「魔法の箱」
「滅菌をするのには何が必要ですか?」とよく臨床現場で研修医や若手歯科衛生士たちに問いかけます。
(この滅菌器、ボタンを押して・・・えっと。)
それからは皆さん考えこんでしまいます。
「え? ボタンを押したら滅菌できるのですか? じゃ、お水はどこに入ってますか?」
「蒸気を作るには、水がないとできないですよね? ところで飽和蒸気って何ですか?
ほら、小学5年の理科あたりで、やかんを沸騰させると最初に出る無色の蒸気、空気に触れると白くなる。」
(あ、そうか!)
これを読んでいらっしゃる皆様、滅菌器はスイッチを押せば、滅菌ができると思っていませんか?
そんなにすごい魔法の箱ってあるのでしょうか?
滅菌器から出てくる物、ほんとに滅菌ができているという証拠はありますか?
なら証拠を出せー!です。
「その滅菌器はちゃんと作動しているのでしょうか?」
(メインテナンスしていますか?)
「ちゃんと蒸気で満たされていますか?」
(蒸気があたってないと滅菌されていませんよ。もしかしたら 詰め込みすぎていませんか?)
「インジケータで滅菌されていることを確認していますか?」
(あ、色が変わるやつ? テープが茶色? いえいえ、それじゃわかりません。それは、ただ熱を受けたから変わるだけです。ちゃんと蒸気があたってる証拠があるインジケータのことです。ところで、お水は定期的に替えていますよね?)
滅菌する前に器材はいきなり消毒液などに触れさせず、まずはきちんと洗浄していますか?
(血液のタンパク残留はないですか? 汚染物をきちんと洗浄してから滅菌です。)
先日、日本医療機器学会に参加してきました。
私は歯科衛生士ですが、インプラントのセミナーや講演をすることもあり、日本医療機器学会の第二種滅菌技士を取得しました。
この資格は他に医師、歯科医師、看護師、臨床検査技師、薬剤師、歯科のメーカーの方も取得されています。
今回の学会では、ドイツから来られたDr.Ulrich kaiser先生が講演されました。
ヨーロッパ医療機器指令によると、きちんとした滅菌を行っていないと監査が入り、閉鎖させられる施設があるとのこと。
国が力をあげ、その環境を守っているのです。
かなり徹底されているのだな、と驚きました。
日本のメディアでは、このところ何やら騒ぎが始まっています。
タービンが滅菌されずに使い回されていることから始まり、そこから出る水が汚いこと、そして7月にはグローブが患者さん毎に変えられていないと、次から次へと指摘があがり、慌てた施設が滅菌器を買い求め完売になり、使用済みグローブのごみの山の画像を載せるなど、異様な光景が見られました。
そのようなことでバタバタしていることなど、それは今の欧州では考えられないことなのです。
インプラントが導入されてから、欧州では滅菌に対する考えが急速に変わったのだそうです。
タイムマシーンにのって見たものとは
1995年、私はドイツのマンハイムのとある病院で、インプラントのオペのアシスタントの研修を受けました。
オペの介助に入るために、手洗いのブラシを探していると、そんなものはないとのこと。
「朝手洗いをしたら、アルコール製剤を噴きかけて滅菌グローブで良い?まさか」それから10年後、2005年、日本においてCDCガイドラインにより、「術前手洗いのブラシはスタッフの皮膚にダメージを与え、手の細菌の排出増加につながる」と発表されました。
2007年のスウェーデンにおける感染管理の研修では、使用済みの器材は手洗いをせずにWD(ウォッシャーディスインフェクター)にかけられ、Bクラスの滅菌をされていました。
それはまるで、タイムマシンに乗って、未来を見てきたかのようでした。
そう、日本は10年遅れているのです。
さて、「魔法の箱」の正体とはなんでしょう? その正体を知ることで「滅菌をしている!」と胸を張って言えるのです!
「WDって? 何? ヨーロッパ基準クラスB滅菌器とは?」
皆様、今一度調べてみましょう。
こちらで様々な滅菌器の紹介をしています。
IC Clave
スマートクレーブ
EⅡクレーブ
IC Washer
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