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ウイズコロナの時代と対策 その12 インフルエンザウイルスを注射器に例えると

ウイズコロナの時代と対策 その12 インフルエンザウイルスを注射器に例えると
ウイズコロナの時代と対策 その12 インフルエンザウイルスを注射器に例えると
今年もインフルエンザのシーズンに入ったが、想像以上に罹患者が少ない。
その要因には、インフルエンザと新型コロナウイルスが拮抗している可能性がある。
しかし本当は、新型コロナウイルス感染症の予防が、インフルエンザにつながっているのではなかろうか。
また歯科医療従事者は、新型コロナウイルス感染症のハイリスクと言われたが、未だ少ない。
これは、一般の方々に比べ、きれいな口腔内をしていることが考えられる。
実際、高齢者に対する研究でも、専門的口腔ケアにより罹患者率が1/10になったという。



そんな背景もあり、全国の歯科医師会が、感染予防のため口腔ケアの重要性を訴えている。
しかし、我々はこの理由を一般の方々に理解しやすい様に伝える必要がある。

そこで"インフルエンザ"を例に、"わかりやすい伝え方"について述べてみよう。
例えば、"このウイルスの周りには2種類(HA、NA)のたくさんの突起があり、中には、細胞のなかでコピーして仲間を増やす遺伝子(RNA)が入っている。"と伝えてもまったく理解できない。


(注1)

そこで、このウイルスを注射器に例えて考えてみた。

インフルエンザウイルスは、3つの武器を持っている。



一つ目は、ちょうど注射の針先で、鼻や喉の粘膜から侵入するための武器(HA:ヘマグルチニン・赤血球凝集素)。
二つ目は、注射筒の押す部分(プランジャー・押し子)で、細胞内で増えたウイルスが、細胞を破って感染を広げる武器(NA:ノイラミニダーゼ)。
三つ目は、注射液で仲間を増やす遺伝子(RNA)が入っている。

さて注射針(HA)が刺さり注射液(RNA)が体内に入ると、ウイルスはコピーを始め細胞を乗っ取る。
(注2)
そして24~48時間後に満杯になる。
しかし、この状態が続くと細胞に続きウイルスも死んでしまう。
そこで注射器の押し子(NA)が登場する。
これを押すと、細胞がはじけウイルスが飛び散り感染が拡大する。



ちなみに、タミフルなど抗インフルエンザ薬は、押し子の働きを抑制する。
但し、発症後48時間を経過すると、ウイルスが飛び散った後なので効果が消失する。
これが感染のメカニズムである。

さて話は、ここで少し戻そう。
今、インフルエンザの罹患者が、読者に向かって咳やクシャミをしたとする。
その中にウイルスがいても、実際には感染しない。



なぜなら、注射器にはキャップがついているためだ。
キャップをはずさないと感染しないのだ。
このキャップを溶かすのが、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)である。



多くの口腔細菌は、この酵素を持っている。
従って、口腔細菌が多いほど、注射筒のキャップが溶かされやすいので感染しやすい。
ではどうして、口腔細菌がこの酵素を持っているのだろう?

続く


注1:インフルエンザウイルスの表面(エンベロープ)には、HA(ヘマグルチニン:赤血球凝集素)とNA(ノイラミニダーゼ)の2種類の糖タンパクの突起が貫通し内側とつながっている。また中には、8本のRNA(遺伝子)が入っている。

注2:1個のウイルスは、8時間後には100個、16時間後には1万個、24時間後には100万個に達する。

著者岡崎 好秀

前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授

略歴
  • 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
  • 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
所属学会等
  • 日本小児歯科学会:指導医
  • 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
  • 日本口腔衛生学会:認定医,他

歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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岡崎 好秀

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