前回までは、歯科医師として「思考、行動、努力」について書いてきました。今回からは、歯科医院の開業について述べていきます。 私のような若輩者は偉そうなことはいえませんが、端的に歯科医院を成功させるためには自分の診療スタイルの確立と、それを反映した歯科医院のブランディングが一番大事だと考えています。 まず、開業前にはあらためて「自分の診療スタイル」について見つめ直すことをお勧めします。特に、将来開業を検討されている勤務医の先生は必要です。「自分は院長より治療がうまいし、患者さんからも人気があるから、そろそろ開業するかな」と思われる方はいるでしょう。 実際に、そのまま開業されて大成功される先生も多いと思いますが、残念ながら思いどおりにいかず、勤務医の時はうまく行っていたのに……。なんて思われる先生もたくさんいます。 また、開業すると治療だけでなく人事・労務・財務・税務など、経営者としての仕事もかかわらなくてはなりません。特に人材不足の現代にとって、人事の悩みはつきませんので、勤務条件が良く上司や同僚が尊敬できる環境であれば、開業せず勤務医としての診療スタイルが合っている場合もあります。 私の場合は、何でも自分でやるのが好きなので開業することを決めていましたが、どのような診療スタイルにするかは開業前にとても悩みました。 特に、一般的な保険診療を中心とした歯科医院とするか、自由診療のみの歯科医院とするかです。ご存じのとおり、保険診療は薄利多売で、自由診療は真逆の厚利小売です。私の周りには自由診療のみで成功されている先生が何人もいました。前回述べたように私自身は審美領域を専門としており、またインプラント治療も好きなので自分の得意とする分野の自由診療のみでやっていくことが理想的だとは思っていました。 ただ、地域に密着したホームドクターとして地域に貢献したかったことや、良い治療を提供して子どもから高齢者まで老若男女問わず患者さんから笑顔をもらえることにやりがいを感じていたこと、経営面からも自費専門の歯科医院にリスクを感じたことから、郊外の住宅街で保険診療中心の診療スタイルがもっとも自分に合っていると判断しました(図1、2)。 図1 地域に密着したホームドクターが私に合った診療スタイル。 図2 小さい子どもの患者さんからいただいたお手紙で私も笑顔に。 とはいえ、ほとんどの歯科医院が保険診療中心ですので、他院との差別化が必要です。また、もし患者さんに多く来院していただいたとしても、保険診療中心では自由診療のように1人の患者さんにゆっくり時間をかけることができず、忙しい割には利益が思ったほど上がらず、疲弊してしまう可能性もあります。 そこで、大事になるのがブランディングです。たとえば、ユニクロと聞けばだれもがシンプルで着やすい服を手頃な価格で提供している企業だとイメージできますし、シャネルと聞けば高級なイメージを抱くと思います。このようにブランディングとは、そのブランドの強みや方向性を認知してもらい、ブランド価値を高めていく戦略のことです。 歯科医院でも同じで、小児歯科は子ども向けの明るい雰囲気にして、都市部の自費専門の歯科医院は高級感溢れる雰囲気にしています。ところが、一般歯科医院となるとブランディングが曖昧になり、よくある感じの歯科医院になっていることがほとんどだと感じます。開業した当初は新しいということで差別化ができていますが、しばらくするとその効果は薄れてしまいがちです。しかし、ブランディングに成功している歯科医院は、周りに新規の開業があっても魅力的で差別化は維持されます。 次回は、私が開業準備時から注力しているブランディングについて述べたいと思います。
著者原田 光佑
原田歯科医院院長(神奈川県横浜市緑区)
歯学博士
日本歯科大学生命歯学部歯科補綴学第2講座非常勤講師
東邦大学医学部口腔外科客員講師
American Academy of Fixed Prosthodontics Active Member
日本歯科理工学会認定Dental Materials Adviser
略歴
- 2004年 日本歯科大学新潟歯学部卒業
- 2005年 日本歯科大学新潟歯学部附属病院臨床研修歯科医師修了
- 2005~2007年 東邦大学医学部口腔外科
- 2009年 日本歯科大学生命歯学部歯学研究科入学歯科臨床系専攻
- 2013年 日本歯科大学生命歯学部歯学研究科修了歯学博士取得
- 2014年~ 日本歯科大学生命歯学部歯科補綴学第2講座非常勤講師
- 2014~2015年 米国ワシントン大学補綴科留学
- 2016年 米国クラウンブリッジ学会正会員認定(American Academy of Fixed Prosthodontics Active Member)
- 2017年 原田歯科医院開業