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2025年12月のピックアップ書籍

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一般歯科と矯正歯科の境界線を取り払う、セファログラムの真価 イチからわかる! セファログラムの作法と心得

村松裕之・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 9,900円(本体9,000円+税10%)・144頁 評 者 髙井基普 (東京都・プレミアム デンタル ケア 恵比寿 代官山 約20年前に刊行された、村松裕之先生の著書『診断力のつくセファログラム読みとりのテクニック』は、初学者の私にとってかなりセンセーショナルな書籍であり、これまで繰り返し拝読してきました。一般歯科医として知っておくべき知識がとてもきめ細やかに記されており、私の歯科医師人生でもっともインパクトある書籍と言っても過言ではありません。特に、ひとつの症例を用いてさまざまなセファロ分析法の相違を解説されている内容は、一般歯科医が歯科矯正学に対して抱きやすい畏怖の念を払拭しうるものだと感じています。 そして、2023年よりアライナー矯正治療の専門誌『JAO日本版』にて連載された、村松先生の『矯正分析に強くなる ベーシックを学び、診断力をつける・伸ばす』も毎号拝読していました。この連載が書籍化されることは村松先生から直接伺っておりましたが、書籍が手元に届いた瞬間、違った意味での衝撃的な感動を覚えました。それは、本書のタイトルの「作法と心得」という表現でした。私は15年ほど前から深く歯科矯正学に興味をもつようになったのですが、矯正専門医と一般歯科医の間には言葉にはできない境界線のようなものを感じていました。時の流れとともにアライナー矯正治療が市民権を得るようになり、その境界線はさらに際立ってきているようにも見えます。私はその成因を、一般歯科医が歯科矯正学の歴史や見識を深く理解していないからであろうとおぼろげにとらえていましたが、今回の書籍を手に取ることで自分の中で明確になりました。一般歯科医がアレルギーをもちやすいセファログラムの「作法と心得」を学ぶことこそが、その境界線を払拭するために欠かすことのできない打開策の第一歩であるということです。 本書では、一般歯科医が押さえておくべきセファロ分析の実践的な解説が凝縮されています。特に第4章では、「OB wo OB」と「DB wo DB」という表現を用いた、「骨格系と歯系・咬合との不調和」についての解説があります。時に、矯正専門医や一般歯科医が向き合う咬合再構成が必要な症例には、終わりが見えず何故か上手くいかないような場合や、再治療を繰り返してしまうような難度の高い症例が存在します。その「咬合再構成の難易度」を事前に把握するための指標として、セファロ分析を用いる有効性が示唆されています。つまり、セファログラムは矯正歯科治療に特化した検査項目ではなく、補綴治療をともなう全顎的咬合再構成にも用いることができ、さらには成長発育から老年期までの定性的な咬合管理をしていくための検査・分析法にもなりうることが示されているのです。 本書は、歯科臨床家のさまざまなラーニングステージに呼応した表情を見せてくれるはずです。発刊以来、私の臨床を豊かにしてくれている本書を、心から推薦させていただきたいと思います。

まさに解剖実習を追体験できる必須の書 チェアサイドでみる臨床口腔解剖学 口・鼻・咽喉──35のチェックポイントから学ぶ

阿部伸一 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 7,700円(本体7,000円+税10%)・104頁 評 者 鮎川保則 (九州大学大学院歯学研究院 口腔機能修復学講座 インプラント・義歯補綴学分野) 評者の所属する教室は義歯とインプラントの教育を主としているが、先代教授の時代より全部床義歯補綴学を学ぶためには肉眼解剖の教育が必須と考え、阿部先生をお招きしている。全部床義歯の印象の要諦は骨と筋肉であるという強い信念があるからである。このたび阿部先生が臨床口腔解剖の書籍を出版されたと知り、早速拝見することとした。阿部先生は学部学生に対する講義でも、臨床医向けのセミナーでも聞き手のレベルにあわせた内容で、かつわかりやすく解説されるため、本書もページを開く前から大きな期待をもっていた。 そもそも、肉眼解剖が手術に必要な口腔外科領域はもちろん、ペリオ、エンドやインプラント、矯正に至るまで、実臨床のすぐ隣に解剖学はある。多くの大学では大学生活のごく初期に解剖学を学ぶため、臨床実習の時期にはすっかり頭から抜けているのは否めない。そのため、臨床実習、あるいはそのすぐ後に控える国家試験のために慌てて知識を詰め込むわけであるが、多くの学生が教科書を紐解くのではなく、もっぱら国家試験の参考書を開くのみにとどまるため、現状では著しく解剖学の知識が偏った歯科医師が多数誕生しているに違いない。これは他の多くの科目でも同様であるが、おそらく6年間で学ぶ臨床を実践するにあたり必須の科目のうち解剖学は唯一、後から学生時代レベルの学びが不可能な科目であるといえる。それはもう一度ご遺体の解剖を行うことがほぼ不可能であるためであるが、そうであれば良書にたどり着くほかない。 しかし、このたび出版された本書はまさに解剖実習を追体験できる必須の書であると強く強調したい。とくに、一般歯科臨床を行うためには、手足はともかく頭頸部の解剖のみを重点的におさえる必要があるが、本書は口腔を中心に、鼻、咽頭とわれわれ臨床歯科医が必要な部位に絞って解説がされているため、100ページあまりとはいえ分量的には十分すぎるほどである。どの部位に何があるから気をつけようといったことがわかりやすく整理されており、歯科医師は全員必須の教科書とすべきとさえ感じられる。 評者は大学院時代、肉眼解剖学の教室に所属していたので少しはわかるつもりであるが、剖出が驚くべき美しさでなされていることも強調したい。本書の素晴らしさは、内容の素晴らしさや解説のわかりやすさだけではなく、剖出の圧倒的説得力にこそあるといえる。 1つ懸念がなくもない。これだけの書籍がなぜわずか7,000円なのか? デフレ日本を象徴しているのかもしれないが、クインテッセンス出版と阿部先生が、幅広く多くの学生や歯科医師に届くように尽力されてつけた価格設定なのであろう。このような良書を安価で手にできることを幸せに感じながら、すべての歯科医師に最大限の言葉をもって推薦したい。

スタッフ育成難&業務過多に悩む院長必見!解決のヒントがここに 歯科医院経営の強化書 vol.1 指示待ちスタッフのリセット法 スタッフ・組織が成長する仕組みの作り方

森 昭・監著 吉岡沙樹・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 4,180円(本体3,800円+税10%)・88頁 評 者 岡崎好秀 (国立モンゴル医学科学大学小児歯科客員教授) 小児歯科を志した頃、某歯科医院でアルバイトをしていた。当初は、多くの子が泣いていたが、数年たつと減った。当時は自分が上手になったのだと思った。ところがアシスタントが変わるとお利口な子まで泣く。上手なのはスタッフだったのだ。 読者も似た経験がないだろうか? スタッフが退職すると戦力がダウンする。新しいスタッフは、指示を出さないと動かず、思い通りにならない。イライラし、怒りが爆発するとジ・エンド。 振り返れば、歯科医院は専門性の高い職場である。未経験者が短期間で即戦力になるのは難しく、育成に時間がかかる。しかし「嫌なら辞める」「条件の良い職場に移る」など簡単に辞める風潮も。しかも募集しても簡単にいい人材には出会えない。 現在、歯科医療はう蝕治療からメインテナンス中心へ大きくシフトした。訪問歯科診療、医科歯科連携など、歯科に求められる役割は広がるばかりだ。こうした中では院長1人の力では限界がある。スタッフの力なくしては、新しい展開は望めない。 かつて院長に求められていたものは治療技術が9割。一方現在は人材育成が9割といっても過言ではない。もはや治療技術向上以上に育成や診療体制構築に注力する時代なのだ。 さて、MLBの大谷翔平選手は、剛速球投手&ホームラン打者。しかし体力は年齢とともに低下する。そこで選手生命を保つために、剛球派から軟投派へ、ホームラン打者からアベレージヒッターへシフトする必要がある。これは院長も同じ。体力的負担を減らし、メインテナンス中心にすれば、経営を長く続けられる。 ここで以前に盛和塾(塾長:京セラの故・稲盛和夫氏)で学んだことを紹介する。盛和塾は、企業のトップクラスが参加し、人生哲学や経営哲学を学ぶ会である。そこでは業績のみならず、企業理念が重視されていた。「経営者は,利益をあげるだけでなく、それを未来永劫存続させることが重要だ。さらに社員が生きがいを持ち働く環境を作る。すると家族も安定した生活を送れる。これが日本経済の下支えにつながる。そのためには、“会社の理念と社員の目指す方向が同じ”であることが必要だ」。まさに歯科医院にも通じる。これからの医院経営は、技術力向上だけでなく、チーム力を最大に生かすことに尽きる。ここで考えるべきことは、スタッフを変えるには、まず院長が変わる必要があることだ。院長が変わらないのにスタッフを変えることはできない。 著者は、スタッフ育成にはある程度のルールがあると述べている。これを知ると知らないのでは大きな違いが生じるという。 自分の頭だけで考えることには、限界がある。読書は他人の頭で考えることでもある。本書では、著者らがこれまで培ってきたノウハウを惜しみなく紹介している。これを実践することで“歯科医院って楽しそう、働きたい”と思い優秀な人材が集まることに期待したい。

埋伏歯の臨床的アプローチから遠隔治療や舌癒着症に至るまで幅広く網羅 別冊ザ・クインテッセンス 臨床家のための矯正YEARBOOK2025 成長期の埋伏歯を考える

クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 7,040円(本体6,400円+税10%)・176頁 評 者 甘利佳之 (東京都・アマリ歯科・矯正歯科・口腔外科クリニック) 今回の特集は『成長期の埋伏歯を考える』をテーマに、著名な臨床家の先生方によるさまざまな哲学をもとに、素晴らしい治療結果を供覧しつつ日々の臨床において示唆に富んだたいへん興味深い内容であった。 巻頭トピックスでは、須田直人先生により、上顎犬歯の萌出異常による隣在永久歯への為害作用についてまとめられ、また新設された歯科矯正相談料の活用法についても解説されている。 次に、第Ⅰ部はさまざまなスタディグループによる症例提示が行われている。各フィロソフィーのもと、検査・診断が行われ、多種多様な装置を駆使し、埋伏歯に対応した治療が行われており、読者も臨床応用しやすいのではないだろうか。第Ⅱ部では企業別による、商品紹介および臨床応用が報告されている。流派によるブラケットの選択や在庫をあまり抱えたくない歯科医師にとって、使用していない企業の製品や臨床成績を学ぶことのできる貴重なトピックスとなっている。 さらに、特別企画では、山内健介先生がデジタル技術の情報通信技術を利用した医療体系の変革ととらえ、これからの人口減少、医療過疎、医師・歯科医師の偏在解消への解決策とし、対面診療を中心とした診療体系から遠隔診療や遠隔手術を併用した診療体系へとシフトしていくことの重要性について語られている。また、山西敏朗先生は舌小帯形成術と舌癒着手術の似て非なる術式を解説されている。その中で舌癒着症は単なる局所疾患ではなく、口腔機能発達不全や気道閉塞性疾患の一因としてとらえるべき、と解説され、今後の多職種による協調と研究、そして、研修・教育システムの構築が重要であると述べられている。 海外論文では、後ろ向き研究デザインのなかで、歯周組織再生療法を含む包括的歯科治療とそれに続くクリアアライナーによる矯正学的歯の移動の組み合わせは、好ましい結果を得るための選択肢であることが述べられている。海外学会レポートでは、フィラデルフィアで開催された第125回AAOにて、目覚ましい進歩を遂げるAI活用が進む矯正歯科界におけるデジタルワークフロー、歯科用3Dプリンターなど、矯正歯科の技術革新と臨床応用の最新動向を学ぶ貴重な機会であったようだ。 トレンドでは、尾島賢治先生により、外注型アライナーでは自在にコントロールのできない厚みやマージンの長さが、インハウスアライナー導入によって治療の効率化に役立つ旨が語られている。そして、浅田薫先生からは、遠隔モニタリングで実現する「効率」と「品質」の両立が述べられ、DentalMonitoringを行うことにより突発的なトラブルの抑制や患者の状態把握がリアルタイムで可能となり、質の高いサービスの提供に寄与しているとまとめられている。 本誌は近年問題となる埋伏歯への対応をはじめ、遠隔治療や舌癒着症等、諸症状を抱える患者への臨床ヒントが網羅したお勧めの1冊である。

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