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動機づけ面接(Motivational Interviewing:MI)とは

動機づけ面接(Motivational Interviewing:MI)とは
動機づけ面接(Motivational Interviewing:MI)とは
カリオロジー(齲蝕学)分野では、少し前まで、“MI”というと、“Minimal Intervention”、すなわち「最小侵襲療法」を意味するのが通例でしたが、最近は、「動機づけ面接(Motivational Interviewing)」の意味で用いられることが増えてきた感があります。特に、スウェーデンの歯科医療では2011年のナショナルガイドラインに行動変容分野が含まれてから、この15年足らずの間で急速に歯科医療への応用が進んでいるそうです。日本の歯科医療現場では、まだそれほど広く知られていないかもしれません。それでは、この動機づけ面接とは何なのか、開発者であるWilliam R. Miller と Stephen Rollnickの指導を受けた有志により設立された“Motivational Interviewing Network of Trainers”という国際的非営利団体のウェブサイトhttps://motivationalinterviewing.org/ を基にご紹介します。

歯科医療現場では日々、患者さんの行動変容が問われる場面に直面します。たとえば、歯磨き習慣の改善、間食のコントロール、定期受診の継続、喫煙の中止などです。こうした課題において、「どうすれば患者さんが動いてくれるのか?」という問いは、ほとんどすべての歯科医師・歯科衛生士の悩みの種なのではないでしょうか。

MIは、「人の行動変容を支援するための協働的かつ目標志向型のコミュニケーションスタイル」と定義されます。特に、患者さんが変化に対して両価的(ambivalent)であるときに有効であり、「なぜ変わるべきか」を本人の言葉で引き出し、「どう変わるか」を共に考えるという姿勢が根幹にあります。

MIは、以下の4つの精神(Spirit)に支えられています:

・パートナーシップ(Partnership):医療者は患者の「人生の専門家」としての視点を尊重し、対等な立場で対話する
・喚起(Evocation):答えは患者自身の中にあるという前提のもと、変化の理由や価値を引き出す
・受容(Acceptance):価値観や選択を尊重し、評価や批判をせずに共感を示す
・思いやり(Compassion):患者の利益を最優先とし、その幸福に焦点を当てる

MIでは、歯科医師や歯科衛生士が一方的に指導・忠告をするのではなく、患者さんが自らの意思と責任で変化に向かう力を引き出すための「対話の設計」を行います。その中核となるのが「OARS」と呼ばれる4つの基本スキルです:

1. 開かれた質問(Open questions):語らせる質問を通じて内省を促す
2. 肯定(Affirmation):努力や価値を認め、自己効力感を高める
3. 反射的傾聴(Reflective listening):言葉の裏にある感情や価値を言語化し、共感的理解を深める
4. 要約(Summarizing):話された内容を整理・確認し、患者自身の理解を促進する

MIは、次のような場面において特に有効です:

・行動変容へのモチベーションが低い
・患者が変わりたいと思っているが自信がない
・変化すべきかどうか迷っている
・現在の生活習慣に問題意識が乏しい

歯科臨床では、特に齲蝕、歯周病、メインテナンス、インプラント後の衛生管理など、慢性疾患における患者さんのセルフケア行動に直結する重要な対話スキルと言えるでしょう。たとえば齲蝕を繰り返す患者さんに対して、いきなり病因論を説明するのではなく、「むし歯がなぜできるのか、説明を受けたいですか?」と患者の意思を尋ね、受けたくないのなら「なぜ受けたくないのですか?」とその背景を探っていき、その過程で誰もが持っている「健康でいたい」という気持ちを丁寧に掘り起こしていきます。

MIは歯科医師・歯科衛生士以外にも、受付スタッフ、保健指導に携わる保健師や栄養士など、多職種での応用も可能です。患者さんとの日常的なやり取りの中でOARSを意識するだけでも、患者さんの受療態度や行動変容、治療継続への影響が期待できます。今後、医科歯科連携や予防歯科が拡大するなか、「一回限りの治療」から「継続的な健康支援」へと歯科医療の役割が進化するにあたり、MIのような「関係を築く力」が一層求められていくでしょう。

著者西 真紀子

NPO法人「科学的なむし歯・歯周病予防を推進する会」(PSAP)理事長・歯科医師
㈱モリタ アドバイザー

略歴
  • 1996年 大阪大学歯学部卒業
  •     大阪大学歯学部歯科保存学講座入局
  • 2000年 スウェーデン王立マルメ大学歯学部カリオロジー講座客員研究員
  • 2001年 山形県酒田市日吉歯科診療所勤務
  • 2007年 アイルランド国立コーク大学大学院修了 Master of Dental Public Health 取得
  • 2018年 同大学院修了 PhD 取得

西 真紀子

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