今回は、がん専門病院で働く歯科技工士としての今後の課題と展望についてお話しさせていただきます。 とは言っても、私自身まだまだやれることや、やるべきことが多すぎて、今後の課題や展望についてはとても壮大な話になってしまうので、すぐに心が折れそうになってしまいます。到底、私一人でかなえられるものではありません。 自分から見た患者さんではなく、患者さんを中心に考えると多くの人の存在が見えてきます。がん専門病院ではさまざまな職種の方が働いています。歯科だけをみても、歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士・受付がいます。それぞれ立場が違うことで異なった見方や感じ方があると日々思います。時に、意見が対立してしまうこともあるかもしれません。 しかし、それはけっしてマイナスなことばかりではありません。立場が違うからこそ見えるものがあり、気付かされることも多いのです。患者さんをサポートしたい気持ちは、職種は違っていてもみんな同じだと思っています。医療人でも日々の臨床で困っている人は多いです。かくいう私も逡巡して手が止まってしまう時があります。しかし、一見悩んでいることと関係のないような内容でも、少し人と話をしていると案外すんなり迷っていたことの答えが出たり、考える方向性が定まったりすることがあったりします。最近はコミュニケーションを取ることの大切さにあらためて気づかされる瞬間が、特に増えたような気がします。 「がん専門病院における歯科技工士の役割や重要性について」をテーマに、6回にわたりお話しさせていただきました。がん治療やがん患者さん、がん専門病院で働くこと、がん患者さんと歯科技工士の関わりについて、少しでも知っていただける機会になりましたら幸いです。 日々の臨床では、歯科技工物を通して目の前の患者さんを一人でも多くサポートし、がん専門病院で働く歯科技工士としての活動を今後も発信し続けていくことで、一人でも多くの遠くの人のサポートもできればと思っています。 まずは一人でもできること、すぐにでもできそうなことを何か一つでも見つけてやってみるときっと何かが変わる。少なくとも、自分自身が変わっていくのではないでしょうか。 今はまだ、口腔がんの患者さんの歯科補綴は珍しいかもしれません。しかし、いつか全国どこでも、がん患者さんも歯や口でお困りの時は歯科治療が受けられる、それが当たり前となる時が来ることを願いながら、今後も、がん患者さんを支える歯科技工士を増やす活動を続けていきたいと思います(了)。 ※写真の患者さんは了承いただいて掲載しています。
著者小室美穂
歯科技工士 国立がん研究センター中央病院 歯科
略歴
- 2010年 大阪大学歯学部附属歯科技工士学校卒業
- 同年 株式会社アヘッドラボラトリーズ入社
- 2019年2月より、国立がん研究センター中央病院 歯科に勤務
- がん専門病院の常駐の院内歯科技工士としては全国初