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コラム

吸着総義歯の普及に尽力されてきた齋藤善広先生に聞く、「KEEP 28」の考えと予防歯科にたどり着いたワケ<Part2>

吸着総義歯の普及に尽力されてきた齋藤善広先生に聞く、「KEEP 28」の考えと予防歯科にたどり着いたワケ<Part2>
吸着総義歯の普及に尽力されてきた齋藤善広先生に聞く、「KEEP 28」の考えと予防歯科にたどり着いたワケ<Part2>

2011年から予防をベースにした診療をスタート

-- 予防歯科に力を入れるようになった経緯を教えてください 昔は歯を残す、健康な歯を守るという考え方に対して、あまりピンと来てはいませんでした。それよりも総義歯やインプラントをやるほうが面白みを感じていたのです。ただ、長年、無歯顎患者と向き合う中で、歯科医療の敗北を感じるようになりました。 無歯顎とは当たり前ですが、歯が1本もない状態です。その人の人生のどこかで歯科と関わりがあったはずなのに、一生懸命に治療したダイレクトンボンディングもメタルボンドも残っていないんです。そんな状況を目の当たりにするうちに、歯科医療とは何なのだろうかと考えるようになりました。そうすると、究極的には、歯は健康なままで残すしかないんじゃないかという考えに行き着きました。そこで2011年から予防をベースとした診療に力を入れるようになりました。 予防歯科に注力するようになってから、メインテナンス棟を新たに増築した。 -- 予防をベースとした診療とは、どのようなものなのでしょうか MTM(メディカルトリートメントモデル)の考えに沿って、さまざまな角度から口腔内のリスクを評価し、その結果をもとに個々の患者さんに合わせて歯の病気の原因を取り除きます。そして、治療終了後はう蝕の発生や歯周病の進行を防ぎながら、健康な状態を維持するための定期的なメインテナンスを行っています。 以前、5年以上、当院にメインテナンスで通っている患者さんのうち、64歳以下300人と65歳以上500人の歯の喪失状況を調べたことがありました。64歳以下はメインテナンス開始時期の歯の本数は平均27.5本、2年間での歯の喪失状況は一人当たり0.27本でした。つまり、ほとんどの人が歯を抜いていません。一方、65歳以上ではメインテナンス開始時の歯の本数は平均23本で、すでに欠損があります。2年間での歯の喪失状況は一人当たり1.5本でした。歯の少ない高齢群で歯の喪失が進んでおり、65歳を境にして様相がこれだけ違っているのです。 つまり、若い世代はう蝕予防、40歳以降では歯周病予防、60歳以降では進行した歯周病への対応といったように、世代にあわせた治療や予防が必要であるのと同時に、今の64歳以下の世代が80歳になるころには、今以上に無歯顎患者が減ることが予測されます。だからこそ、今後は、高齢者の予防歯科がさらに注目されるようになると思っています。そこで現在、スローガンとして掲げているのが「KEEP 28」です。

「KEEP 28」を達成するために

-- 「KEEP 28」とはどのようなものなのでしょうか 20歳ころまでに健康な歯と歯列と咬合を獲得し、智歯を除いた永久歯28本を生涯にわたり維持しようという考え方です。80歳になっても自分の歯を20本以上保つことを目指す8020運動は達成率が51.6%です。昔に比べると格段に高齢者の残存歯数は増えています。しかし、実際には80歳までに20歯以上残っているとされる方たちの口腔内を観察すると、残っている歯が機能していないケースが多く見られます。また、Part1でお伝えした通り、80〜84歳の総義歯患者の割合は約3割、85歳以上は約4割です。う蝕を削って詰めて、被せるといった治療は決してう蝕の原因を取り除くものではなく、治療をした時点で常に二次う蝕のリスクがつきまといます。そこで80歳になっても90歳になっても1本も歯を喪失しないように、生涯にわたって健康な28本の歯を残せるようなサポートをしたいと考えています。 -- 予防歯科に注力するようになって気づいたことや変化したことはありますか 歯科治療には旬があると思っています。小児のころはカリエス予防が主体ですが、年齢を重ねるとう蝕治療が始まり、その時点でその歯は再治療の対象として数十年後には2回目の治療を行います。そのころには歯周病治療も始まり、高齢者になると総義歯の製作、最後は訪問診療というふうに、年代によって行う治療はだいたい決まっています。ところが、予防歯科には旬がありません。お子さんが小さいうちからプラークコントロールをして、フッ素を塗布し、う蝕をつくらない、歯肉炎を起こさせない、再発させない、欠損させない、それを生涯にわたって実践していくので、1人の患者さんとは一生のお付き合いになります。 けれども、まずは通ってもらわなくてはならない難しさを感じています。リスクが高いのに数年に一度しか来ない患者さんだと、守れるものも守れません。いちばん困るのは「あの歯科医院に行ったのに悪くなった」と言われることです。「あの歯科医院に行ったから今の健康な歯がある」そういうふうに言われるように、患者さんが主体となって予防に取り組んでもらえるような働きかけを行っています。 -- 高齢になっても歯を残すことを考えた時、一方では高齢者の残存歯が口腔内で悪さをすることもあります。無歯顎患者を長年診てこられた歯科医師として、そのあたりについてのお考えはありますか 口腔機能が落ちてきたら、それなりの食形態にして、悪そうな歯を整理して、だんだん食べられなくなっても、それを受け入れるという考え方はあります。ただ、歯がある口腔内と歯がない口腔内の写真を見せて、「あなたはどちらの未来を望みますか」とたずねると、誰もが歯がある方がいいと答えます。間違いないのは、意識がはっきりしていて活動性が高いうちは、義歯じゃないほうがいいということ。そして、健康な歯を残すことが基本だということ。無歯顎の方をたくさん診てきたからこそ、健康な歯と美しい歯列と機能的な咬合を獲得して、それを最期まで維持することが大事だと感じています。だからこそ、「KEEP 28」なんです。 -- 最後に予防歯科という観点から歯科衛生士さんにメッセージをお願いします 自分はこの仕事に向いていないんじゃないかと誰でも一度は思うものです。先日も歯科衛生士の学校に呼ばれて話をしました。1年生は入学したばかりなので疑問を感じませんが、2年生になると、すでに向いていないんじゃないかと思っている学生さんが何人かいました。けれども、医療という高い視座から歯科を見てみると、前述のように予防歯科は今後、さらに必要性を増しますし、世の中から求められるようになります。「KEEP 28」を達成するためには歯科衛生士の活躍が欠かせません。ですから、若い人たちに仲間になって欲しいと願っています。 インタビュイー 齋藤 善広(くにみ野さいとう歯科医院 院長) →吸着総義歯の普及に尽力されてきた齋藤善広先生に聞く、「KEEP 28」の考えと予防歯科にたどり着いたワケ<Part1>はこちら

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