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閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)治療のための睡眠歯科講座 第1回:睡眠時無呼吸とは?

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)治療のための睡眠歯科講座 第1回:睡眠時無呼吸とは?
閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)治療のための睡眠歯科講座 第1回:睡眠時無呼吸とは?
人は人生の1/3の時間を睡眠に費やし、睡眠を通じて心身の休息だけではなく身体全体のメンテナンスもしているといわれています。しかし、技術革新や生活習慣の変化にともない、世界各国で睡眠の質の低下が問題となっています。

睡眠障害には不眠症、過眠症などさまざまな病態があります。その中でも睡眠の質の低下に大きくかかわるのが、睡眠中の呼吸異常が特徴の睡眠障害である「睡眠関連呼吸障害群(SRBD)」です。SRBDはさらに、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)、中枢性睡眠時無呼吸(CSA)などに分けることができます。このうち、OSAとCSAを総称して睡眠時無呼吸症候群(SAS)と表記することもあります。

SRBDとOSAの違いは図1に示すように自覚症状の有無です。一般的に、歯科で行う口腔内装置治療の適用はOSAとされています。しかし、自覚症状のないOSA(SRBD)患者さんが大多数を占めることがわかっており、睡眠歯科治療の適用をSRBDとする文献も増えています。


図1  SRBDとOSAの違いは自覚症状の有無。参考文献1より引用。

睡眠歯科で治療の対象となるOSAとは、もっとも一般的な睡眠呼吸障害で、睡眠中に呼吸しようと努力しているにもかかわらず、気道が部分的、または完全に閉塞することを繰り返すことを特徴とし、通常SpO2の低下をともないます。

睡眠中の上気道の狭窄の基盤となる病態生理には、多くの要因がかかわります。解剖学的な要因は、上気道周囲の軟部組織沈着、顎顔面形態、舌容積、扁桃肥大などにより上気道径が小さくなることなどが挙げられます。また、生理学的な要因は、上気道代償性低下、覚醒閾値の低下、呼吸調節系の不安定性および高いループゲインなどが挙げられます。


図2 気道閉塞を引き起こすさまざまな要因。参考文献1より引用。

睡眠中に呼吸が停止すると血液中の酸素飽和度が低下するため、このSpO2を元の水準に戻そうと脳が指令を出し、その結果、人は目が覚めて呼吸が復活します。しかし、OSA患者の場合、眠りにつくと呼吸が再び停止することになります。これが一晩中繰り返されるため、患者さんは深い睡眠がとれなくなり、図3に表すような症状に見舞われることが多くなります。


図3  睡眠時無呼吸が引き起こすさまざまな症状。参考文献1より引用。
 
一方で、小児におけるいびきとOSAのおもな原因は、鼻閉、口蓋扁桃肥大および咽頭扁桃(アデノイド)肥大、その他の原因として顎顔面形態異常が挙げられます。日中の症状として、小児は成人とは対照的に日中の眠気を主訴として訴えることは少なく、多動性、衝動性を伴う行動特徴 (ADHD)、学習障害、記憶力の低下、成長ホルモンの減少による成長障害、口呼吸、長時間の昼寝、幼稚園や学校での居眠りなども挙げられます。

日本では、2018年に世界最大規模の疫学調査「ながはまコホート」が行われ、治療が必要なOSA有病患者の割合は成人男性では約4人に1人、閉経後女性では約10人に1人の割合で認められることが判明しました。

SRBD(OSA) 治療の有無は、生命予後にも影響を与えます。中等症以上のOSAを放置した場合、8年後の生存率は、OSA 治療を受けた患者さんと比較して約63%にまで低下すると報告されています。

SRBD(OSA)の治療で忘れてはならないのは、未診断の潜在性のSRBD 患者の膨大な数と、それが及ぼす健康面、社会面、経済面への影響です。睡眠に関して悩んでいる患者のうち、主治医にその主訴を伝えたのはわずか6%との報告があり、睡眠障害を有する患者さんの大半は、医科を受診していないのが現状です。

一方で、睡眠に関して問題を抱えている患者さんの多くは、定期的に歯科検診と歯科治療を受けています。SRBDの兆候は身体的、社会的のみならず、口腔内に現れることも多く、歯科医師は潜在性のSRBD 患者をスクリーニングし、早期発見、早期治療をすることができる重要な立場にあるといえるのです。

参考文献
1.宮地舞.歯科医師のための睡眠時無呼吸治療.東京:クインテッセンス出版,2022.
2.American Academy of Sleep Medicine. International classification of sleep disorders(3rd ed). Darien, IL:American Academy of Sleep Medicine, 2014. 
3.He J, Kryger MH, Zorick FJ, Conway W, Roth T. Mortality and apnea index in obstructive sleep apnea. Experience in 385 male patients. Chest. 1988 Jul;94(1):9-14.

著者宮地 舞

DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA
歯科医師

経歴
  • 2015年 東京医科歯科大学歯学部歯学科 卒業
  • 2016年 東京医科歯科大学歯学部病院第二総合診療部 臨床研修終了
  • 2018年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校歯学部病院 保存修復分野プリセプタープログラム修了
  • 2020年 カリフォルニア大学ロサンゼルス校歯学部病院 口腔顔面痛・睡眠歯科学専門医コース修了
  • 2020年 歯科成増デンタルクリニック 勤務
  • DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA 勤務
  • 東京医科歯科大学病院 歯系診療部門 口腔機能系診療領域 義歯科 
  • (専)快眠歯科(いびき・無呼吸)外来 
  • 2023年―現在
  • 歯科成増デンタルクリニック 勤務
  • DENTISTRY TOKYO SINCE 1925 MIYACHI SHIKA 勤務
  • 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 
  • 摂食嚥下リハビリテーション学分野 
  • Institute for Dental Sleep Medicine(https://idsm.jp/)主宰
宮地 舞

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