TOP>NEWS>2024年9月のピックアップ書籍

NEWS

2024年9月のピックアップ書籍

2024年9月のピックアップ書籍
2024年9月のピックアップ書籍

生体に対する著者の敬意が垣間見える良著であり、歯科医師必読の書 患者一人ひとりに真に調和した咬合面のつくりかた ~Gnatho-Guide Occlusion(GGO)の提案~

佐々木 猛・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 9,900円(本体9,000円+税10%)・112頁 評 者 浦野 智 (大阪府・浦野歯科診療所) 補綴治療の大きな目的の1つである機能の回復、改善において、どのような咬合面形態にするかはいつも頭を悩ませるところである。ご多分にもれず、評者のように凡庸な歯科医師はABCコンタクトや傾斜角、展開角などという用語は理解しているものの、臨床にどう応用するかは明確に説明できない。また、インプラント治療においても外科的、歯周病学的分野に関しては多くの知見が得られているが、上部構造咬合面に関する文献は目にする機会が少ない。 そんななか、今回、補綴治療においてもっとも重要であるにもかかわらず、あまり取り上げられなかった「咬合面のつくりかた」にフォーカスし、科学性をもった手順を解説している書籍が上梓された。 著者の佐々木猛先生は、中村公雄先生の臨床補綴理論をもっとも正確に継承し、かつ実践されてきた先生である。従来の補綴治療は、機能や運動を咬合器やモニター上に再現し、診断だけでなく治療のゴール設定も同様に行うことから、機械や数字に頼りがちであるが、もっとも重要なのは治療を受ける主体である患者自身の観察、とくに口腔内の観察であるとしたものである。 なかでも、最終補綴装置のプロトタイプとなるプロビジョナルレストレーションは、臨床においてもっとも重要なステップと位置づけられていた。その製作にあたり、本書において著者は2つの大きなポイントを提案している。プロビジョナルレストレーションに付与する「咬合面のつくりかた」と、その咬合面を最終補綴装置に「移行する方法」である。そこには、アナログ的な手法とデジタル的な手法がうまくミックスされているところが妙である。 症例提示においては、局所の症例から全顎に及ぶ症例、天然歯のみの症例とインプラントを含む症例、顎機能障害をもつ症例や矯正歯科治療後の症例と、数多くの症例が提示され、読者が必要とする情報が各症例に散りばめられており、とても参考となる内容である。 また、インプラントの項においては、従来法によるインプラント修復を行っている評者にとっては、「そうそう」「なるほど」と同意できる点がほとんどで、多くの歯科医師が評者と同じなのではないかと想像する。 本書を読み終え、われわれヒトの生体は30万年前当時とほとんど変わらないといわれていることを思い出した。あらためて、われわれが解決すべき回答は、じつは患者自身の中にあるのではないかと感じる。咬合、咀嚼という患者自身がもつ連続した動きをアナログ的に採取し、そのデータをできるだけ正確に非連続なデジタルで再現する、まさに理にかなった「デジタルデンティストリー」であると感じる。しかしながら、本のタイトルに、「デジタル」という言葉が使われていないのも著者の思いの現れかと感じるのは評者だけではないと思う。著者の生体に対する敬意が垣間見える良著であり、歯科医師にとって必読の書である。

検査方法に関するシートや動画付きで口腔機能低下症に対応できる! 患者さんにしっかり説明できる口腔機能低下症読本 導入実践・保険算定かんたんガイド

鈴木宏樹/松村香織・監著 荻野洋一郎/安藤壮吾/吉岡和彦/今井実喜生・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 8,250円(本体7,500円+税10%)・108頁 評 者 熱田 生 (九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座クラウンブリッジ補綴学分野) 日本は超高齢社会を迎え、今まで一般診療を続けてきた先生方にとっては高齢者の歯科治療における治療方針に確信を持てないことも多いのが事実である。特に口腔機能低下症の診断と治療の重要性は理解していても、実際の診療に取り入れることには多くの歯科医師がハードルを感じていることだろう。 そんな中、本書籍はまさに「高齢者歯科の教科書」とよぶにふさわしい一冊である。口腔機能の重要性、口腔機能低下症の説明と診断方法、管理の実践方法、そして保険算定までが順を追って詳しく解説されている。そして本書は、今を時めく先生方、鈴木宏樹先生と松村香織先生の監著で作成されている。補綴と口腔外科に関して幅広い知識を持つお二人が4名の著者とともに高齢者歯科についてまんべんなく解説しており、この一冊を読み終えた頃には口腔機能の低下をともなう高齢患者に対して自信を持って向き合えるようになるはずである。 また、図が多く読みやすい点も魅力的である。所々に配置された二次元コードからは診療の動画を観ることができ、患者説明に便利な写真やイラストも充実している。本書を手に取った第一印象は「こんな本をよく思いついたなぁ」という驚きであった。「面白い」と言ってしまうと失礼かもしれないが、今までにありそうでなかったアイデアが詰まっており、視覚的に引き込まれる内容である。読み進めるうちに知らないことがどんどんと理解できる気持ち良さがあり、読み終わる頃にはさっそく実践してみたくなる高揚感が生まれる。そして、その気持ちを察したかのように巻末付録が付いている。患者説明に役立つシートや動画は本当にわかりやすく圧巻の一言であり、各所に見られる気配りには感動すら覚えた。 さらに、患者にもわかりやすい資料があることも本書の魅力であると思う。私見ではあるが、年配の患者ほど「自分の体は自分が一番よくわかっている」と考えているのではないだろうか。しかし、実はそうとも限らない。緩やかに訪れる「老い」はその典型であり、この老いは患者の気付かないうちに口腔機能を変化させ、さらに老いを加速させる。口腔機能精密検査により口腔機能の低下を客観的に診断することは、患者自身に気付きを与え、本書が勧める患者の口腔機能訓練は「改善への意欲」をもたらすものと確信している。 最後に、本書は文字どおり口腔機能低下症のすべてがわかる内容となっている。学生から研修医、これから口腔機能低下症と向き合おうと考えている歯科医師だけでなく、ある程度経験を積んだ歯科医師にとっても学べることが多いはずである。さらに歯科衛生士はもちろん、管理栄養士、看護師、医師など高齢者と接する機会のある医療関係者にもためになる本である。この一冊で患者までもしっかりと満足させることができる素晴らしい内容となっているので、ぜひ目を通していただきたい。

Urban氏史上、最高&最新の硬軟組織マネジメントがここに! Vertical 2 骨造成 垂直的および水平的歯槽堤増大術の完成形

Istvan Urban・著 中田光太郎/松野智宣/岩野義弘・監訳 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 44,000円(本体40,000円+税10%)・560頁 評 者 丸川 恵理子 (東京医科歯科大学医歯学総合研究科口腔再生再建学分野) Urban氏の“ソーセージテクニック”は、インプラント治療における骨造成を行う歯科医師で、もはや知らない人はいないといっても過言ではない、世界的に普及している骨造成術である。ガム付きの上部構造に頼ることなく、骨も歯肉もこれでもかと造成し、美しい手術、結果を提示し続けている。 本書は、難症例における対処法が数多く提示されていることが特色であるが、そのような症例においても、失われた口腔組織の再生を審美的にも機能的にも実現している。読者の皆さんは難症例を日常的に取り扱う方だけではなく、骨造成の経験が少なかったり、そこまで大規模な骨造成を行うことが少ない歯科医師も多くいるだろう。本書は、これまでの専門書では示されていない詳細な説明や勘所を惜しむことなく提供している。そのため、あらゆる場面に対応できる手法が示されており、その一部の手法を少しずつ盗めるように、あらゆる経験値の歯科医師のための「GBRの教科書」となっている。GBRの経験を重ねていくうえで、必ず直面する問題や疑問を解決してくれる多数の症例を提示している書籍は他にはないと思われる。 たとえば、サイナスリフトにおける感染後のリカバリー症例の“アイランドテクニック”は、大小さまざまな規模の違いはあっても、骨欠損が上顎洞と接していた場合に非常に使える方法である。“ミニソーセージテクニック”や“細いストリップグラフト”(帯状に採取した移植片)は、多くの人が使用し得る低侵襲な術式である。また、ストリップグラフトをダブルで行う“ダブルストリップグラフト”や“アイスキューブ結合組織移植”など、Urban氏らしい新しい斬新な方法を楽しく拝見させていただいた。難しそうだなと感じる方にとっても、考え方、骨や歯肉の取り扱い方法などが豊富に示されているので、必ず持っていて良かったと思うときが来るだろう。 また、BMP(骨形成タンパク質)を長年研究してきて、日本では臨床応用にいまだ至っていない現状を憂いている評者としては、腸骨などの口腔外からの骨を採取することなく、口腔内からの骨採取と低容量のBMPで賄っている点は非常に興味深く、今後の臨床において希望がもてる結果であった。本書では、すべてをBMPで骨再生するのではなく、通常の骨移植で骨ができにくい上方部にBMPを加えることで、質の良い十分な量の骨が形成されることを“ラザニアテクニック”という手法で示してくれている。低容量での使用であれば、副作用を減少させ、安全性が向上し、他の成長因子と一線を画して絶対的に骨形成が実現できる唯一のものであると考えているが、おそらくUrban氏も評者と同じように感じて使用しているのだと勝手に想像している。長年、骨再生や骨造成について研究し、Urban氏を追いかけて感じることである。 ぜひ、骨造成を行うすべての歯科医師に本書をご一読いただきたい。

これまでにないユニークなスタイルにまとめられたインプラントの図鑑 インプラント図鑑 視覚で巡るインプラントの世界

一般社団法人日本インプラント臨床研究会・編クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 19,800円(本体18,000円+税10%)・288頁 評 者 古谷野 潔 (九州大学名誉教授) 本書は、一般社団法人日本インプラント臨床研究会の創立50周年記念誌としてまとめられた書籍である。同研究会の40周年の際には『インプラントのための重要12キーワード・ベスト240論文』が記念誌として発刊された。当時インプラント臨床を取り扱った書籍で科学的エビデンス(学術論文)に焦点を当ててまとめられた本はほとんどなく、エポックメイキングな素晴らしい書籍であった。50周年記念誌である本書『インプラント図鑑』もこれまでになかったユニークなスタイルにまとめられた好著である。 世に図鑑はたくさんあるが、インプラントの関連書物で“図鑑”というのはこれまでになかったのではないだろうか? しかし、本書を開いてみるとなるほど“図鑑”である。歯科インプラントに関する17のトピックを取り上げ、重要な情報をイラストや図表を多用してコンパクトにまとめている。気ままにページを開いてみるのも良いし、興味あるトピックのページを見てみるのも良い。どのページも情報が視覚を通してスッと頭に入ってくる。一方で、とっつきやすさや見やすさばかりでなく、科学的エビデンスについても重要論文の内容を構造化抄録の形で載せるなどの工夫もある。 オッセオインテグレーションの概念が紹介されてからすでに半世紀以上が経過した。その間、多くの研究成果が臨床応用され、実臨床での検証を経てインプラント治療は大いなる進歩を遂げた。本書では、インプラント治療にかかわる基礎から臨床の幅広い専門分野(口腔外科、補綴、歯周治療、予防)を網羅する17のトピックが精選されている。それぞれのトピックについて、最新の治療法のみならず、この間に積み重ねられてきた歴史上の変遷や発展の過程も合わせて記述されている。 歯科インプラント治療に長く携わっている者であれば、インプラント治療の歴史的な変遷や進歩を踏まえてどのように最新の治療法に至ったかを時代とともにみてきたわけであるが、若い世代の歯科医師はこうしたインプラント治療の変遷、発展の過程における重要事項を整理して学ぶ機会は少ないのではないだろうか? 本書はそうした方々が最新の重要事項を歴史的変遷とともに学べる貴重な書籍である。また、ベテランの方々にとっては知識の整理や確認を簡便に行ううえで、手元にあれば、たいへん便利な1冊となっている。 巻末特別企画の「日本口腔インプラント学会専門医を対象にしたアンケート調査」「最新インプラント形状&表面性状一覧」「プレゼンで使える、あの分類および文献ベスト20」「臨床で使える、基礎知識および基本術式」、および付録の小冊子「インプラント治療におけるさまざまなリスク因子」では、重要事項が簡潔にまとめられており、知識の整理・再確認にたいへん便利である。 本書は、インプラント治療にかかわる者の座右に置いてほしい1冊である。

インプラント周囲炎をゼロに導くためのトータルコンセプトがここに! インプラント周囲炎ゼロコンセプト 科学的根拠に基づいた多角的アプローチ

糸瀬正通/水上哲也/金成雅彦/澤瀬 隆・監著 高橋徹次/吉竹賢祐/林 美穂/馬場正英/吉野 晃/村川達也/船木 弘/工藤昌之/溝上宗久・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 16,500円(本体15,000円+税10%)・208頁 評 者 松野 智宣 (日本歯科大学附属病院口腔外科) 近年のインプラント治療においては、機能性に加えて審美性の高い回復が行われ、骨造成や軟組織のマネージメントが不可欠になってきている。同時に、その機能性と審美性をいかに長期的に維持していくかも求められている。そのためには、インプラント周囲炎やそのリスクファクターをどのように予防し、コントロールしていけるかがポイントとなる。 インプラント周囲炎を惹起するリスクファクターは、患者側あるいは術者側の人的因子(ソフト的因子)と、上部構造を含めたインプラントコンポーネントに関連するハード的因子に大別されるが、両者がともに関与することも決して少なくない。いずれにしても、いかにインプラント周囲炎のリスクファクターをなくすことができるかが重要となる。 本書『インプラント周囲炎ゼロコンセプト 科学的根拠に基づいた多角的アプローチ』は、まさにそのタイトルどおり、インプラント周囲炎のリスクファクターをいかになくしていくかを、ハード的因子とソフト的因子の両面から科学的な根拠と著名な執筆者らの長い臨床経験に基づいて多角的に分析している。さらに、インプラント周囲炎治療のアプローチやメインテナンスまで、インプラント周囲炎を限りなく"ゼロ"にするためのトータルコンセプトが本書には凝集されている。 それでは、CHAPTER 1〜5からなる本書のコンテンツを紹介する。CHAPTER 1「リスクファクターからみたインプラント周囲炎ゼロコンセプト」は、インプラント周囲組織の状態、インプラント体およびインプラントコンポーネントの要因、初期骨吸収症例からの考察、埋入ポジション、硬・軟組織および咬合のマネージメント、デジタル化を用いたマネージメント、上部構造形態の影響などの11項目を豊富な症例写真とイラストを用いてリスクファクターへの対応を中心に解説している。CHAPTER 2は「インプラント周囲炎の再生プロトコル」として、非外科的アプローチと再生療法について、CHAPTER 3「即時埋入、即時荷重とインプラントの永続性」では、即時埋入によるインプラント周囲炎のリスクコントロールについて、CHAPTER 4「インプラント周囲炎を予防するための総合歯科治療の実践─矯正治療とインプラントポジションの問題点─」は、矯正治療併用によるリスクファクターのコントロールについて、CHAPTER 5「インプラント周囲のメインテナンス療法」では、高齢インプラント患者のメインテナンスプロトコルについて、各CHAPTERとも症例写真を提示しながら治療法を具体的にわかりやすく解説している。  このように本書は、インプラント周囲炎を限りなく"ゼロ"にするために、インプラントコンポーネントからメインテナンスまでをトータルにコーディネートしたユニークなコンセプトで編集され、インプラント臨床に有用な1冊となっている。

tags

関連記事