今回は、がん口腔支持療法における歯科技工士の役割についてお話しさせていただきます。 「がん支持療法」とは、がんそのものにともなう症状や治療による副作用・合併症・後遺症による症状を軽くするための予防、治療、およびケアのことです。たとえば、感染症に対する積極的な抗菌薬の投与や、抗がん剤の副作用である貧血や血小板減少に対する適切な輸血療法、吐き気・嘔吐に対する制吐剤の使用などがあります。そして、「がん口腔支持療法」とは、がん治療にともなう口腔関連の有害事象に対して予防策を講じたり、症状を軽減させたりすることでがん治療の質を向上させることです。 私が「がん口腔支持療法」という言葉を初めて聞いた時は、歯科技工と結びつかず、がん口腔支持療法における歯科技工士の役割とは一体……?と迷っていましたが、最近は「がん患者さんを支える」という広い意味で支持療法を捉えるようにしています。 第3回、第4回でお話しさせていただいたように、放射線治療用のスペーサーや手術に関わる装置の製作は、がん専門病院ならではの歯科技工士の仕事かもしれません。しかし、実際の患者さんのお困りごとはがん治療に限ったことだけではありません。使用中の義歯にひびが入った、割れた、欠けた、人工の歯が取れたなど、がんの治療中ということもあってか一般の歯科医院に行くことを少し躊躇われるようなこともあります。 それらのお困りごとに対して即時に義歯修理を行っています。 一般の歯科医院では日常的に行われていることかもしれませんが、患者さんとお話していると、私たちにとっては何気ないことも、がん患者さんにとってはハードルが高いと思うこともあるのだと感じることがあります。がん専門病院の歯科技工士として、顎義歯などの特殊な装置を製作することはもちろん大切な仕事ですが、些細なことと思われがちなこともがん患者さんにかかわる歯科技工士の重要な役割なのだと、患者さんの心の機微にふれるたびに、考えさせられます。できない理由を並べる前に、今できることを考えて行動することが大切です。 顎義歯製作に関しても、難しそう……専門的な知識や経験がないからできない……など言われることもありますが、私は、顎義歯製作は義歯製作と同じです!と断言しています。多少工程は複雑になりますし、工夫が必要になる部分もありますが、基礎なくして応用なし。千里の道も一歩から。それは「がん口腔支持療法」にも繋がっていると私は思っています。 次回(最終回)は、がん専門病院で働く歯科技工士としての今後の課題と展望についてお話しさせていただきます。
著者小室美穂
歯科技工士 国立がん研究センター中央病院 歯科
略歴
- 2010年 大阪大学歯学部附属歯科技工士学校卒業
- 同年 株式会社アヘッドラボラトリーズ入社
- 2019年2月より、国立がん研究センター中央病院 歯科に勤務
- がん専門病院の常駐の院内歯科技工士としては全国初