エビデンスの背景にある"Why"を考え、治療方針"How to"を導く!
『"Why"から"How to"を導く実践 歯内療法エビデンス×テクニック×バイオロジー
歯内療法は比較的難しい歯科治療であり、「なぜ病気が治らないのか」「なぜ治療がうまくいかないのか」といった悩みをもつ歯科医師も多いと思われる。私は米国・ニューヨーク大学で歯内療法専門医教育に長年携わっているので、その悩みをもつ歯科医師に教育者として指導を行うことが多い。
歯科医師は、「施した治療のどこに間違いや不十分な判断があったのか」「自分の判断の正当性を裏付けることができるのか」などに気づくことが重要だ。この気づきこそが、どこを改善すれば予知性の高い治療が実現できるかを可能とする第?歩である。しかし、これはなかなか容易なことではない。
本書は、米国でトレーニングを受けた3名の歯内療法専門医が執筆しており、臨床で遭遇する現象に対して「なぜそうなったのか」、複数の事実の間に因果関係があるとすれば、「それはどのような因果関係が存在するのか」について、その解明に必要な知識と論理的思考方法を解説している。
書籍の内容は、歯内療法学の基礎から最近のトピックまで幅広くカバーし、それは、病因と治癒、診査・診断、治療計画、非外科的および外科的歯内療法、歯髄保存と再生療法、合併症、疼痛である。読者が容易に内容を理解できるよう多くのカラフルな図表とイラストが用いられ、歯内療法学の幅広いトピックを簡潔にまとめている。
臨床の重要なポイントは、わかりやすく明示され記憶に定着しやすい。これにより、歯内療法学の各トピック内容の関連づけが容易になり、因果関係の解明に必要な知識と論理的思考の実践を容易にする。
歯内療法は、いまだ直視ができない比較的難しい歯科治療で、術前・術中・術後においても確固たる(普遍的な)治療判断が確立できていない。したがって、術者の臨床能力、技量により、治療結果に多大な影響を与える施術のひとつとなっている。
歯内療法を行う術者は、客観的エビデンスを判断基準にして治療すべきと認識している。しかし、現実はすべての臨床課題に対して確固たる科学的裏づけはない。本書では、臨床で遭遇する課題に対して、生物学的基礎知識をその解決に紐づける論理的思考の重要性とその方法を示している。
加えて、現在入手できるもっとも信頼できる科学的根拠を示し、その背景にあるバイオロジーを理解したうえで、臨床で使うテクニックを解説している。それにより、読者は実践的歯内療法の重要なポイントを簡単に知ることができ、日常臨床で遭遇する現象の背景を理解することで、なんとなく治療を行うのではなく、何が間違っていたのかに気づき、その対処方法も考察できるようになる。
本書の内容は臨床でたいへん有用だと感じているため、読者諸氏にとっても熟読しておくと臨床で役に立つ?冊となるだろう。
評者:岡﨑勝至
(ニューヨーク大学歯学部歯内療法学)
嘉村康彦/田中利典/遠藤祐人・著
クインテッセンス出版
問合先:03-5842-2272(営業部)
定価:9,900円(本体9,000円+税10%)・168頁
肉芽組織とは?残すべきか?掻爬すべきか?
『肉芽の科学と臨床 ペリオ・抜歯・エンド・GBR・インプラント周囲炎での対応』
肉芽組織への招待は下野正基先生の総論から始まる。肉芽組織は、多くの臨床医が日常的に目にする臨床像であるが、頭に「不良」と付け加えた方がなじみが深い。本書は、総論、ペリオ(2項目)、抜歯、エンド、GBR、インプラント周囲炎と7つのCHAPTERで構成され、それぞれの分野で活躍されている研究者・臨床医が、肉芽組織との関わり合いを論じている。そもそも肉芽組織という切り口で構成された書籍自体がなかったこともあるが、簡潔・明解で、読者を惹きつける上手な仕掛けが施されている。
このプロジェクトの発端は、「不良肉芽」なる用語への問いかけのようにさえ思える。冒頭から、肉芽組織とは治癒した組織、すなわち「優良」な組織で、私たちが頻繁に使う「不良肉芽」という文言は適切ではなく、正確には「炎症をともなう組織(もしくは感染した組織)」と呼ぶべきであると提唱している。また、肉芽組織が関与する病変として①創傷治癒、②組織欠損の補充、③異物処理、④炎症を挙げ、除去すべきは「炎症をともなう肉芽組織」であり、前記①~③で現れた肉芽組織とは分けて考えるべきとしている。
CHAPTER2の「歯周病と肉芽(1)」では、徹底したプラークコントロールを行い「ぬれた歯肉」から「乾いた歯肉」へ変化したときがSRP開始の時期であり、この時期が「炎症をともなわない肉芽組織」を掻爬しないタイミングであるという知見を紹介している。一方、CHAPTER3の「歯周病と肉芽(2)」では歯周炎の本質を考えればバイオフィルム、歯石・感染セメント質、慢性炎症性組織(不良肉芽)を除去することの必要性が提示されている。
CHAPTER4では抜歯窩の治癒過程に肉芽組織は必須であるが、炎症性肉芽組織の取り残しは抜歯窩の骨化を妨げることが述べられている。
CHAPTER5ではあまり語られてこなかったエンド領域での肉芽の話題だ。根尖病変の肉芽組織は根尖孔を経由した根尖周囲組織の反応であり、根管からの細菌の刺激を遮断すると病変は治癒に向かうという見解から最近話題のリバスクラリゼーションや穿孔・外部吸収まで網羅している。
CHAPTER6および7のGBR、インプラント周囲炎では、人為的な介入がなければ起きない疾患という認識をもつことが大切で、感染した肉芽組織は除去すべきとしている。
全編にわたり、豊富な基礎資料とあえて文字を少なくした読みやすい構成は、臨床経験の浅い者にも伝わるようにという編者の思いであろう。穏やかな口調で語られる解説と臨床観察に根ざした緩まぬ好奇心に多くの臨床医が心酔する下野正基先生だからこそ、すばらしい著者らが集結し本書が綴られている。次の下野臨床病理学は、どのような切り口で展開するのか待ち遠しいと感じるのは評者だけではないだろう。本書はプロローグに過ぎないと理解している。
評者:鷹岡竜一
(東京都・鷹岡歯科医院)
下野正基・編著
牧野 明/藤木省三/岡 賢二/山根源之/吉岡隆知/平井友成/自見英治郎/三上 格・著
クインテッセンス出版
問合先:03-5842-2272(営業部)
定価:8,580円(本体7,800円+税10%)・128頁
インプラントトラブルの予防策&解決策を詳解危険部位マップ付き!
『インプラントの"ヒヤリ・ハット""あるある"これを知らずして治療するべからず!』
本書を手に取って最初に感じたことは、若手の歯科医師からベテランの先生までを対象にしたインプラント治療の教科書的な内容であるが、切り口が非常に新しいことであった。通常の実習書や教科書では、治療工程のどのような点に気をつけるべきか、どのような点が失敗しやすいのか、その理由はどのようなものか、といった部分がわかりづらいことが多い。その点において、本書では"ヒヤリ・ハット"や"あるある"といった誰しもが経験したことがあるであろう事例を抽出し、各テーマごとに見開きで予防策や解決策といった詳細な解説が加えられているため、非常に興味深く読み進めることができる。
また「医療面接・患者説明」「解剖」「画像診断およびシミュレーション」「術前準備」「一次手術」「二次手術」「印象採得」「補綴」「メインテナンス」といった各治療工程に沿って問題提起がなされているため、臨床に促した流れで考えることができる。歯科インプラント治療は補綴、歯周病、口腔外科といったすべてを理解する必要のあるアドバンスな治療になる。膨大な知識や経験が必要であるため、それらを網羅的に取得するには非常に時間を要するが、本書ではとくに重要度の高い、リスクをともなうテーマから読み始めることができる点が大きな利点である。たとえば読者それぞれの能力に応じて、課題となっている章から読んでみることで、無理なく勉強することが可能となっている。
さすが、1974年から長きにわたり活動され、500名以上の会員が所属される一般社団法人日本インプラント臨床研究会のそうそうたる方がたが執筆されたからこそ、このような切り口になったのだろうと感心させられた。長年、歯科インプラント治療に励まれ、教育にも携わって来られた先生方ならではのアイデアであり、効率的に重要な内容を把握することができる。
さらに特筆すべきは、巻末に収録された豊富な付録群である。ありそうでなかった「インプラント危険部位マップ~確認・対応・救急マニュアル~」の大ポスターもユニークであり、歯科医院のスタッフルームなどに掲示することで、いつでもすぐに確認可能であり、コメディカルを含めた院内教育にも役立つであろう。その他、知っておくべき論文や分類等に関しても、詳細で簡潔にまとめられており、本書がEBM(Evidence Based Medicine)に基づいた内容であることを示している。また最後に示される国内を代表するインプラントメーカーの最新システムごとのインプラント形状と表面性状の一覧は、非常に興味深く、まとまって示されていることが非常にありがたく、理解しやすい内容となっている。
イラストや解説が多く示された本書は、歯科医院や大学病院に一冊は置いておいて損のない、非常にわかりやすい有益な書籍であると、自信を持ってオススメしたい。
評者:丸川恵理子
(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科口腔再生再建学分野教授)
一般社団法人日本インプラント臨床研究会・編
クインテッセンス出版
問合先:03-5842-2272(営業部)
定価:7,700円(本体7,000円+税10%)・128頁
保険の一般的な歯周治療で多くの患者の期待に応えるDr&DH必携の実践書!
『保険のペリオを極めるスウェディッシュペリオにならう 結果を残す歯周治療の基本メソッド』
著者の1人、大月先生はたまたま大学の後輩にあたるが、インプラント周囲疾患の治療に対するコンセンサス会議でご一緒させていただき、また5-D Japanが開催したコルテリーニ先生のWEBセミナーで通訳をしていただいた。歯周組織再生療法、歯周形成外科、インプラント周囲炎の治療など、広範囲のトピックにおける20時間を優に超える内容であったが、豊富な知識をもとに通訳に留まらず、解説者の役も果たしていただいいた。終了後、セミナーの内容はもちろん、彼の高い能力に多くの賞賛の声が寄せられた。彼は、いわば自慢の後輩である。
本書のタイトルは「保険のペリオを極める」であるが、いわゆる保険のルールに即していかに歯周治療を進めるかということではなく、国民皆保険の国内において、歯周病患者すべてが、受けるべき治療のスタンダードを示し、治療技術を競うのではなく、歯周病で苦しむ患者を1人でも多く救いたい、歯周治療の楽しさを1人でも多くの歯科医師に知ってもらいたいという、著者らの思いが詰まった本である。
Chapter1では、日本における保険の歯周治療について知り、自分たちのおかれた環境を理解することに重きをおいている。そのうえで、歯科医院のメンバー全員が共有すべきコンセプトが示されている。
Chapter2-1~2-4では、歯周治療の流れ,医療面接の仕方、検査、診断、治療計画の立案を取り上げ、とくにトップダウントリートメントプランニングとボトムアップトリートメントプランニングについて、わかりやすく簡潔に解説されている。複雑な病態を示す歯周病患者とどのようにゴールを設定し共に進んでいくかが理解できる。2-5は歯周基本治療に関するものである。歯周治療を成功させるために不可欠な患者の協力を得るためのOHI(口腔衛生指導)のポイント、歯肉縁上・縁下のデブライドメントのテクニックが、著者らの知識と経験に基づいて、それをサポートする研究とともに、実践的に解説されている。2-6の歯周外科の項では、術者、患者にとって敬遠されがちな外科処置に対し、本当に必要な手術に関して、その目的、基本術式が示され、けっして特殊な技術ではなく必要な処置であることを理解し、外科処置に取り組むきっかけを与えてくれるであろう。2-7のSPT・メインテナンスの項では、実際に何をすべきか、どのような効果が期待できるかが、わかりやすくまとめられている。
Chapter3の歯周治療トピックスでは、臨床における疑問を解決し、犯しがちな過ちを未然に防ぐことができる。患者とその情報を共有すれば、信頼を得るための多大な助けになるであろう。
全体を通して、本書の内容は余分がなく、歯周治療を通して患者の人生に貢献したいと願う歯科衛生士、歯科医師はすべて理解しておくべきと思われる。正に実践的で役立つ本である。
評者:石川知弘
(静岡県・石川歯科)
大月基弘/牛窪建介・編著
クインテッセンス出版
問合先:03-5842-2272(営業部)
定価:7,150円(本体 6,500円+税10%)・112頁
新しい印象法についての世界初の実用的教科書
『とことんIOS見て学ぶ 誰でも速くキレイに撮れる口腔内スキャナー』
Digital Dentistryという言葉が本邦で初めて使われたのは、2011年11月に横浜で開催された第1回CAD/CAMミーティング(クインテッセンス出版株式会社主催、株式会社モリタ協力)だと記憶している。その当時は技工におけるCAD/CAMやインプラントにおけるガイドの活用などがメイントピックであった。翌2012年、ボストンに留学した評者は、口腔内スキャナ(以下、IOS)を臨床で活用している現場に遭遇し、「すごい時代が来る!」と確信したのが忘れられない。
それから10年が経過した今、米国でのIOSの使用率が約50%であるのに対して、日本では10%前後といわれている。この差は、保険制度の差であり、"印象材による従来法印象"から"IOSによる光学印象"へのパラダイムシフトはすでに起きている。すべてがIOSに切り替わることはなくとも、技術的には日常臨床での印象のほとんどはIOSでできるようになり、"IOSによる光学印象"は新しい印象法として、世界中で採用され始めている。そして、新しい技術革新が起きた際には、かならず新しい技術書が必要となる。
本書は、評者が知る限り世界初の"IOSによる光学印象"の実用的教科書であり、その内容は他の追随を許さないほどの充実ぶりである。
まず目次前の見開きページでは、国内で販売されている主要メーカー3台のIOSの実寸大写真が掲載され、実機の大きさをイメージすることができる.CHAPTER1では、IOSの歴史や特徴などについてわかりやすく解説されている。CHAPTER2では、補綴装置の製作方法が鋳造からミリングに変わることによる、デジタル対応の形成の注意点について豊富なイラストとともに詳細な解説がされている。CHAPTER3では、メーカー別の特徴や選び方をわかりやすく指南してくれている。圧巻なのが、CHAPTER4、5である。CHAPTER4は、"IOS活用編"と題し、IOSの撮影方法について事細かなステップ写真による解説がなされており、初めてIOSに触れる者でも直感的に理解できるような大変わかりやすい内容となっている。また、CHAPTER5は"IOS実践編"と題し、クラウン、インプラント、即日修復について、実際のIOSの各ステップのPC画面と一緒に解説されており、明日から臨床に役立つ情報が満載だ。
各章の重要なパートには動画も用意されており、ページにスマートフォンをかざせば簡単に視聴することができるという至れり尽くせりの内容である。
IOS自体はこれからも進化していくことが予想されるが、スキャンの原理、原則に基づいたテクニックは今後も不変であり、この教科書がバイブルになることは間違いないだろう。急速に変化するデジタル機器について、短期間にこれだけ豊富な資料を集め、わかりやすく解説された著者のおふたりの先生には、あらためて敬意を表したい。
評者:丸尾勝一郎
(東京都・三軒茶屋/恵比寿マルオ歯科・神奈川歯科大学)
窪田 努/片野 潤・著
クインテッセンス出版
問合先:03-5842-2272(営業部)
定価:6,930円(本体6,300円+税10%)・178頁
マイクロスコープを用いた歯周組織再生療法に関する待望の1冊!
『イラスト・写真・動画で学ぶ! 低侵襲 歯周組織再生療法』
本当にすばらしい書籍だ!月並みではあるが、本書を読破してまず最初の感想はこれだった。
本書を読み進めていると、山口先生がどれだけ情熱をもって歯周外科手術に臨まれているのか、そのお気持ちまで伝わってきてなんだかワクワクする。山口先生の臨床は日本トップレベルで、どの症例も本当にすばらしいのだが、とはいっても臨床に偏りすぎずエビデンスも豊富で、かつ器具や材料などさまざまな臨床に役立つ情報も満載な、まさに痒いところに手が届く、本当によく練られた書籍である。
山口先生の本書にかける本気度を、読者の方々もひしひしと感じることだろう。マイクロスコープを用いた歯周組織再生療法の良書を望まれていた読者にとって、まさに待望の1冊といえる。
本書は5つの章から構成されている。Chapter1には、歯周組織再生療法の優位性と術式の変遷が、エビデンスと症例写真およびシェーマを用いて整理して掲載されている。歯周組織再生療法に取り組むうえで必要十分な、大変役立つ情報である。
Chapter2には、歯周組織再生療法に臨む前に必要な術前準備についての情報が掲載されている。歯周外科手術は、検査・診断およびシミュレーションを含む術前準備でほぼ勝負が決まるといっても過言ではない。本章を読めば、どういった点に考慮したうえで歯周組織再生療法に臨む必要があるのかが明確に理解できる。加えて、非外科的歯周治療の重要性、MINSTの可能性にも言及されており、大変価値のある内容となっている。
圧巻のChapter3は、本書最大の見どころである。マイクロスコープを用いたMISTによる歯周組織再生療法の1症例が、40ページにわたって拡大写真とシェーマを用いてていねいに解説されている。使用する器具、材料からそれらの使用方法、使用の根拠、マイクロサージェリーにおけるポジショニングの詳細まで包含されており、これを熟読すれば、ペリオドンタルマイクロサージェリーの初心者であっても安心してオペに臨めることだろう。
Chapter4には、さまざまな条件に対して行ったペリオドンタルマイクロサージェリーの10症例が掲載されている。どのような条件に対してどのような切開線を用いれば良いのかが詳述されているため、実際にケースを目の前にした読者にとっても、あらゆるケースが包含された本章は治療方針立案における大きな助けとなるに違いない。
Chapter5では術後管理についても詳述されており、まさに痒いところに手が届く内容となっている。
本書は、すでにペリオドンタルマイクロサージェリーを臨床に取り入れている読者にも、これから足を踏み入れようとしている読者にも熟読していただきたい、本当に役立つ情報満載の書籍である。ぜひお手に取ってご覧いただきたく、自信をもってお勧めしたい。
評者:岩野義弘
(東京都・岩野歯科クリニック)
山口文誉・著
クインテッセンス出版
問合先:03-5842-2272(営業部)
定価:12,100円(本体11,000円+税10%)・172頁