今回の記事は書籍「歯科技工士の仕事」から一部抜粋した内容をご紹介させて頂きます。書籍情報:「歯科技工士の仕事:」手に職をつけて、人々の笑顔をつくる 村田彰弘 著 出典:合同フォレスト株式会社今回の記事は前編・後編の2部構成の後編になります。日本の歯科技工技術は世界トップレベル
私は現状を悲観し、文句だけを言いたいわけではありません。むしろ、改善すべきところを明確にして、本来のあるべき姿に変えてこの職業を守り、日本の人々の歯を守っていかなければいけないと強く思っています。なぜなら、日本の歯科技工士の腕は世界でも トップレベルであり、心から誇るべき職業だからです。 歯科技工に関して世界最高峰のレベルを誇るドイツは、日本と同じ歯科技工士の国家資格があり、開業するには資格取得を示す「マイスター」が必須です。専門のスクールで一 般教養やマネジメント、経済学、心理学などさまざまな分野の学問を学んだ上で試験を受け、合格すると取得できます。マイスターの称号を得た歯科技工士は社会的に認められ、歯科医師と対等な関係で患者さんのために歯科医療を行うパートナーです。当然ながら歯科技工士によりスキルはさまざまですが、日本では学校を出てから歯科技工士として技術を磨く人、さらに自分で勉強し続ける人、自腹でセラミック技術や咬合理論などの専門技術を学び、スペシャリストを目指して知識と腕を高める人もいます。 自動車を運転するときに必要な免許は、ペーパードライバーもF1レーサーも同じですが、両者の運転技術には大きな差があります。そういう意味では、歯科技工士の世界もひとくくりに捉えるべきではないでしょう。 ですが現状では、日本の歯科技工士が世界でもトップレベルの教育を受け、国家資格を持っているにもかかわらず、なかなか歯科医療の現場で対等のパートナーとして扱われている実態が少ないことに、私は非常にジレンマを感じています。 私はよく海外で視察や学会参加をします。アメリカやヨーロッパ、オーストラリアや東南アジアを中心に世界を回り、現地の歯科技工士と交流を重ねてきました。海外の技工所 を訪問して、現地の歯科技工士と話をすると、「日本の歯科技工士」というだけで、どこに行っても必ず尊敬の扱いを受けます。それくらい、世界には「日本人歯科技工士の技術力が高い」という周知の事実があるのです。 これは本当に日本の歯科技工士として誇り高いことだと思います。 それだけに、海外から日本に戻るたび、国内外での歯科技工士の扱われ方にジレンマを感じてしまうのです。私は、日本の若い歯科技工士に自分たちの価値を知ってもらい、自身の仕事に誇りを持ってもらいたいと思っています。 そして、決して歯科のヒエラルキーの最下層の存在ではなく、歯科医師、歯科衛生士と 共に歯科医療を支える三本の柱の一本だということを、歯科医療に関わる人はもちろん、 多くの人に知ってもらいたいのです。歯科技工士の立ち位置の変化
現在、意識の変化が歯科業界全体にも起きているように感じます。前編でお伝えしたように、業界の中で歯科技工士は非常に立場の低い時代がありました。医療とはいえ、歯科医師と歯科技工士の間には商売として利益を追求する面が存在します。さらには歯科医師自身が補綴物を作製していた時代があり、歯科技工士を助手として見る傾向があったのかもしれません。 しかし歯科医師向けのセミナーや講演会、業界の人との食事会などで話をした時の感覚ですが、歯科医師が歯科技工士を下に見る傾向が、以前より減ってきているように思います。特に若手の医師は、歯科技工士を「一緒に患者さんの歯を作る対等なパートナー」に見ていると感じます。ドイツでは当たり前の考え方に、日本も少しずつ近づいているのです。 一流の建築家は、家を作るときに必ず一流のビルダー(工務店や大工)に仕事を依頼します。それと同じように、一流の歯科医師は一流の歯科技工士に仕事を依頼します。そこには相互リスペクトが存在し、その関係は良い治療に結び付き、結果、患者さんの健康に寄与することができます「お互いリスペクトを持って、対等な存在である」ことは、患者さんの利益にもつながるのです。歯科医師と歯科技工士の関係性が変わってきていることは、患者さんにとっても良い流れといえると思います。歯科技工士と歯科医師が、お互いを選ぶ時代
このような歯科医師と歯科技工士の関係性の変化によって、補綴物の作製に際して、最良でない状況で進めることや、法外なダンピング(値引き交渉)に対して「NO!」と言 える歯科技工士が増えてきていると感じます。例えば、印象がうまくいかずマージ ンが出ていない場合、「印象を取り直さないと良いものができない」と提案します。以前はこんなことも言いにくい関係でしたが、 少なくとも私の会社の取引先はどこも快く歯型を取り直してくれます。もちろん、すべて は「患者ファースト」の考えがあってこそです。 ダンピングの問題は早急に解決しなければなりません。特に個人事業主の歯科技工士は、そのまま収入減に直結します。以前はダンピングへの抵抗は困難でしたが、もうそんなことを言っていられる状況ではありません。ダンピングに応じ続けると、若い人がこの業界に入ることはおろか、先人たちが守り続けてきた「国家資格を持った日本人歯科技工士」の灯火を消してしまうことになりかねないのです。 もちろん、全員がすぐに同じことをできるとは言いません。ですが、今現状を変えないと、歯科技工士の灯火はもちろん、患者さんの健康まで脅かすことになってしまいます。歯科技工士はクリーンな仕事
かつて歯科技工士の仕事は、いわゆる3K(きつい・汚い・危険)だといわれた時代がありました。しかし、時代は変わっています。私はむしろ、クリーンな仕事だと思います。ここでいう「クリーン」は、清掃状態ではありません。この仕事は、しっかりとした技術を身に付けて良いものを作れば、歯科医師にも患者さんにも喜んでもらえて、技術に見合った報酬が得られます。なんら「汚い」ことをして、例えば人をだまして得る報酬ではありません。 問題は、この環境に行き着くまでに辞めてしまう人の多さです。今後は、少しでも若い歯科技工士に夢を持ってもらえるような環境づくりを進めること、働きやすさを伝えていくことが重要です。 医療人でありかつ職人である歯科技工士は、腕を磨くことで仕事のやりがいが増し、給与アップや独立開業などさらなるステージが開けます。これから歯科技工士業界を担う人達には、是非とも希望と誇りを持って仕事をしてほしいと思います。 前編「歯科技工士の良くない過去・現在」の記事へ書籍情報:「歯科技工士の仕事:」手に職をつけて、人々の笑顔をつくる 村田彰弘 著 出典:合同フォレスト株式会社
著者村田彰弘
株式会社LAZARUS
代表取締役/歯科技工士
略歴
- 2002年3月 兵庫歯科学院専門学校卒業
- 2002年 保険技工所にてデンチャー担当
- 2003~2005年 伊藤歯科医院(大阪・新大阪)
- 2005~2006年 Au Ceram(USA・サンタモニカ)
- 2006~2010年3月 カツベ歯科クリニック(大阪・本町)
- 2010年5月6日~ LAZARUS開業
- 大阪SJCD会員
- 顎咬合学会会員
- 顎咬合学会認定技工士
- スタディグループN・H・K会員
- Amorphous会員
- 咬合・補綴治療計画セミナー 本多正明先生
- 株式会社LAZARUSホームページ
https://www.lab-lazarus.com/