阿部田 暁子の『何か良いこと見つけたい。』
Vol.2「魔法の箱」
2017/11/2 デンタル〇〇デザイン

「魔法の箱」
「滅菌をするのには何が必要ですか?」とよく臨床現場で研修医や若手歯科衛生士たちに問いかけます。 (この滅菌器、ボタンを押して・・・えっと。) それからは皆さん考えこんでしまいます。 「え? ボタンを押したら滅菌できるのですか? じゃ、お水はどこに入ってますか?」 「蒸気を作るには、水がないとできないですよね? ところで飽和蒸気って何ですか? ほら、小学5年の理科あたりで、やかんを沸騰させると最初に出る無色の蒸気、空気に触れると白くなる。」
(あ、そうか!) これを読んでいらっしゃる皆様、滅菌器はスイッチを押せば、滅菌ができると思っていませんか? そんなにすごい魔法の箱ってあるのでしょうか? 滅菌器から出てくる物、ほんとに滅菌ができているという証拠はありますか? なら証拠を出せー!です。
「その滅菌器はちゃんと作動しているのでしょうか?」 (メインテナンスしていますか?) 「ちゃんと蒸気で満たされていますか?」 (蒸気があたってないと滅菌されていませんよ。もしかしたら 詰め込みすぎていませんか?) 「インジケータで滅菌されていることを確認していますか?」 (あ、色が変わるやつ? テープが茶色? いえいえ、それじゃわかりません。それは、ただ熱を受けたから変わるだけです。ちゃんと蒸気があたってる証拠があるインジケータのことです。ところで、お水は定期的に替えていますよね?)
滅菌する前に器材はいきなり消毒液などに触れさせず、まずはきちんと洗浄していますか? (血液のタンパク残留はないですか? 汚染物をきちんと洗浄してから滅菌です。) 先日、日本医療機器学会に参加してきました。 私は歯科衛生士ですが、インプラントのセミナーや講演をすることもあり、日本医療機器学会の第二種滅菌技士を取得しました。 この資格は他に医師、歯科医師、看護師、臨床検査技師、薬剤師、歯科のメーカーの方も取得されています。 今回の学会では、ドイツから来られたDr.Ulrich kaiser先生が講演されました。 ヨーロッパ医療機器指令によると、きちんとした滅菌を行っていないと監査が入り、閉鎖させられる施設があるとのこと。 国が力をあげ、その環境を守っているのです。 かなり徹底されているのだな、と驚きました。 日本のメディアでは、このところ何やら騒ぎが始まっています。 タービンが滅菌されずに使い回されていることから始まり、そこから出る水が汚いこと、そして7月にはグローブが患者さん毎に変えられていないと、次から次へと指摘があがり、慌てた施設が滅菌器を買い求め完売になり、使用済みグローブのごみの山の画像を載せるなど、異様な光景が見られました。 そのようなことでバタバタしていることなど、それは今の欧州では考えられないことなのです。 インプラントが導入されてから、欧州では滅菌に対する考えが急速に変わったのだそうです。
タイムマシーンにのって見たものとは
1995年、私はドイツのマンハイムのとある病院で、インプラントのオペのアシスタントの研修を受けました。 オペの介助に入るために、手洗いのブラシを探していると、そんなものはないとのこと。 「朝手洗いをしたら、アルコール製剤を噴きかけて滅菌グローブで良い?まさか」それから10年後、2005年、日本においてCDCガイドラインにより、「術前手洗いのブラシはスタッフの皮膚にダメージを与え、手の細菌の排出増加につながる」と発表されました。 2007年のスウェーデンにおける感染管理の研修では、使用済みの器材は手洗いをせずにWD(ウォッシャーディスインフェクター)にかけられ、Bクラスの滅菌をされていました。 それはまるで、タイムマシンに乗って、未来を見てきたかのようでした。 そう、日本は10年遅れているのです。
さて、「魔法の箱」の正体とはなんでしょう? その正体を知ることで「滅菌をしている!」と胸を張って言えるのです! 「WDって? 何? ヨーロッパ基準クラスB滅菌器とは?」 皆様、今一度調べてみましょう。
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