モンゴルやチベットでは、3か月頃から大きな肉を与える習慣がある。 ここには何か、意味があるに違いない。 実は、これが"歯固め"の原型ではなかろうかと考えている。 現在、わが国の育児書には食物を利用した"歯固め"ついて書かれていない。 おそらく、不潔と考えられているからだろう。 しかし、日本でも古くから、海に面した地域では"昆布"や"干しダコの足"などを、農村部では"塩抜きしたタクアン"を乳児に与えていた。 それぞれの地域で容易に得られるものを"歯固め"として利用していたのではないだろうか。 実際、昆布をチュパチュパすると、頬に力が入り顔面表情筋の発達が促されることが見てとれる。 こうしてチュパチュパ・ガシガシすることで、以下の動きが引き出される。 1:固形物を口に入れることに慣れる(脱感作)。 2:口唇でくわえると鼻呼吸になる。 3:口唇閉鎖力が向上する。 4:舌筋の発達促進。 5:唾液分泌量の増加。 6:唾液などの嚥下力の増加。 これらは、本来"口唇による捕食"や"嚥下"など離乳初期(5・6か月)に獲得すべき機能である。 歯固めにより、口腔内の脱感作を促し固形物を食べる準備が整うことがわかる。 乳児は、乳歯の萌出前から口唇や舌を駆使して食べてきた。 口ポカ~ンの原因の一つとして、これら口腔周囲筋の発達不足が考えられる。 口腔機能の発達のためには、従来の離乳食に"歯固め"を加えたほうが良いのかもしれない。 "歯固め"として使う食品は、食物繊維が多く咬みきれないもの、さらには大きければ誤嚥の心配もないだろう。 もちろん、始めは、注意深く観察する必要がある。 このような与え方をしていると、1歳前でも口腔周囲筋や顔面表情筋がよく発達し表情豊かな顔となる。 歯固めは、口腔機能を育てる"日本人の知恵"であったのかもしれぬ。 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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