今回は顎顔面補綴についてお話しさせていただきます。 その前に、歯科技工士学校の卒業後の進路についてですが、就職先としては一般的に歯科技工所、歯科医院、病院・診療所、歯科器材・材料関連企業、教育機関などがあります。 第1回で「顎顔面補綴との出会い」についてふれさせていただきましたとおり、私は迷うことなく顎顔面補綴の世界に進むべく、特別講義を行ってくださった講師が代表を務める株式会社アヘッドラボラトリーズに就職しました。株式会社アヘッドラボラトリーズは人工ボディパーツ(エピテーゼ)・3D造形モデル・歯科技工を扱っており、義歯部門に配属された私でしたが、一般的な義歯製作というよりはそのほとんどが顎義歯の製作でした。 顎義歯とは「腫瘍、炎症、外傷、先天奇形などによる顎骨または口腔軟組織の欠損に適応され、欠損部の補填、閉鎖を図るとともに、人工歯を備え、義歯に準ずる形態・機能を有する補綴装置である。なお、栓塞部を有することを条件とはしない。すなわち、欠損部に必ずしも開口部が存在しなくてもよいし、また、欠損の原因には制限されない」と定義されています。 つまり、顎義歯には1つとして同じ物はなく、欠損部の形態・補綴の目的はさまざまです。一般的な義歯製作とは異なる点も多く教科書的なやり方は通用しないことも多々あり、試行錯誤の日々でした。しかし、どれだけ見ても触っても硬い石膏模型は硬いままなのです。 歯科技工士は歯科医師の作成した歯科技工指示書を元に義歯や歯科補綴物の製作を行いますが、歯科技工指示書や口腔内写真、口頭での情報にはやはり限界がありました。 「眼を養い、手を練れ」 これは、今は亡き建築家の宮脇 檀氏の言葉です。眼を養うためにすぐれたものをたくさん見ること、顎補綴の目的地は口腔内にあると考えている私にとってそれは口腔内を見ることでした。まさに「百聞は一見に如かず」です。 さいわい、ラボから近い距離に国立がん研究センターがありましたので、足しげく通い、実際に口腔内を見せていただくことで、徐々に硬い石膏模型から口腔内が見えてくるようになりました。また、患者さんとお話しするたびに、顎義歯や顎顔面補綴の意義や重みをひしひしと感じていました。 エピテーゼについても少しお話しさせていただきます。 エピテーゼ治療とは「顔や体の一部に病気や事故、生まれつき等の要因により何らかの欠損部があり、見た目や人間が持って生まれた機能に不都合を持ち健常な社会生活が営めない方々に人工材料を使ってエピテーゼ(人体修復物)を作製し欠損部を補う技術であり、このエピテーゼを使う事により見た目問題や機能を回復し健全な社会復帰のお手伝いをする治療方法」です。 エピテーゼ製作の流れは、印象採得、ワックスアップ、埋没、シリコーン填入(内部着色)、外部着色、コーティング、植毛、装着となります。義歯製作に類似している過程も多く、歯科技工の知識や技術が活かされている分野でもあります。 歯科技工に限定せず、広い視野で患者さんをサポートすることを考えたとき、歯科技工士の役割はまだまだ可能性を秘めていると私は思っています。 次回は、がん専門病院内での歯科技工士の具体的な仕事についてお話しさせていただきます。
著者小室美穂
歯科技工士 国立がん研究センター中央病院 歯科
略歴
- 2010年 大阪大学歯学部附属歯科技工士学校卒業
- 同年 株式会社アヘッドラボラトリーズ入社
- 2019年2月より、国立がん研究センター中央病院 歯科に勤務
- がん専門病院の常駐の院内歯科技工士としては全国初