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がん専門病院で働く歯科技工士になるまで 第3回:
放射線治療をサポートする歯科技工技術とは?

2021/7/26 デンタル〇〇デザイン

今回は、がん専門病院内での歯科技工士の具体的な仕事内容についてお話しさせていただきます。

当初、がん専門病院内における歯科技工士の役割として、顎補綴以外の仕事とはいったいどのようなことや需要があるのか、また、どれほどの依頼件数があるのか正直、未知数でした。しかし、2019年に開催された日本がん口腔支持療法学会でポスター発表を行うにあたり、歯科技工指示書のデータを集計したところ、半年間で約500個の歯科技工物を製作し、また、その内容も多岐にわたることが判明しました。さらにその後も依頼件数は増加し、赴任して1年あまりで約1,000個の歯科技工物を一人で製作していたことに、我が事ながらとても驚き、感心しました。

現在行われている主ながんの治療法には、「手術療法」「化学療法(抗がん剤治療)」「放射線療法」があります。日本では、これまで手術ががん治療の中心にありましたが、近年は化学療法や放射線療法が進歩し、がんの種類やステージによっては手術と変わらない効果が認められています。場合によっては、2つ以上の治療を組み合わせる(集学的治療)こともあります。

がん治療中には、さまざまな口腔内合併症が生じます。私たち歯科は口腔合併症の発生リスクをできるだけ軽減し、がん治療が安全・円滑に進められるようサポートを行っています。その中の重要な仕事の1つとして、放射線治療を行う際に使用するスペーサーの製作があります。



放射線治療は、腫瘍に放射線を当てて、縮小・消失させる目的で行われます。必要量の放射線を複数回に分けて照射する治療法ですが、反面、いかに正常組織に対する被ばく線量を減らして放射線を照射できるかが大きな技術的ポイントとなっています。そこで、このポイントに対して歯科技工の技術が重要になってくるのです。

頭頸部がんに対する外部照射の場合、毎回の照射における再現性を確保するため、シェルとよばれるお面のような固定具を患者さんごとに製作します。シェルは放射線科で製作されますが、その際、スペーサーとよばれるマウスピースをはめてシェルを製作します。

照射のたびに、口を開けた状態でまったく同じ位置をキープすることは不可能ですので、上下一体型のスペーサーを製作しています。スペーサーとシェルの固定により、再現性が確保され、より精度の高い放射線治療が可能となるのです。

また、スペーサーには放射線を当てたくない場所を避ける目的もあります。たとえば上顎に放射線を照射する場合は舌を下方に圧排する形態、右側に照射する場合は舌を左側に避ける形態など、患者さんごとにさまざまなオーダーをいただきます。スペーサーは一般的なマウスピースの形態とは異なるため、毎回試行錯誤しながらではありますが、歯科技工の技術は放射線治療にこのような形で活かされています。

余談ですが、基本的には治療が終われば、お役目終了のスペーサーです。時々、「いただけませんか?」とおっしゃってくださる方がいます。理由をうかがうと、「一緒に治療を頑張った証だから」と。そのようなお言葉をいただけることは、作り手冥利に尽きます。

次回は、手術療法における歯科技工士の役割についてお話しさせていただきます。