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地域のために警察歯科医ができること―京都の開業歯科医の挑戦 第6回(最終回):これからの警察歯科医を考える~未来に向けて~

地域のために警察歯科医ができること―京都の開業歯科医の挑戦 第6回(最終回):これからの警察歯科医を考える~未来に向けて~
地域のために警察歯科医ができること―京都の開業歯科医の挑戦 第6回(最終回):これからの警察歯科医を考える~未来に向けて~
京都アニメーション放火殺人事件(第5回参照)では、ご遺体の安置場所で行われた深夜までの壮絶なデンタルチャート作成に、精神的・肉体的な疲労は確かにあった。しかし、「間違いなく、早くご家族の元に」という思いが私の気持ちを続かせ、前に進めさせた。一緒に検視をしていた他の警察歯科医の先生も、きっと同じ気持ちであっただろう。あれから約1年が経過したが、今でもあの時のことを忘れることはできない。被害者ご家族のことを思うと、胸が締め付けられる気持ちである。犯人逮捕により、さらなる真相の究明を心より願っている。

現在のところ歯科の検視業務としては、ご遺体のデンタルチャート作成やレントゲン撮影などを行ったうえで、歯科医院の治療記録と合わせる作業をすることとなっている。

しかしこれでは時間を要することも多く、また手続きも煩雑である。今後のことを考えると、歯科医院において診療した口腔内状況をデータベース化すれば身元確認が迅速となり、しかも精度が高まるのではないかと考えられる。


データベース化による身元確認の流れ(日本歯科医師会ホームページより)

具体的には、治療に通う患者さんの歯を、治療状態に合わせてカルテからコード化できるようなソフトを開発し、同時にレントゲン写真などもデータベースに入れられるようにする。全国の歯科医院から集められたデータはサーバー上に保管され、もし身元不明遺体が出た時には、検視業務で得られたデンタルチャートやレントゲン所見から、サーバーを検索することで精度の高い歯牙鑑定ができることとなる。残念ながら多数の犠牲者が出てしまった東日本大震災の時には、多くの近隣歯科医院も津波によって流されてしまった。結果、歯科所見による鑑定が難しいこともあったと聞いている。こうしたリスクを軽減させるためにも、歯科データのデジタル情報保存が急がれている。指紋・掌紋は以前から一部がデータベース化されてはいるが、遺体の損傷に対する耐性を考えたとき、精度やコストなどを総合的に勘案すると歯科所見のデータ化は非常に有効であると考えている。


身元確認時に用いられる生態特徴の表(日本歯科医師会ホームページより)

また、今ある情報をしっかりと、これからの警察歯科分野の担い手に伝えていくことも重要である。警察歯科医会全国大会や日本法歯科医学会に代表されるような、学会での勉強・情報の伝達もそうであるし、歯科医師会単位で行われている研修会なども、地道に継続されることが求められよう。


宮城県で行われた、身元確認研修会。警察と合同での検視業務研修

そしてもう1つ、コミュニケーションの大切さを再度伝えたい。9年前、要請を受けて赴いた、東日本大震災時の南三陸町での歯科医療救護活動。あの時は、なんとなく役に立てれば、というざっくりとしたことしか考えていなかった。だが活動するうち、被災者の手助けをすることはもちろんであるが、医療従事者だけでなく、そこで奮闘するいろいろな職業の人が互いに協力しあい、連携をとっていくことで復興は進んでいくのだと、あらためて気づいた(もちろん、被災された方々のご努力が一番であることは言うまでもない)。コミュニケーションは非常に大事である。いつ起こるかもしれない災害・事件や事故に備え、個人レベルから各種団体まで、積極的に日頃から連絡を取り合っていることも重要であると考えている。


東日本大震災時の歯科医療救護活動

多くの開業歯科医は忙しい毎日を送っている。私の場合、日々の診療はもちろんだが、加えて定期的に学校への歯科健診や専門学校への講義、歯科医師会主催で催される月数回の夜会議、そして大学での研究会議など、分刻みのスケジュールに忙殺されがちである。

そうした状況であっても、これからもできる範囲で警察歯科医を続け、研さんを重ねてゆきたいと思っている。日航機墜落事故の時からずっと現場で活動し、知識を積み上げ、今もなおご尽力いただいている先生も多くおられるなか、私などはまだまだ経験年数が浅い。それでも、その時にできうる限りの技術と知識をもって臨みたいと常に考えている。そして、時々のことをしっかりとまとめ、できるだけ多くの後輩歯科医師に伝えていきたいと思う。それが自分にも、社会に対しても未来を拓いていくことになると信じている。

6回に分けて、地域の開業医が受けもっている警察歯科医の活動について述べさせていただいた。今回の寄稿で、警察歯科医を少しでも身近に感じていただけていれば幸いである。そして、これからも必要な分野なのだとあらためて知っていただく機会になったことを信じ、このシリーズを終えることとしたい(了)。


安田歯科医院ホームページ
http://www.yasuda-dc.com

著者安田 久理人

歯科医師・博士(歯学)
安田歯科医院院長(京都市中京区)
大阪歯科大学非常勤講師
日本口腔インプラント学会専門医
日本歯周病学会認定医

略歴
  • 1998年 徳島大学歯学部卒業後、京都市内医療法人にて勤務
  • 2003年 医療法人弘成会 牧草歯科医院(京都府)にて勤務
  • 2005年 安田歯科医院開院。現在に至る
  • 京都府歯科医師会 警察歯科・災害対策委員会
  • 京都市中京歯科医師会副会長
  • 中京警察署担当 警察歯科医
  • 京都市立御池中学校 学校歯科医

開業医として、歯科医院で歯周病治療・インプラント治療を含めた一般治療に従事しながら、地域の学校歯科検診や歯科保健相談などを行う。 東日本大震災時、厚労省から歯科医師会を経て要請された歯科医療救護活動に赴いたことがきっかけとなり、警察歯科の分野に興味をもつ。 現在、所轄警察署の担当警察歯科医を委嘱され、依頼をうけた検視(歯)業務を行っている。 京都府歯科医師会の警察歯科・災害対策委員会に委員としても参加し、これからの警察歯科医(災害を含む)のあり方について模索する日々を送っている。

安田 久理人

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