Dental Life Design

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粧うからお口の健康を考える化粧療法とは
第4回:食のQOL維持のために
「食べる」前と「食べた」後に必要なこと

2020/11/10 デンタル〇〇デザイン

「食べる」とは、何でしょうか?多くの方が摂食・嚥下の5つのプロセスを想起されるかと思います。




このプロセスの中で、食べ物が何らかの原因で誤って気管に入ってしまうと誤嚥になります。高齢者の肺炎のうち7割以上が誤嚥性肺炎であり、2030年には、誤嚥性肺炎による死亡者は約13万人に達すると予測されています。高齢期の食のQOLの維持には、口腔ケアや口腔機能訓練などによって、このプロセスがしっかり維持されることが重要です。しかし、食のQOLの維持にはこれだけでよいでしょうか?「食べる」の前後に着目し、生活という視点で考えてみましょう。

「食べる」前に必要なことは、食べる意欲すなわち食欲です。そもそも食欲がなければ、「食べる」につながりません。一般的に精神的なストレスを感じたり、気分が落ち込んだりしていると食欲がわきません。最近注目されているフレイルにおいては、「孤食」が問題となっています。フレイルを重症化させないために、日常生活の中で家族や地域の友人と一緒に食事(共食)することが推奨されていますが、食欲がないと誘われても「共食」しようとは思わないでしょう。食欲がわくようにするにはどうしたらよいでしょうか。

食欲を刺激する方法として化粧療法がお役に立った事例があります。以前、化粧療法を導入した介護施設のスタッフさんから、ある参加女性(89歳・要介護度2)の食べる量が増えたという報告を受けました。参加するまでは主食、副食ともに1割だったのが、主食が7~8割と副食が5割になったとのことです。

化粧をすることで気持ちが明るくなったり、前向きになったりすることは、化粧の心理的・脳科学的研究からも明らかになっています。おそらく施設内で入居者と一緒に化粧することで、気持ちに変化が現れ、食べる意欲につながったのでしょう。私は歯科衛生士と一緒にその方の口腔機能を測定していましたが、化粧療法を開始して3か月後に唾液分泌量の増加(110→225μL/min)や嚥下機能の向上(RSST1回→3回)が確認されました。詳細な研究が必要ですが、化粧療法が「食べる」に何らかの影響を与えたと推察されます。

また、生活意欲の向上につながった事例もあります。回復期リハビリテーション病院で、化粧療法に参加していた患者さんのリハビリに対する意欲が高まった事例もありました。リハビリで体を動かせばお腹もすいて食欲がわくことは容易に想像がつきます。高齢期の食欲や生活意欲を維持する取り組みとして化粧療法が期待できます。
次に、食のQOLを維持するために「食べた」後に必要なことは何でしょうか。 それは、「ごちそうさま」を自分のタイミングで言えるということです。数年前の介護福祉機器展で、四肢麻痺患者自身が口でジョイスティックを操作して自分で食事ができる全自動食事介助機器の開発の経緯を担当者から聞きました。患者さんが自分で「ごちそうさま」を言いたい、という声が開発のきっかけと聞き、「食べる」は口だけの話ではないことを痛感しました。 自分で「ごちそうさま」を実現するには、食事の自立度が維持されていないといけません。介助される状態だと、自分のタイミングでは「ごちそうさまでした」はなかなか言えません。食事の自立度を維持するには、上肢の運動機能の維持が必要です。食事動作も化粧動作も、手指、腕の筋力や肘や肩の関節など上肢の運動機能を使います。これまでの研究で化粧動作は食事動作の2~3倍の上肢の筋力を使っていることがわかっています。化粧が自分でできるということは、それより筋負担が少ない食事動作が自分でできることにつながります。実際に、化粧療法を続けた要介護者の食事の自立度が向上する事例は非常に多く起こります(詳細は拙著『「粧う」ことで健康寿命を伸ばす化粧療法~エビデンスに基づく超高齢社会への多職種アプローチ~』(クインテッセンス出版)をご覧ください)。 「食べる」前後のケアとして化粧療法を実施することで、食欲と食事動作の維持につながり、食のQOLを維持することが期待できます。高齢者の口だけでなく、高齢期の生活視点で「食べる」をサポートする取り組みに化粧療法をぜひご活用ください。 次回は、近年介護予防対策として地域でさまざまな取り組みが始まっているフレイル予防と化粧療法との関係について紹介させていただきます。