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電子カルテのデータを臨床の検証に利用する

電子カルテのデータを臨床の検証に利用する
電子カルテのデータを臨床の検証に利用する
歯科医療従事者なら、生まれて初めて担当した患者さんの口腔内の様子は一生忘れられないのではないでしょうか。その後に担当した患者さんでも、数人は覚えているかもしれません。しかし、10人、100人、1,000人と担当患者が増えてくると、人間の記憶力には限界があります。一人ひとりの症例から多くのことを学べるというのに、何千人という患者さんの記憶が消えていくのはあまりにも勿体ないことです。

そう思う人ならば、この時代、コンピュータの力を借りて、データベースをつくりたいという衝動に駆られるでしょう。ファイルメーカー®などのデータベースソフトを駆使して、患者さんの属性や口腔内の情報を入力していけば、何千、何万という膨大な数の患者データから条件に合わせて抽出したり、集計したりすることができます。そして、Plan-Do-Check-Action (PDCA) のサイクルに乗って、臨床のアウトカムを Check して次の Action アクションへと繋ぐことができます。

ほとんどの職種において、職業の果たす役割についてのアウトカムが問われる仕組みがあります。PDCAを繰り返しながら向上していくのはプロとして普通の行いです。歯科でも修復物の寿命はどのくらいなのか、歯科治療やメインテナンスが患者さんの健康にどのくらい寄与したのかといった、職業使命として重要な意味合いを持つアウトカムについて評価するべきではないでしょうか。レセプトが月に何枚というデータだけではなく。。。

もしかしたら、長年の常識でよかれと思ってやってきている臨床に検証が与えられ、意外な盲点が見つけられるかもしれません。闇雲に手探りをしているような歯科医療から、患者利益への視野がクリアな歯科医療へ。データの質が良ければ、統計学的分析をして新しいエビデンスの構築に貢献できます。

ところが、この段階で2つの壁が立ちはだかります。1つはデータを手入力するために膨大な労力が必要になること、もう1つはヒューマンエラーが否定できないことです。この2つは比例して大きくなります。スタッフがデータ入力に忙しくなればなるほど、誤入力が増えて、データベースは使い物にならなくなるのです。例えば、残存歯数と喪失歯数を間違えて20歳代の人が残存歯0本だったり、誕生年を一桁入力し間違えて年齢が1,000歳を超えていたり、そういう間違いを正すのに、データ数が増えれば増えるほどさらに膨大な時間が必要になります。

また、個人単位から、歯単位のデータ、はては歯面単位のデータがほしいと希望が膨らむと、もう手入力では不可能です。そこで、電子カルテが普及し始めた今から20年前の2002年に、電子カルテのデータを吸い取って、入力時間がほとんどゼロに、かつ入力内容が正確であるソフトの構想が上がりました。その世界的な先駆けが「オーラルフロンティア」という名前のソフトウェアです(2004年発売開始)。
私はこの「オーラルフロンティア」という名前を決定する場に居合わせ、「歯科医療の最前線」という気持ちを込めて提案しました。

その後、スウェーデンで「SKaPa」 というプロジェクトが登場しました。「S」はスェーデン、「Ka」はスウェーデン語のカリエス(Karies)、「Pa」はスウェーデン語のペリオ(Parodontit)を表すそうです。コンセプトは「オーラルフロンティア」と同じく、電子カルテのデータを臨床データとして集計して、歯科医療の向上に繋げるというものです。「SKaPa」は2008年に始まりました。こちらは国単位のプロジェクトでデータ数は約700万人というビッグデータを毎年集計し、かつ約150ページに渡る詳細な報告書を毎年発行するという充実ぶりです。

こうやってスウェーデンの歯科医療は毎年検証を繰り返されて発展していきます。「オーラルフロンティア」が開発された頃は、日本の歯科医療は欧米諸国より20年遅れていると言われていました。



このままではPDCAに乗れずに、さらに差が開いていくような気がしてなりません。日本は同程度の経済レベルの国で、皆保険制度が整い、せっかく「オーラルフロンティア」で5年も早く「最前線」に到達していたのですから、同様なプロジェクトが国単位で始まってほしいです。



本記事は、2022年3月20日の「日曜のフィーカ」 と、2019年2月15日発行の大阪歯科保険医新聞「北欧の歯科医療最前線 Part 2 地図となるSKaPa」 の内容に基づいています。

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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