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口から食べる幸せを支える、看護の現場から あなたは患者さんの幸せに貢献できていますか?

口から食べる幸せを支える、看護の現場から あなたは患者さんの幸せに貢献できていますか?
口から食べる幸せを支える、看護の現場から あなたは患者さんの幸せに貢献できていますか?
皆さんは、患者さんの口腔の健康や咀嚼のことだけでなく、今日何を食べ、毎日をどう過ごしていらっしゃるかを考えたことがありますか?超高齢社会を突き進む日本で、患者さんのQOLを向上させる取り組みが、医科・歯科の枠を越えた連携のもとに求められています。日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定看護師の小山珠美 先生にそのヒントとなる看護現場の動きについて伺いました。

「口から食べる」機能を回復させることは、生きる力につながる

要介護高齢者の増加により、食べる機能が低下している患者さんが多く存在するようになってきました。「口から食べる」ことは、生きることそのもの。口から食べる機能が回復すると、人がもともと持っている様々な機能が呼び覚まされてきます。口から食べるためには、体を起こし食べるための姿勢を取ります。体を起こすと視覚に食べ物の情報が入り、匂いと共に脳に食べ物の記憶が蘇ります。自分の手を動かし、あるいは介助する人の手によって口に食べ物が入ると、口を閉じて咀嚼が始まり唾液も分泌されてきます。そしてごっくんと飲み込む。美味しいなと思ったら、また食べたいな、と思う。その気持ちが次の一口を能動的な動きに変え、生きる力へとつながっていくのです。 その「口から食べる」機能を訓練によって回復させるのが、私たちが取り組んでいる摂食嚥下リハビリテーションです。しかし看護の現場ではこれまで、食べる支援の優先順位は低く、あまり注目されることはありませんでした。

誤嚥を恐れるあまり、口から食べる幸せが奪われていく現実

総合リハビリテーション病院に看護師として勤務し、看護学校の教員を経て、1995年に脳卒中専門の病院に異動した頃のこと。経管栄養療法(胃ろう)が急速に普及し始め、本来は口から食べることができるはずの患者さんまで「誤嚥の危険性がある」として食べることを禁止するケースが多くみられるようになりました。もちろん経管栄養が必要な患者さんもいますし、それを希望されるケースもあります。しかし一方で、必要かどうかが十分検討されたり、適切なケアを行われないまま、嚥下造影検査や嚥下内視鏡などの一側面だけで、経口摂取は困難と言う判断が下されることに疑問を感じました。 「誤嚥性肺炎などのリスクを避けるために、簡単に口から食べる楽しみを患者さんから奪っていいの?医療の現場で起きていることをもっと強く社会に発信しなくてはいけない。同じ目的意識を持つ仲間を1人でも多く増やすことで、食べること・いのちの現場を変えよう!」そうした考えから、2012年にNPO法人「口から食べる幸せを守る会」を設立し、活動をスタートさせました。

患者さんのQOL向上のためには多職種・多面的な取り組みが必要

人は体の一部分の機能だけで生きているわけではありません。摂食嚥下障害の患者さんにどう対処するかを考える時、その人が咀嚼できるとか飲み込めるとか、1つの機能だけで判断するのではなく、自分の口で食べ続けたいと願っている人として、全体で捉えることが大切です。患者さんそれぞれの生活の中で、今できることや頑張りを強みとして維持し、できないことを支えながら訓練によって良好な機能を引き出していくのです。 それは患者さんごとに違いますし、1つの職種、1つの専門家だけで支えることはできません。多職種で多面的なケアプランを立ててアプローチしていくことが重要なのです。NPOも草の根的な小さな団体ですが、実技セミナーを中心に全国で活動を展開し、参加者は、医師・看護師だけでなく、管理栄養士、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士、歯科医師、歯科衛生士など、大きな広がりを見せています。

包括的に患者さんを支える「KTバランスチャート」という考え方

草の根の活動が広がりを見せる中で、多職種の人が連携して患者さんを支えるための、共通の指標が必要であることを感じました。そうして生まれたのが、患者さん1人ひとりの包括的な評価に支援スキルを組み合わせた「KT(口から食べる)バランスチャート」です。 もちろん、チャートの点数で評価するだけで終わってしまっては現状維持のまま。 大切なのはこの結果に、何点からでもステップアップできるプランを示し、トライして行くこと。口を開けないから食べさせるのを止めました…ではなく「こんな支援をすれば、こんな食物形態にすれば、食べられるようになるはず!」どんな患者さんにも、次の一手が必ずあるのです。 嚥下に関わる機能だけではなく全身状態や姿勢等の13の項目(図1)を通して、患者さんをそれぞれ0点から5点で評価。これをレーダーチャート化(図2)することで、患者さんの強みと弱みを可視化します

小山先生から歯科衛生士のあなたへのメッセージ

あなたも私も、患者さんの幸せに貢献するメンバーの一人です 歯科衛生士であるあなたに、私は問いたいと思います。あなたが口腔ケアを担当した患者さんが、実際に食べている現場を見たことがありますか? 口腔ケアやスケーリングなど、あなたが患者さんに行っていることは、あくまでも手段にすぎません。あなたが目指すのは、目の前の患者さんのQOLを上げること、患者さんの幸せへの貢献です。患者さんが美味しく食べて健康に過ごせてこそ、本来の目的が果たせたことになります。もちろん歯科の専門的知識やスキルは必要ですし、自分の職種に誇りを持ってほしいのですが、それだけに満足してほしくない。目の前の患者さんが何を求めているのか、体の具合はどうなのか、どんなものをどれくらい食べているのか、その栄養状態はどうなのか…と考え、自分ができることを最大限やれる人になってほしいのです。 もちろんわからないことも出てきます。そこは謙虚に、その職種の専門家に尋ね、本来目指すものに向かっていく姿勢が大事だと思うのです。 「木を見て森を見ず」ということわざがありますが、木も森も見る、つまり部分と全体を見る目を持ってください。歯科衛生士さんであるあなたのお仕事は、最期まで自分の歯で、自分の口から美味しく食べたいと考えている患者さんを支えること。 歯科や医科の分野を超えて、一緒に患者さんの幸せに貢献していきましょう。

著者小山 珠美

日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定看護師
NPO法人「口から食べる幸せを守る会」理事長
JA神奈川県厚生連 伊勢原協同病院 看護部勤務

  • 看護の現場で摂食嚥下障害の患者さんを支援する傍ら、
  • 自ら立ち上げたNPO法人「口から食べる幸せを守る会」の活動として、
  • 日本全国での講演、実技セミナーを精力的に展開。
  • 口から食べることの大切さを、医療にかかわる
  • 多職種の方に広める取り組みを続けている。
  • 著書に「口から食べる幸せをサポートする包括的スキル
  • -KTバランスチャートの活用と支援-」(医学書院)など。
小山 珠美

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