現在、3歳児の齲蝕罹患者率は8.6%、1人平均df歯数は1.0歯である(平成28年(2016年)歯科疾患実態調査)。 しかし、45年前の昭和50年(1975年)ではそれぞれ82.1%、5.98歯であり、現在の齲蝕罹患者率は約1/10に、1人平均df歯数は約1/6となっている。 ちなみに当時の2歳児の罹患者率は49.3%、1歳児で10.4%であった。 筆者は、乳歯齲蝕が減少した背景には、乳幼児歯科健診との関係が深いと考えている。 昭和50年当時、すでに3歳児では齲蝕が多く、この時期からの指導では手遅れだった。 このような背景から、まだ齲蝕の少ない1歳6か月児健診時に歯科指導が始まった。 そこで、まず夜間哺乳瓶の使用中止の指導により、タイプAの上顎乳前歯部の残根など重症齲蝕が減少した。 そして、上顎乳前歯部の齲蝕が軽症化しタイプBに移行した。 また間食回数の制限(規則的に与ええる・2回以下)、保護者による介助磨き(特に上顎前歯部)の指導がされるようになった。 ところで、2歳前後はもっとも歯磨きを嫌がる時期である。 嫌がる子どもを押さえつけて磨けばよいのか? それとも、そこまでして磨かねばならないのか? この点に関し筆者は、"口腔"を"部屋"に例えて伝えている。 すなわち"歯磨きは、部屋の掃除"と同じである。 部屋の掃除が困難であれば、汚さないことを考えればよい。 困難な時期は、砂糖を制限し口腔を汚さない努力をすれば良い。 "部屋の掃除をする"ことに目を向けるか? それとも"汚さないこと"を心掛けるか? これが間食指導の重要な点である。 2つの視点から考えると、おのずと答えが導き出される。 さて"インプリンティング(刷り込み)"の言葉はご存じだろうか? 「三つ子の魂 百まで」という言葉がある。 "おふくろの味"も同様だ。 3歳までに受けたしつけや教育は、一生変わらない。 発達のごく初期に受けた刺激は、生涯の基盤となる。 例えば、サケは河川で生まれた後、成魚になり太平洋を回遊する。 そして産卵の時には、自分が生まれた河川に戻って来る。 サケは、生まれた河川の水のにおいを憶えて帰ってくるという。(におい刷り込み説) すなわち幼児期に受けた刺激は、成熟後も求めるようになる。 3歳まで甘い物を口にしなければ、"甘過ぎるものはイヤ"という子に育つ。 "甘い味を教えて、後で我慢させる"のと、初めから"甘い味を教えない"のでは、どちらが親切だろうか?
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!
- 岡崎先生ホームページ:
https://okazaki8020.sakura.ne.jp/ - 岡崎先生の記事のバックナンバー:
https://www3.dental-plaza.com/writer/y-okazaki/