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一般診療所で実践する
睡眠時無呼吸症候群の
口腔内装置治療はおもしろい!
第三回:毎晩使えるものになるまで改良する

2020/1/30 臨床ライブラリ

初診時

「うるさいのも問題だけど、寝てる間に息が止まってるんだってさ」 患者さんから渡された紹介状には、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下OSAS:Obstructive Sleep Apnea Syndrome)で睡眠中は1時間につき35回はきちんとした呼吸ができていなかっただけでなく、最長無呼吸時間が約2分で血中酸素飽和度は85%まで低下していた。本来は経鼻的持続陽圧呼吸療法(以下CPAP:Cotinuous Positive Airway Pressure)の適応だが、どうしてもやりたくないと本人に強く拒否されたため、なるべく早く口腔内装置(以下OA:Oral Appliance)を装着してほしい」と記されていました。 このOSASの影響をこの患者さんはどの程度自覚しているのか、エプワース眠気尺度(以下ESS:Epworth Sleepiness Scale)を用いて問診しながら評価したところ、14点と明らかな眠気があると判定できたのです(写真①)。 ①エプワース眠気尺度 日中の眠気を測定する主観的尺度で11点以上を病的な眠気と判定する。 質問内容が日常生活に合わないことが多く症例によっては感度が悪い。 口腔内を診察したところ、犬歯誘導の消失とアンチモンソンカーブ(写真②~④)を認めたうえに軽度の慢性咀嚼筋痛を訴えたことから、睡眠中の歯ぎしりを推測しました。この状況でOAを製作して装着開始すると、歯ぎしりでこれをすぐに破損したり、顎関節痛を招く可能性が考えられます。しかしこれらを改善させる治療を始めると、なかなかOAを製作できなくなります。そこで、装着開始後の調整が容易であるNKコネクターを用いた設計のOA(前号参照)を製作する方針として、さっそく印象採得を行いました。 すべての前歯切端は破断及び摩耗していただけでなく、臼歯部はアンチモンソンカーブに合わせて補綴治療されていた。

7日後

顎位決定してOA完成(前号写真参照 着脱練習後装着開始指示

8日後

OA破損 「朝起きたら何かがおかしいなと思って、外したらOAが割れちゃってたんだよ」 患者さんは下顎のスプリントが真っ二つに割れたOAを持って来院されたのです(写真⑤、⑥)。そこで、下顎のスプリントのみ厚さを1.5mmから2mmの材料に変更して再製作したものに交換して、改めて着脱練習をしました。 OAの下顎前歯部が割れている。定位置に入っていない状態で出現した強い食いしばりが原因と考えられる。

14日後

OA破損 「また壊れちゃったよ」 今度はNKコネクターの接合部が外れてしまいました(写真⑦)。顎関節痛は認めないものの、あまりにもすぐに破損するため、今度は上下一体型のOAに改良してみました。 上顎右側犬歯部のNKコネクター接合部が外れている。 OAを装着したまま歯ぎしりによる側方偏位やあくびで不意に開口することが主な原因。 初心者には装着時慎重に着脱練習してもらう。

21日後

OA睡眠中脱離→ソフトOAへ 「寝ながらもがいて外してたわ」 再診時、ともに来院された奥様が患者さんの睡眠中の様子を教えてくれました。破損しなくても、OAは装着したまま朝を迎えられないと意味がありません。どうしたら歯ぎしりを改善させながら破損しなくなるのか、歯科技工士さんと試行錯誤しながら再製作した結果、ナイトガードで使用する厚さ3mmのソフトの素材のみで構成されたOAが完成しました(写真⑧~⑩)。これは、マウスピースの外形をはさみで切った余りを熱して軟化させて上下を接合しています。これを装着して以降、患者さんはOAを破損せずに朝まで装着できるようになりました。 ソフト素材のみで製作したOA。 歯ぎしりが強くてOAが使えない症例や認知症の進行で上手に着脱できない症例に有効である。

28日後

OA終夜連日装着可能、しかし変形 「いびきは多少あるみたいだけど、ずーっとあった微妙な頭痛がなくなったね」 1週間後の再診時、自覚症状に若干の変化が出た印象があったため再びESSを行った結果、8点と改善を認めました。しかし、このOAは全体的に変形し始めて緩くなっていたため、長期間は使えないと判断しました。そこで、歯ぎしりの消失を認めるまでこれで経過をみることにしました。

42日後

歯ぎしり消失→再びNKコネクターを用いた設計のOAへ 「頭が痛くなくなったよ」 歯ぎしりの影響と考えられた慢性咀嚼筋痛の消失を認めることができたため、再びNKコネクターを用いた設計のOAに戻しました。その際、歯ぎしりや咀嚼筋痛を予防する対策として、下顎のスプリントにストッパーを付与しました(写真⑪~⑭)。これにより、下記の特性をOAに加えることができるのです。 (1)歯ぎしりしているときの下顎側方偏位における可動範囲を狭くする (2)顎関節痛の1因である下顎前方位維持下でのすれ違い咬合を防止する NKコネクターを用いたOAでストッパー付与あり/なしの比較。 装着後に顎関節痛を訴えられたときの対応として行うことが多い。 レジンを添加するだけなので非常に簡便である。

49日後

OA終夜連日装着可能、自覚症状も改善したため紹介医で再評価 「とても静かになったから私もよく寝れるようになったわ」 1週間後の再診時、患者さんとともに来院された奥様も喜んでおられ、再製作したOAも無事破損せず、3度目に行ったESSも7点とさらなる改善を認めたため、さっそく紹介医に報告しました。OA装着なしとありの2通りの検査を行うことで、OSASにどの程度奏功しているのか評価をすることになりました。

紹介医がOSASに対するOAの効果判定した結果

OA装着なし→OSAS重症値 OA装着あり→OSAS軽症範囲上限値(飲酒有無ともに) →下記条件を前提にCPAPは導入せずOAのみで経過を診る方針へ (1)OAを毎晩装着すること (2)半年おきに診察を受けにくること (3)飲酒量を減らすこと OA治療は、ときに思い通りにすすまないこともあります。それでも簡単に諦めず、診療所のスタッフと知恵を出し合って試行錯誤を重ねた分だけ、良好な結果となる可能性が大きくなるのです。そういった経験が、その後の自らの臨床における次なる一手にもなり、患者や紹介医、そしてスタッフからの信頼を得るチャンスにもつながるのです。 参考文献 横溝一郎,星作男,高坂晋哉,大川原亨,中久木康一.はじめよう!保険でできるOSAS患者のOA治療 医科・歯科の連携による治療の流れから技工操作、難症例の対応まで.the Quintessence 2018;37(2)64-84.