TOP>MoreSmile>これからの歯科衛生士の業務”口腔機能管理”

MoreSmile

これからの歯科衛生士の業務”口腔機能管理”

これからの歯科衛生士の業務”口腔機能管理”
これからの歯科衛生士の業務”口腔機能管理”

1.口腔機能で重要なのは治療ではなく管理?

近年、歯科では「口腔機能発達不全症」や「口腔機能低下症」など機能的疾患が注目されてきていることから、私たち歯科衛生士の業務にも徐々に変化が表れています。そのことについて説明するため、日本歯科医学会による「口腔機能発達不全症に関する基本的な考え方」の中で使われている「評価と管理の概要」(図1)をとり挙げてみました。 図1.口腔機能発達不全症の評価と管理の概要 ここで注目してほしいのは、これまでの器質的疾患では当然のように見られた治療方法という言葉がどこにもない点です。しかし、よく見てみると図の中央にある「管理(訓練・指導)」が治療方法に該当しそうなことが分かります。ではどうしてこのようなことになっているのかというと、的確に説明できる読者の方はあまりおられないのではないかと思います。それも当然のことで、学校で習ったこともなく、書籍でも触れられることもほとんどないからです。実をいうと、筆者も感覚的には分かっていたのですが、うまく説明することができませんでした。しかしながら、昨年参加した勉強会の中で大変理解しやすい表をもとに、その違いの説明をしていただく機会に恵まれました。ここでは、作成者の了解を得ることができましたのでそれを紹介いたします(表1)。

2.器質的疾患と機能的疾患

ここでは代表的な器質的疾患としては"う蝕"、機能的疾患としては"顎関節症"を思い浮かべてください。まず表1では、その病態から両者の違いを"見えるものを診る"から"見えないものを診る"への意識の変換と捉えています。また、療法では"治療"と言わずに"管理"という用語を使っています。これは機能的疾患の症状が未病段階であるということによるものです。さて、ここでもまた"未病"という聞きなれない言葉が出てきましたが、これは「健康以下で病気未満の新たな領域を表す健康観」を指すもので、分かりやすく言えば健康と病気の中間にあるものと考えてください。皆さんが知っている例えでいえば、「要観察歯:CO」です。予防充填は歯科衛生士業務ですが、この管理もまさに私たちの業務なのです。これで理解しやすくなったのではないでしょうか。 このことは、歯科衛生士会のホームページ(https://www.jdha.or.jp/)において三大業務の一つ、保健指導の中で「最近では、‥‥摂食・嚥下機能訓練も新たな歯科保健指導の分野として注目されています。」と述べられていることや、同学会「認定歯科衛生士」の研修の中でも「口腔機能管理」として項目立てされていることからも分かります。

3.口腔機能管理と口腔ケアの関係

このように話を進めてくると、「あれ"口腔機能管理"というのは"口腔ケア"のことではないのですか?」と不思議がられる方もおられるのではないかと思います。実はその通りで、そもそも「口腔機能管理」という用語は2005年ごろから使用され始め、平成20年(2008年)度診療報酬改定の中で後期高齢者在宅療養口腔機能管理料という形で公になった新しい用語なのです 1)。機能管理と口腔ケアの関わりについては、眞木論文 2)に詳しく記述されているのでその要点を引用させていただきます。 口腔ケアと口腔健康管理 「口腔ケア」は、口腔清掃を主とした口腔環境の改善を表す用語として一般によく用いられてきたが、歯科ではこれに加えて口腔機能の回復や維持・増進をめざした行為すべてを含むものとして使用することもあり、定義づけることは容易ではなかった。このような状況から日本老年歯科医学会は日本歯科医学会の学術用語委員会と連携を取り、2016年「口腔ケア」は口腔環境と口腔機能の維持・改善を目的としたすべての行為をさす一般用語と位置づけた。学術用語としては、口腔清掃を含む口腔環境の改善など口腔衛生にかかわる行為を「口腔衛生管理」、口腔の機能の回復および維持・増進にかかわる行為を「口腔機能管理」とし、この両者を含む行為は「口腔健康管理」と定義した(図2)。 図2 口腔健康管理の概要 図中にそれぞれの業務内容を詳しく記載されていますが、そのすべてが歯科衛生士業務であることは見られてすぐにお分かりのことと思います。ここで注意すべきことは、口腔衛生管理はすべて学校で教わっているのに対し、口腔機能管理は教わる機会が少なかったという点です。これは前項の歯科衛生士会のホームページで述べられているように最新の学問分野だからです。ここで歯科衛生士業務の変遷を見てみますと、1948年に歯科衛生士法が制定された当時は「歯牙及び口腔の疾患の予防処置」のみでしたが、その後1955年に「歯科診療の補助」、1989年には「歯科保健指導」が加わるなどして徐々に拡大しながら現在に至っています。その経過をよく観察してみると、社会通念上の変化とともに該当業務についての教育訓練が行われ、その後現場での当該業務の遂行を追認するような形で法的に業務の拡大が行われてきたことが分かります。 ということは、私たち歯科衛生士は学校で習ったことをしていれば、一生安泰ということではないのです。いや、正確に言うと生涯勉強して常に最新の知識をもって業務に当たらなければならないのです。その手始めが「口腔機能管理」だと思ってください。

4.口腔機能管理

前項で「口腔機能管理」とは、口腔の機能の回復および維持・増進にかかわる行為とされ、具体的には機能訓練と指導であるところまでは分かっていただけたことと思います。しかしながら、ここからが難解で詳しく説明するにはページが足りません。また、それらを理解するための基礎となる知識も勉強しなければなりません。そのため、ここでは口腔機能管理の基本的な概念や知識についてお話しさせていただきます。 (1)最も重要なことは、口腔機能を理解するためには筋肉の解剖そして生理と働きを知っておかなければならないということです。筆者も衛生士学校を卒業後、矯正歯科医院に勤務していたことからMFTのセミナーにも何度か参加したのですが、当時は筋肉に関する知織が乏しかったため、十分に内容を理解することができず、少し残念に思っています。 図3 運動動作では"解剖"と"筋肉の生理と働き"が重要 (2)ここで注意しなければならないのは、マッサージやストレッチングは「保健指導(機能管理)」として扱われる場合と「補助業務」として扱われる場合があることです。その違いは、訓練・指導などの機能管理は患者さんのエネルギーを用いて行うのに対し、歯科衛生士(術者)のエネルギーで行う療術は徒手療法と呼ばれ診療補助となります。この区別方法はしっかり理解されておかれたほうが良いでしょう。 図4 口腔機能管理(運動療法)と診療補助(徒手療法)の違い (3)訓練・指導では必ずプラス効果と同様にマイナス効果も出てきます。このマイナス効果も挙げればきりがないのですが、最近の機能訓練や徒手療法では舌骨上筋群や下筋群、さらには胸鎖乳突筋などの頸部の筋肉を取り扱うことがあるため、頸動脈洞反射についてお話ししておきましょう。今回いろいろ多くのことを述べましたが、この頸動脈洞反射についての知識は今後も役に立つと思いますのでぜひ覚えておいてください。 図5 頸動脈洞の解剖学的位置 頚動脈洞は、総頸動脈が外頸動脈と内頚動脈の枝分かれするところに存在し動脈圧をモニターしています。頸動脈洞反射とは、この部位を刺激することで動脈圧が下降する現象です。本反射は、美容院で洗髪する際に頭部を後倒する姿勢によっても誘発され、徐脈性失神をおこすことから、美容院失神症候群3)として知られています。このような姿勢は、歯科診療中の姿勢と類似していることから注意が必要です。ここで適切なマキシラアングルは患者さんの姿勢や身体特性によりますので、むやみに数値だけに頼らないようにしてください。そのためには常に患者さんの反応を見る習慣をつけておくことが肝要です。 ここで述べたような口腔機能訓練や指導を極めようとすると、かなりの経験と知識が必要となってきます。ここで筆者がお勧めしたいのが「ガムを利用した運動療法」です。本法には、機能訓練や指導のすべての要素が入っており危険な手法も少ないため、特に初心者の方に向いた技法です。まずは、"お口ぽかん"の改善のため口を閉じてガムを噛ます指導から始められてはどうでしょう。 現在、モリタのデンタルプラザにおいて「ガム噛むトレーナー」資格習得のコンテンツが掲載されています。本資格は、ガムの販売を促進するための資格ではありません。不必要であったり間違ったりしているガムの噛み方を改善指導するための資格です。是非一度ご覧ください。
1)石井拓男:後期高齢者医療制度と歯科保健医療、老年歯学、23:83-89,2008. 2)眞木吉信:なぜ、専門用語を「口腔ケア」から「口腔健康管理」に変えるのか?老年歯学、35:4-7,2020. 3)榊原吉治:歯科に関連した急変~何を考え、どう行動すべきか?~、日本歯科医師会雑誌、74:4-12,2021.

著者姫野かつよ

タケウチ歯科クリニック 健康運動指導士/歯科衛生士

略歴
  • 1977年 聖母女学院短期大学卒業
  • 1990年 年京都歯科医療技術専門学校卒業
  •     矯正歯科クリニック勤務
  • 1997年 タケウチ歯科診療所契約勤務
役職、資格関係(経歴含む):
  • 京都歯科医療技術専門学校非常勤講師
  • 日本スポーツ歯科医学会代議員
  • 日本スポーツ歯科医学会認定スポーツデンタルハイジニスト
  • 健康運動指導士
  • 日本赤十字救急法救急員
姫野かつよ

tags

関連記事