病巣感染の原病巣として、"扁桃"と"歯・口腔"があげられる。 残念ながら、両者の直接的な因果関係を証明するのは難しい。 しかし、歯性病巣感染を見逃しているケースは、山ほどあるように考えている。 筆者が勤務していた岡山大学病院 小児歯科での話。 ある日、小児科から紹介状を持ち、若い小児科医と入院中の子どもが訪れた。 担当医は、病棟カルテを持参されたので見せていただいた。 そこには、教授回診で指示されたことが口述筆記されていた。 教授「いろいろな治療を試みて治らなければ、口の中に原因があることが多いので、小児歯科へ紹介しなさい」。 そこで慌てて連れてきたようである。 乳歯に多数の重症齲蝕があり、抜歯をすると症状は快癒した。 こんなケースがあると、小児科の医局でも話題になるのだろう、続けて何枚もの紹介状をいただいた。 おかげで、歯科治療で改善したケースを多数経験した。 小児科で考えられる治療を施した後なので、歯が原病巣である可能性が高かったのだろう。 まさに、医科歯科連携のおかげであった。 その中で、忘れられないケースを紹介する。 小児科から紹介されてきた4歳児、小柄で顔色も悪い。 病名は、ヘノッホ・シェーライン紫斑病。 小児に多い、全身の小血管炎で難治性の病である(現在では、IgA血管炎と呼ぶ)。 保護者の話では、大阪に居住し通院していたが、良くならないので空気の良い場所への転地療法を勧められた。 そこで両親は、仕事を辞し自宅を売り、岡山へ引っ越しされた。 しかし、こちらに来ても一向に良くならない。 そこで小児科から、紹介されてきたのだ。 まず基本は、原因歯の抜歯である。 しかし、それをすると噛める歯がなくなってしまう。 仮に乳歯義歯を作っても、年齢的に装着してくれそうにない。 この状態で、本当に抜歯することが正しいのだろうか? 悩むところである。 そこで保護者と相談し、まず根管治療後に乳歯冠を装着し、噛める口を作ることを目標とした。 それでも、症状が改善されなければ抜歯することで同意を得た。 歯冠の崩壊が著しかったが、何とか乳歯冠の装着までこぎつけた。 以後、狙い通り再発することはなかった。 彼は、その後サッカーに打ち込み、いつも真っ黒な姿をして定期健診に訪れていた。 そんな彼は、そろそろ40歳、どこかで元気に暮らしているだろう。 病巣疾患の原因歯を抜歯するか?噛める歯を作って体力を高めるか? どちらが正しいかったか、未だにわからない。 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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