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10年先を見据えた未来の歯科のあり方 第2回:唾液腺マッサージは効果あるの?

10年先を見据えた未来の歯科のあり方  第2回:唾液腺マッサージは効果あるの?
10年先を見据えた未来の歯科のあり方 第2回:唾液腺マッサージは効果あるの?
唾液腺マッサージは、耳下腺、顎下腺、舌下腺を手で刺激し、口腔内の唾液量を増加させる方法です。この唾液腺マッサージは、科学論文が少なく、実際のところどこまで効果があるのか疑問に思われている方も多いのではないでしょうか。筆者は、唾液量の増加を図る方法を「唾液ケア」と紹介しており、唾液ケアの1つとして唾液腺マッサージも紹介していることから、唾液腺マッサージの現状を紹介します。

唾液腺マッサージについて欧文および邦文を検索し、さまざまな論文を通読したところ、唾液腺マッサージの効果を示したエビデンスレベルの高い論文は1報しかありません1。国内からも唾液腺マッサージの効果を検証する論文を多数確認できましたが、ランダム化比較試験の報告は1報しかなく2、それも唾液腺マッサージ単独の効果は明らかにできていない試験設計でした。

これらの論文を通読し、唾液腺マッサージの効果を考える時、長期と短期に区別する必要があることを強調したいと思います。唾液腺マッサージを行った直後に唾液量が増えたという論文は多く、それは短期効果と位置づけるべきですし、唾液腺マッサージで刺激直後に口渇感の改善に寄与していました。一方、継続的な刺激で唾液腺マッサージを行うことで、唾液腺マッサージ刺激時でなく、安静時唾液の量が増えるかどうかが、口腔乾燥症の方のQOLの改善につながると考えています。

Jeamanukulkitら1の報告では、食事前に唾液腺マッサージ(3つの唾液腺を2分間刺激)を行い4週間後に刺激前より有意に増加し、12週まで増加し続けると報告しました。この試験は唾液腺マッサージのみを行うランダム化比較試験であり、唾液腺マッサージの継続的な刺激が安静時唾液の量を増加させるという初めての論文ではないかと思われます。興味深いのは、反復唾液嚥下テストの状況が改善していることから、唾液量が増加したことを支持する結果が示されていることです。さらに、対象者が安静時唾液<0.3 mL/minの≥60歳の糖尿病患者への介入での効果を検討しており、糖尿病患者に唾液腺マッサージを適応することで口渇感や嚥下機能が改善している点も貴重な知見と考えられます。

国内からは、前田ら2の高齢血液透析者において唾液腺マッサージと舌機能訓練を混合した口腔機能訓練がランダム化比較試験で行われ貴重な報告をしています。この論文では、唾液腺マッサージの単独効果については言及できませんが、介入前と比較して介入後4週間で有意差があり、12週で約2倍に安静時唾液量が増加しています。この口腔機能訓練では、週3回の透析時での実施であり、Jeamanukulkitらの報告より少ないため、舌機能訓練を合わせて行うと効果が飛躍的高まる可能性がある点は非常に興味深いと思います。

唾液腺マッサージに関しては、継続的な刺激を4週間以上行うことで安静時唾液を増加させる可能性があると考えられます。しかし、このメカニズムについては現在のところ不明です。安静時唾液の増加には副交感神経の作用が重要であることから、継続的な刺激により何らかの副交感神経に関する生理作用が賦活化しているのではないかと予想しています。

なお、唾液腺マッサージの効果は、唾液腺に器質的変化が少なく、薬剤の影響がなく、短期的効果で口渇感が改善する方が適応ではないかと考えられるので、効果が見込める対象者を見極めることも大切です。

1.Jeamanukulkit S, Vichayanrat T, Samnieng P. Effects of the salivary gland massage program in older type 2 diabetes patients on the salivary flow rate, xerostomia, swallowing and oral hygiene: A randomized controlled trial. Geriatr Gerontol Int. 2023 Jul;23(7):549-557.
2.前田さおり, 松山美和, 板東高志. 高齢血液透析患者に対する口腔機能訓練の効果.日摂食嚥下リハ会誌. 2016;20(1):23-30.

著者槻木 恵一

1993年 神奈川歯科大学卒業 2007年~ 神奈川歯科大学病理学教授 2013年~ 神奈川歯科大学大学院歯学研究科長(~2023年3 月) 2014年~ 神奈川歯科大学副学長 2023年4 月~ 神奈川歯科大学図書館長 2022年 特定非営利活動法人日本唾液ケア研究会を創設、理事長就任 プレバイオテックスの一種であるフラクトオリゴ糖の摂取による唾液中IgAの分泌量増加とともに、そのメカニズムとして腸管内で短鎖脂肪酸が重要な役割を果たすことを示し、「腸‐唾液腺相関」を発見。唾液の機能性研究を進めている。
槻木 恵一

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