昨今の人工知能(AI)チャットボットの進化は目覚ましく、ChatGPT-4がまるで友人のように利用者の犬を褒め、名前を聞き、その名前を呼びかけている動画を見て驚きました。BBC放送のキャスターは、「もう人間の親友はいらないかもしれません。」と言っていました。 How good is the latest version of ChatGPT? | BBC News この技術を応用すれば、齲蝕や歯周病予防に必須の行動変容の分野が劇的に変わるのではないでしょうか。ちょうどタイミング良く、慢性疾患の管理にAIチャットボットを使うことの効果に関するシステマティックレビューが出版されました。 Kurniawan MH, Handiyani H, Nuraini T, Hariyati RTS, Sutrisno S. A systematic review of artificial intelligence-powered (AI-powered) chatbot intervention for managing chronic illness. Ann Med. 2024 Dec;56(1):2302980. このシステマティックレビューでは、8つの論文が選択基準に合致して、バイアスのリスクが評価され、まとめられています。慢性疾患の管理にAIチャットボットは有望であるとの結論です。その8つの論文が対象にしていた慢性疾患は、がん、高血圧、糖尿病、慢性痛、過敏性腸症候群でした。齲蝕と歯周病は入っていませんが、これらと同じように慢性疾患の要素があり、行動変容を求められますので、応用可能でしょう。 AIチャットボットの利点は、瞬時に応答してくれること、個人に合わせた応答をしてくれること、1日24時間対応できることです。齲蝕を取り上げてみましょう。食事をする度にスマホのカメラを飲食物に向けると、AIチャットボットが齲蝕原性食品であるかを判断し、前に飲食してからの間隔や、フッ化物配合歯磨剤で歯磨きをしてからの時間や、就寝前のタイミングかどうかを勘案して、今は齲蝕原性食品を摂らない方がいいとか、齲蝕原性でない飲食物を推薦したりできるでしょう。歯磨きの度にスマホのカメラを歯ブラシに向けると、歯磨剤を使っていることをチェック、1日何回、1回何分歯磨きしているかも記録してくれ、足りないところをアドバイスしてくれるでしょう。新しい歯磨剤を購入する時には、フッ化物の有無や濃度をカメラでチェックし、必要に応じてアドバイスを提供する機能が考えられます。メインテナンスの時期が来たら、歯科医院に自動的に予約し、前日にリマインダーを送ってくれるかもしれません。 それらはすべて個人のリスクに合わせた内容にできます。同一のスマホにカリエスリスク評価ツールもインストールして連動させると、患者さんのリスクの変化を把握してアドバイス内容を調整するという、きめ細やかな対応が期待できそうです。 動機づけ面接など心理学的理論を使ったコンサルテーションやアドバイスも可能です。行動変容の難しさは長期的な定着に繋がりにくいことですが、それが果たせると、齲蝕だけでなく、共通リスクファクターのある他の疾患の予防にも貢献できます。 ビッグデータを集積して改良を重ねることは有益ですが、留意点としては、このようなサービスは、倫理的配慮や個人情報の保護に細心の注意を払う必要があります。 当然のことながら、アドバイスの内容は最新の科学的エビデンスに基づき、利用する患者さんにとって不利益な行動変容をさせないようにするべきです。
著者西 真紀子
NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー
略歴
- 1996年 大阪大学歯学部卒業
- 大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
- 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
- 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
- 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
- 2018年 同大学院修了 PhD 取得
- NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP):
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