第2回は、前回のテーマである「キャリアデザインと行動」、その考えを大事にしているうえで私が歩んできた歯科医師人生について書きたいと思います。 タイトルのStep aheadは、クインテッセンス出版株式会社から発行されている「QDT」の私の大好きなコーナーと同じタイトルにしました(関係者の皆様、お許しください)。 まず、どなたも学生時代に卒後の進路について悩まれると思います。私の場合、長期的な将来の目標として、一般歯科医として何でもできるようになりたいとは思っていましたが、短期的にはお金を稼ぐことではなく、まずは歯科医師としてのベースづくりが大事だと考えていました。 そこで、私が学生時代にはまだ臨床研修医制度が義務化されてはいませんでしたが、卒後すぐに開業医に就職することに不安があったため、母校に研修医として残り歯科医師としての基礎を学ぶことを選択しました。 研修後は、超高齢化社会の中で歯科治療を行っていく前提として、全身疾患について学ぶ必要性を感じていたので、歯学部ではなく医学部の口腔外科を探して東邦大学医学部口腔外科に入局しました。 現代では社会的に消滅していると思いますが、当時口腔外科での一年目は無給でした。つまり、タダ働きです。さらに明らかな人員不足による野戦病院状態のなか、早朝から夜遅くまで働き、無給なので一人暮らしすることもできず実家暮らし、通勤もたいへんで不眠不休の二度と戻りたくないタフな毎日を過ごしていました(当時は医科、歯科ともに駆け出しの医局員は無給が当たり前の時代でした)。とはいえ、口腔外科での2年間で指導していただいた先生方のおかげで貴重な知識と経験を得ることができました。 その後、口腔外科のOBの先生のクリニックに勤務医として就職し、やっと一般歯科医としてキャリアがスタートしました。週休2日で給料も人並みにもらえて、口腔外科時代と違い、心も体も一気に豊かになりました。 ただ、開業医で1年ぐらい働いていると、さまざまな臨床の壁にぶつかるわけです。その1つが、審美材料でした。当時、まだPFM(メタルボンド)が主流でしたが、アルミナがまだあって、ジルコニアと二ケイ酸リチウム(e.max)が出始めていて、エステニアなどのハイブリッドレジンも人気がありました。この審美材料の正しい知識をどのように得ればいいか悩んでいた時期に、日本歯科大学生命歯学部に社会人大学院制度があることを知り、さらに補綴第2講座の新谷明喜教授の専門が審美材料だったこともあり、すぐに入学を申し込みました。 週5日は勤務医を続け、貴重な2日間の休日に社会人大学院生として大学に通う生活になりました。そこで、ジルコニアについて研究し、補綴についても学ぶことができたのが私の歯科医師人生の大きなターニングポイントです(図1)。 図1 大学院修了時に当時1歳の息子と。 また、医局の先生と一緒に米国の補綴学会に参加する機会があり、そこで自分の研究や論文の参考にしていたワシントン大学のAriel J. Raigrodski教授の講演を直接聞いた際に大きな衝撃を受け、Raigrodski教授の下で学びたい強い気持ちを抱きました。さらには、その後ご縁があって、Raigrodski教授のワシントン大学に留学することもできました(図2)。 図2 AAFPのActive Memberとなった際にRaigrodsiki教授と筆者。 帰国後は、家族のためにバリバリ働いてお金を稼いで生活を楽にしてあげたい一心で、いよいよ開業に向けて動きだしました。 休みなく努力し続ける生活など今の時代に受け入れられないとは思います。人材不足の今なら卒業してすぐに結構なお金を稼ぐことも可能です。しかし、「成功は一日にしてならず」あるいは「若い時の苦労は買ってでもせよ」といった格言があるように、努力なくして大成することは難しいと私は思っています。 次回からは、開業についての取り組みなども含めてご紹介させていただきたいと思います。
著者原田 光佑
原田歯科医院院長(神奈川県横浜市緑区)
歯学博士
日本歯科大学生命歯学部歯科補綴学第2講座非常勤講師
東邦大学医学部口腔外科客員講師
American Academy of Fixed Prosthodontics Active Member
日本歯科理工学会認定Dental Materials Adviser
略歴
- 2004年 日本歯科大学新潟歯学部卒業
- 2005年 日本歯科大学新潟歯学部附属病院臨床研修歯科医師修了
- 2005~2007年 東邦大学医学部口腔外科
- 2009年 日本歯科大学生命歯学部歯学研究科入学歯科臨床系専攻
- 2013年 日本歯科大学生命歯学部歯学研究科修了歯学博士取得
- 2014年~ 日本歯科大学生命歯学部歯科補綴学第2講座非常勤講師
- 2014~2015年 米国ワシントン大学補綴科留学
- 2016年 米国クラウンブリッジ学会正会員認定(American Academy of Fixed Prosthodontics Active Member)
- 2017年 原田歯科医院開業