神奈川歯科大学歯学部准教授、文部科学省高等教育局医学教育課技術参与
- 2025年 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科口腔保健学分野 教授
- 日本口腔衛生学会
- 日本歯周病学会
- 日本老年歯科医学会













