歯科医師&食育研究家として
はじめまして。 歯科医師であり、料理食育研究家でもある清水百合です。 今回は自己紹介を兼ね、現在の歯科における食育分野において私がどのような食育を目指しているかについて、その経緯、現状について紹介したいと思います。 私は20代で開業し、GPとして地域の皆様方の健康づくりに貢献すべく、日々、臨床に従事してきました。 そんな中、遠方から来られる患者様も多く、来院時には、歯の治療だけでなく、患者様の悩みを伺ったり、運動や生活全般についてのアドバイスを求められることも多々ありました。 この連載の主題でもあります食生活に関する相談もその一つです。 ときには院内で実際に身体を動かしての「メタボ対策・ヨガバレエデトックス講座」や 「アロマセルフトリートメント講座」なども開催してきました。
大人の食の乱れを決定づける幼児期の食生活
食に関しては、もともと大人を対象とした食育の一環として、「身体を錆びさせない。老化と疾病予防のための抗酸化料理」をベースに(図1)、薬膳とその人が必要とする食の摂取を考え、世界初でもある海の抗酸化力ナンバーワンの「アスタキサンチンシロップを用いて簡単お料理すること」で健康と美容への対策(予防・改善とその維持)を考えた講座を開催、その啓発にも注力してきました。
図1
A:ミント&茄子とパプリカ、林檎のラタトゥイユ風煮込
B:バナナバニラ体力アップのDentalスムージーsoup
色鮮やかな野菜類のフィトケミカルは、抗酸化作用として、バナナは疲労回復、エネルギーチャージ、自然甘味料として注目。
しかし、大人の食の乱れや嗜好には、やはり子どもの頃の食生活の影響が色濃く残っています。 それらを改善するためには、当然のことながら、幼児期の食生活から見直していく必要があります。 たとえば、糖分、塩分、脂質、化学的合成物質、栄養バランス、食の偏り、無精製や無漂白、水の問題など、見直すべき課題はたくさんあります。 子どもは大人の真似をします。 大人が楽しそうに美味しそうに食事をしていると、子どもは自分も仲間になりたくて、食卓を囲む家族の輪に入り、無意識のうちに笑顔になります。 そして小さい頃の楽しい経験は大人になってもよい思い出として残り、「美味しい」という感覚も残ります。 それが自然の食材を生かした薄味のものであっても、ジャンクフードであっても、大人になってからの「懐かしい味」となり、子ども達の嗜好が決まってきます。 胎児期から乳児、幼児、小児と成長発育するその速度と食の摂取の加減には個人差がありますが、大切なことは物理的な身体の成長だけでなく、メンタル面の成長も考えなければなりません。 子どもの自我、自立は、親が「子どもにとって必要な良質な知識」を授けてこそ、健全な自我が確立され、自立の精神が形成されていきます。 食生活も同様、親が選択肢のお手本を示さない状態で、子どもに「好きなもの」を選ばせるのは、単なるお遊び、甘やかしに過ぎません。 その先には、食わず嫌い、偏食などの間違った食生活と、それに伴う疾病などのリスクが生まれてしまいます。
素材の味を大切に―大好評の「親子教室」
以前、ある保育園で子ども達に出されるお昼ご飯とオヤツに不安を感じたママさん達が、よりよい質のものに変えたいと相談に来られました。 よくよく話をお訊きすると、ママさん達が懸念されるだけあって、これから成長発育していく子ども達にとって、決してよいとは思われないレベルのものでした。 そこで、お子さま達の成長に必要となる食品の選び方の要点を文章にまとめ、お渡ししたことがあります。 ママさん達は、私の一文を嘆願書に「専門家からの意見」として添付し、保育園に提出したところ、たちどころに以前よりずっと良質な献立に改善されたということです。 「良質」にもいろいろありますが、ここでいう良質とは安心、安全のことです。 その際に、一度ではありますが、「親子教室」を開催し(図2)、お母さん15名とほぼ0歳~2歳までのお子さま16名が一部屋に集まり、調理と食事タイムをご一緒しました。 お母さん達の調理中、子ども達は、カーペットの上をはいはいしながら、部屋いっぱいに広げられたおもちゃで遊びました。 お料理をテーブルに並べ、お母さんと一緒にお皿の前に座ると、子ども達は、お腹が空いていたのか、手づかみで「さつま芋和え」をバクバク口にほうばったり、炊き込みご飯をおかわりする子どもが続出、お母さん方は嬉しい悲鳴をあげていました(図3)。
図2
親子教室
お母さん方と幼児が一堂に会し、楽しいひとときを共にする。
A:調理中の様子
B:食事タイム
図3
さつま芋和えと炊き込みご飯
「こんなにイキイキと、目を輝かせて食事する我が子の姿を初めて目にした」と、感激されているお母さんもおられました。 もちろん、同じ年頃の仲間と一緒の食事会という雰囲気もあると思いますが、なによりも、自然の素材の味を大事に調理し、よい香りが立ち込めるお料理は、チビちゃん達の食欲をおおいに刺激したのでしょう。 ご機嫌に召し上がっていた子ども達、嬉しそうなママさん達の光景を思い出します。
注目される“飲んで食べるドリンク”
私の食育は、幼児から高齢者まで、さまざまな角度から個々の対象者に合わせて用いることができるように、という考えを基本としています。 子どもの頃から基本的に気遣うべき点は大切にすることは当然ですが、不幸にして、身体にトラブルが発生した際にはそれに適する食事を摂るということが大事です。 たとえば、歯科治療中の抜歯後には、炎症をおさえるなどの食材を、やわらかく食べやすく調理した料理を食べることが、口腔のみならず身体の健康にとって必要となります。 また、これらの食事が、中高齢者にとって気になるアンチエイジングにも効果的であることをお話しすると、急に熱心に耳を傾けはじめる患者様もいらっしゃいます。 ちなみに、図4の著書には治癒食として、どういった食材を用いて調理した料理がいいのか、レシピについても記しています。 興味のある方は、ぜひご一読いただきたいと思います。
図4
「アンチエイジング歯科医からの積極的治癒食」
発行:フレグランスジャーナル社
食事と同時に大切なのは飲み物です。 食事や食材については、カロリーやたんぱく質、炭水化物がどうのこうのと、気を遣う方も、こと飲み物に関しては驚くほど無頓着であるというのが現状です。 いつも人工的な色や香りがついていたり、白砂糖を大量に用いたジュースを飲んでいれば、齲蝕や骨の弱い子になってしまいます。 大人も例外ではなく、歯肉炎、肥満、糖尿病など、全身の健康にさまざまな影響を及ぼします。 簡単に手に入り、摂取できる飲み物であるがゆえに、歯科医師・料理食育研究家として危機感を抱いた私は、いろいろな試行錯誤を経て、「Dentalスムージーsoup」と「メディカルデトックスハーブ水」を考えました(図5)。
図5
話題の「飲んで食べるドリンク」
A:「Dentalスムージーsoup」
B:「メディカルデトックスハーブ水」
そこで現在、この2つの食材の講座を各地歯科医院の院内研修として行っています。 いずれも、砂糖0gからの血糖値コントロールに加え、栄養価はもちろんのこと、レシピにその食材を用いることの必要性を多角的に検討、考慮された「飲んで食べるドリンク」です。 ほんの一例ですが、幼児、小児を対象としたメニューには、虫歯予防のスムージーsoupや、幼児、小児のスムージーsoupなど、乳歯の萌出や虫歯、幼児の好き嫌いを考慮した飲み物があります。 スポーツドリンクを飲むのであれば、図5のような「メディカルデトックスハーブ水」を代わりに飲むことをおすすめします。 連載の1回目として、駆け足で、私のバックグラウンド、来歴を書きました。 次回は胎生期から乳児の頃の口腔内や全身のお話と、栄養面で配慮すべき点、それに適するDentalスムージーsoupやメディカルデトックスハーブ水のレシピなどについてご紹介したいと思います。
(今回の記事は小児歯科臨床2016年12月号からの出典になります。)
協力:月刊「小児歯科臨床」