TOP>コラム>粧うからお口の健康を考える ~化粧療法とは~第1回:高齢期に「美容で健康」という処方箋

コラム

粧うからお口の健康を考える ~化粧療法とは~第1回:高齢期に「美容で健康」という処方箋

粧うからお口の健康を考える ~化粧療法とは~第1回:高齢期に「美容で健康」という処方箋
粧うからお口の健康を考える ~化粧療法とは~第1回:高齢期に「美容で健康」という処方箋
2011年春、介護老人保健施設のスタッフさんが私に興味深いことを教えてくださいました。

「化粧を続けていたら、Aさん(89歳 介護度4)のよだれが止まったのよ」

当時私は、化粧療法が心身機能に及ぼす影響に関する研究をするために、この介護老人保健施設を頻繁に訪問していました。数か月後に心理指標や身体測定やADLの自立度がどのように変化しているのか検証をするために訪れた際、前述した言葉をかけられました。

お話を聞くと、この研究に参加されていたAさんは、唾液分泌過多により、普段からよだれかけをしていましたが、化粧療法を受けて数か月が経過すると不要になったとのこと。ご家族の方もその変化に気づいていて不思議がっていました。
参加前(2011年5月)
参加後(2011年8月)
化粧することが口の機能に何か影響を与えているのではないか?そんなことが頭をよぎりました。このスタッフの一言がきっかけで、歯科領域の専門でない私が、化粧と口腔機能・口腔ケアに関連する研究を始めることになりました。その研究をまとめた書籍『「粧う」ことで健康寿命を伸ばす化粧療法~エビデンスに基づく超高齢社会への多職種アプローチ~』(クインテッセンス出版)が昨年刊行されました。
拙著では、化粧療法と口腔ケアを含めた口腔機能の関係について、研究成果や事例を用いて解説しています。加齢とともに口腔機能をはじめ、心身機能が低下していきます。また、心身機能の低下や生活環境の変化によって、高齢期には「化粧」を、徐々にしなくなる傾向があります。化粧をしなくても生命に重大な影響をあたえることはありませんが、楽しみながら続けることで口腔機能や心身機能で低下の予防や維持につながる可能性が研究で明らかになりつつあります。美容という手段を用いて健康の実現することが化粧療法の目的です。一言でいうと「美容で健康」です。 昨今、介護予防を実現するうえで、健常と要介護の中間期である「フレイル」に注目が集まっています。医療介護に関わる多職種が連携し、地域でオーラルフレイル予防策のひとつとして、化粧療法を実践すると、肌だけでなくお口の健康につながり、高齢期の生活に潤いと彩りを与えることが期待できます。
化粧療法を用いたお口の健康教室の様子(北海道 定岡歯科医院)
新型コロナウイルスの影響で外出を控えるようになると、化粧をする機会も減ってしまいます。しかし、一方で、連日マスクをしていると肌が荒れてしまいますので、肌のケアが必要になります。またマスク越しでは表情がわかりにくい分、目元のメイクで印象を良くするといったことも必要になります。このように、化粧は日常生活に根付いた習慣的な行為です。本連載を通じて、女性が慣れ親しんだ化粧を用いて高齢期の心と口そして身体の健康の維持向上を目指す活動を紹介させていただきます。

著者池山和幸

株式会社 資生堂 社会価値創造本部 マネージャー

略歴
  • 2005年、株式会社 資生堂入社。
  • 専門は老年化粧学、化粧療法学。
  • 京都大学大学院医学研究科にて学位(医学)取得。
  • 大学院在学中に介護福祉士の資格を取得。
  • 入社後、化粧療法研究に従事。
  • これまでに約200の高齢者施設で、高齢期の化粧を医学的観点・介護の視点で効果検証。
  • 2014年から研究知見をいかし、高齢者美容サービス開発にも携わる。
  • 高齢期の化粧・美容という視点で、高齢者の外出支援や健康寿命の延伸などの社会的課題解決に取り組む。
  • 「化粧療法研究室」内のブログで情報発信中。
  • 近著に『装いの心理学(北大路書房)』(分担執筆)がある。
池山和幸

tags

関連記事