「医療法人あかり会 」の理事長であり、スパイス研究家としても活躍する泉井秀介先生。特に関西方面では有名で、テレビの情報番組や雑誌で見かけたことがあるという人も多いことでしょう。ここでは、そんな泉井先生にスパイス研究家になるまでの経緯からその活動内容、カレーをおいしく作るコツまで、詳しくお話を伺いました。未開拓の分野を広げていくのが楽しい
-- 泉井先生は学生時代、大阪外国語大学に通いながらファッションや音楽の仕事もされていたとお聞きしました はい。裏原宿系ブームメントを巻き起こした藤原ヒロシの世界観に憧れて、彼が手がけた洋服などを扱うユーズドショップを知り合いと一緒に経営していました。そんな中、大学でブラジル人留学生と知り合ったことでブラジル音楽にも目覚め、同じ店でレコードの輸入販売も始めました。当時はクラブミュージックブームでしたから売上も順調で、25歳くらいまで続けていました。 -- カレーに関する活動を始めたのもその頃からでしょうか? カレーは子どもの頃から大好きで、泉井家では成績が上がったらそのご褒美に大阪市内の名店にカレーを食べに連れて行ってもらうのが恒例でした。大学生になっていろんなお店に行くようになり、そこでスパイスの効いたカレーの魅力に取り憑かれて、各国のカレーを食べ歩いたり、自分でもカレーを作って、店で開催する音楽イベントで提供するようになりました。そのうち、雑誌でカレーに関する記事を書いたり、テレビ番組に呼んでもらうことが増えてきて、カレー研究家として本格的に活動するようになりました。 -- そして、大阪のカレーブームに火をつけられた? もちろん私ひとりの力ではありませんが、波が来ているという実感はありましたね。ちょうどFacebookなど、SNSが盛んになり始めていた頃で、そちらの波にもうまく乗って、“スパイスカレーの仕掛け人”と呼ばれるようになりました(笑)。 -- やりたいと思ったことはすぐ行動に移されるのですね 「ゼロ」から何かを生み出すというか、新しいことを始めるのは昔から好きでしたね。歯科医師になって予防歯科を選んだのも、近年、介護事業を手がけるようになったのも、そうした若い頃の経験が礎になっていると思います。未開拓の分野を広げていくのが楽しいんですよね。一念発起して入学した大阪大学歯学部でスパイス研究を開拓
--その後、カレー研究家として活動しながら大阪大学歯学部に再入学されるわけですが、そのあたりの経緯をお聞かせください 家族のなかに医療従事者がいたとか、そういうことでは全然ないのですが、もともと医療系の仕事に興味はあったんです。当時はカッコいい医療ドラマもたくさんありましたしね。それで、店舗の仕事が一段落して、ふと将来のことを考えたとき、「これで一生食べていくのは難しいかもしれないな」と思って一念発起。猛勉強して医療系の中でもとくに興味があった歯学部に進学しました。カレーをおいしく食べるためには歯が大切ですから(笑)。 --歯学部生になってカレーの研究はどうなったのでしょう 歯学部は勉強が忙しいので、音楽の仕事はたまにイベントをやる程度にして、カレー研究家としての活動だけ続けていました。そうした活動について、大学ではあまりオープンにはしていなかったのですが、私が実習で所属していた細菌学教室の指導教官が、たまたまカレー研究家として私が出演していたテレビをご覧になって、「そんなにカレーが好きならスパイスの抗菌作用研究をやってみないか」と声をかけてくださったんです。インドでは昔からスパイスは身体に良いという民間伝承がありましたし、歯学部でそれを研究している人もいなかったので、「それなら私がやってみよう」と。そうした研究が楽しくて、大学院でもそのままスパイスの研究を続けました。ターメリックに含まれるクルクミンという成分に着目し、それが歯周病に及ぼす影響や歯周病菌であるPg菌の繁殖を抑制する効果について研究を始め、その論文が米国の専門誌に掲載され、表彰もされたこともあるんですよ。スパイスは組み合わせることでその魅力が無限に広がっていく
--歯磨剤の開発にも協力されたと伺いました そうなんです。化学品・日用品メーカーの方が「クルクミンを使った歯磨剤を作りたい」と声をかけてくださって、その開発に協力しました。それは一般の歯磨剤としてすでに市販されているのですが、2021年には歯科専売の歯磨剤として販売されるようになって、歯科業界でも話題になりました。当院でも取り扱っていますが、患者さんにも好評で、私としてもうれしい限りです。 --泉井先生が感じるスパイスの魅力とは? 一つひとつのスパイスにも魅力はあるけれど、組み合わせることによってその魅力が無限に広がっていくところですね。あとは、平凡な日常をピリッとさせてくれる刺激でしょうか(笑)。スパイスのおかげでつながることができた人もたくさんいますしね。 --海外にもよく行かれるのでしょうか? インド、ネパール、スリランカなど、スパイスのある国を毎年訪問しています。昨年の秋にはインドに行ってきました。占い師をされているインド人の患者さんがいて、インドに長らく帰っていないとおっしゃるので、その方と一緒に旅しました。 --旅先ではどんなことをして過ごすのですか まず、カレーは絶対食べますよね(笑)。あとは、地元の市場やスーパーに行ったり、料理教室に参加したり。インドではYouTube用の動画も撮影してくる予定です。動画は初めてなのでどんなコンテンツにして何を撮影するのか、まだ何も決まっていないんですけど、取り急ぎインドから帰国して念願のYouTuberデビューを果たしました。 泉井先生のYouTubeはこちらから https://www.youtube.com/@curry-lab_studio 2023年秋にインドを旅した際の写真自宅でカレーをおいしく作るコツとは?
--ご自宅でもよくカレーを作られているそうですが、カレーをおいしく作るコツを教えてください ホールスパイスを油で熱して香りと効能を引き出すテンパリングをしっかり行うことですね。スパイスの成分は脂溶性なので、油にしか溶けないんです。ですから、最初にスパイスの香りを油にしっかりと移して、途中でパウダースパイス、最後にコリアンダーなどのフレッシュなハーブを入れることをお勧めします。市販のルーを使うときも、最初にクミンシードなどのスパイスをテンパリングするだけで香りは格段に良くなると思いますよ。 --ありがとうございます。ぜひやってみます。今でも休日にスパイスに関する勉強をされることもあるのですか? そうですね。本を読んだりして勉強することもありますけど、普段は自前のタンドール(ナンやタンドリーチキンを焼く専用の壺窯)でナンを焼いて、友人たちとカレーパーティをしながら情報交換をしたり、近隣のスパイスショップの人たちとも仲が良いので、スタッフ皆さんを招いて賑やかに楽しむことが多いですね。 カレーパーティーの様子。中央の写真は泉井先生自前のタンドール。 --最後に、歯科医師を目指す学生さんや開業を志す若い先生方に、メッセージをお願いします 私自身、歯科医師としての経験がそれほど長いわけではないので、あまり偉そうなことは言えませんが、歯科だけではない自分なりの軸をたくさん持ってほしい、ということでしょうか。私はカレー好きだったことがクルクミンの研究につながりましたし、開業するときにはカレーイベントを開催して地域の方々に当院を知ってもらい、喜んでもらうこともできました。カレーのおかげで人脈もずいぶん広がったし、日頃の食べ歩きやカレーパーティー、スパイスを探す旅行など、自分自身の楽しみも増えました。 あと、現実的なことを言うと、開業医は個人事業主なので、これからの時代を生き抜くためにも、自分の個性や強みを作って戦略的にアピールするセルフプロデュースも意識してほしいと思います。医科歯科連携や介護との連携もすでに浸透していますし、食とリンクすることも多いので、歯科の注目度はこれからさらに高まっていくはずです。食品や日用品など、他の業界とコラボレートして何か新しい商品を生み出すこともできるでしょうし、歯科医師ほど無限の可能性を秘めた魅力的な仕事はないと私は思っています。そんな歯科の世界を、皆さんと一緒に楽しく盛り上げていけたら私もうれしく思います。
著者泉井 秀介
医療法人あかり会 いずい歯科クリニック 理事長
略歴
- 大阪大学歯学部卒業。大阪大学大学院博士課程を修了(歯学博士)。
- 同大学附属病院にて7年間、天野敦雄教授に師事し予防歯科を学ぶ。
- JDR、アジア予防歯科学会、口腔衛生学会、歯科基礎医学会など、国内外での講演発表も多数。
- 大学院での研究テーマは、カレーに含まれるスパイス成分「クルクミン」の歯周病予防素材への応用について。
- カレー王子として一躍脚光を浴び雑誌『Meets Regional』、『関西ウォーカー』、FM802『Beat Expo』、関西テレビ『よ~いドン!』など様々なメディアでも活躍中。
- ●大阪大学大学院歯学研究科 予防歯科学教室 招へい教員
- ●大阪府歯科医師会附属歯科衛生士専門学校 非常勤講師
- ●新大阪歯科衛生士専門学校 非常勤講師
- ●なにわ歯科衛生専門学校 非常勤講師 など歴任