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歯科技工士の良くない過去・現在

歯科技工士の良くない過去・現在
歯科技工士の良くない過去・現在
今回の記事は書籍「歯科技工士の仕事」から一部抜粋した内容をご紹介させて頂きます。
書籍情報:「歯科技工士の仕事:」手に職をつけて、人々の笑顔をつくる 村田彰弘 著 出典:合同フォレスト株式会社
今回の記事は前編・後編の2部構成の前編になります。

減り続ける歯科技工士

歯科技工士は現在、就業している人数が全国で3万5000人を切っています。この数は、歯科医師(約10万人)や歯科衛生士(約13万人)に比べると明らかに少なく、しかも 年々、数パーセントずつ減少傾向にあります。新たに免許を取得する学生も近年は年間1000人を下回り、年齢も50代以上が全体の半数を占め、29歳未満が最少です。つまり、歯科技工士業界は完全な逆ピラミッド型の年齢分布になっているのです。このような状態になってしまった背景には、何があるのでしょうか? かつて、歯科技工士は有望な職種といわれていました。2000年頃までは「歯科技工士=開業」という図式が成り立ち、国家資格の取得後にいずれは独立して開業するのが一般的でした。歯科技工所に勤務するより開業する方が収入を得られるという考えがあり、開業した人には「定時で業務を終える」という意識が薄く、長時間労働の問題を引き起こしてしまいました。 こうした状況はそこまで知られていなかったのですが、インターネットの普及により歯科技工士業界の〝良くないうわさ〟があふれるようになります。SNSや検索サイトで「歯科技工士」のワードを入力すれば、不満を書き込む当事者や、離職した元・歯科技工士たちの半ば自虐的な〝不幸自慢〟があふれ、それを見た一般の人、就業を希望している人、業界再就職を考えている人たちが「やっぱりやめておこう」と、現実を見る前に悪いうわさの方を信じる状況になってしまっています。どうしても、人はネガティブな情報に引き寄せられてしまうのでしょう。 そして、その結果の一つとして、全国の歯科技工士学校の定員割れが続き、次々と閉鎖されるという状況になっています。さらに、毎年の卒業生が1000人以下、就職しても5年以内に8割が離職するという 「業界のブラック化」が起こってしまっているのです。

歯科技工士はブラックな業界なのか

「3K=きつい、汚い、危険」といえばブラック企業の定義ですが、歯科技工士の場合、長時間労働と低賃金が業界の抱える大きな問題でした。朝から深夜まで仕事が続く拘束時間の長さ、衛生的ではない職場環境、週休2日なんてもってのほか、それにもかかわらず初任給は諸手当込みで15万円にも満たない安さ.....。これらは、私がこの業界に足を踏み入れた、2000年ごろの常識でした。現在、環境は改善されてきていますが、このような実態が存在していたことは確かです。そして、そのことがインターネットで簡単に情報共有できるため、誰かが書き込んだ 歯科技工士業界のブラック情報がまん延してしまっています(実際に、ネットが普及したころから技工士学校の入学者数が減り始めました)。

歯科技工士の歯科医療業界における立ち位置

歯科技工士は国家資格を持った確固たる技術職でありながら、「歯科医療業界の中での立ち位置」が、他の業種に比べて少し低く見られてしまっている現状があるのは事実です。 5年で8割の歯科技工士が辞めてしまう背景には、以前から続く悪しき習慣や労働環境に加えて、こうした歯科医療業界での立場の低さに問題があると思います。また、歯科医院によっては、歯科技工士を同じ業界を担うパートナーではなく、単なる外注業者のような扱いをするところもあります。本来は、歯科技工士も歯科医療の一端を担う大切な仕事のパートナーであるべきですし、歯科技工士に対してリスペクトを持って接してくださる歯科医師もたくさんいます。しかし、そのような認識が薄い、もしくは持っていない歯科医師は残念ながら一定数存在します。理想は、歯科医師と歯科技工士はプロフェッショナルとして対等であるべきです。良い歯科医療を患者さんに提供するためにも、私はこの状況をなんとしても変えなければと思っています。

補綴物の価格ダンピングが起きる理由

さて、そんな歯科技工士の業界で長く、そして根深く問題になっているのが「技工料金のダンピング(値引き交渉)」です。個人事業主や小規模技工所の場合はもちろん、大手の歯科技工所でもこの問題に日々頭を抱えている現状があります。仕事の発注者である歯科医師に、利益を確保するために少しでも技工料を安くしたいという心理が生まれるのは、ある意味自然でしょう。ただここで問題となるのが、多くの歯科技工士はこのダンピング交渉を「なかなか断ることができない」ことです。仕事を得るためには多少安くても受けた方が「仕事がないよりはまし」となるのです。会社を経営する者として、私も気持ちは分かります。歯科医師も、悪気のあるなしにかかわらず「あの歯科技工所は、この値段でやってくれるみたいですよ」「この価格で受けてもらえるなら」と依頼をします。そうして、価格競争という名のダンピング合戦が始まるのです。 歯科技工士はそれでも仕事を受けざるを得ないから受けます。やがて互いに感覚がまひしていき、低価格での発注・受注が常態化してしまいます。歯科技工士の取り分は減り、減った分は別の仕事で賄わなければならないために仕事量が増え、薄利多売になります。仕事は基本手作業ですから、仕事をこなすために睡眠時間を削らざるを得なくなり、必然的に過重労働が常態化します。こうした負のスパイラルが発生するのは多くの場合、安い価格で仕事を請け負う歯科技工士で、技術的に優れていない場合が多く、そういった意味でもダンピングは「治療のクオリティー」に関わってくる問題であり、最終的に不利益を被るのは患者さんになってしまうのです。

値引き交渉に甘んじてしまう現状

フォローをするわけではありませんが、歯科医師の多くは歯科技工士を困らせようと思って値引きを持ちかけるわけではありません。特に若い世代の歯科医師の多くは、悪気があって安い価格で仕事を振るのではなく、自分の経営を成り立たせるために、利ザヤを増やさざるを得ないのです。おそらく、歯科医師も心苦しいと思います。これは、安過ぎる保険点数制度や歯科医療のシステムの問題が根底にあります。 もちろん歯科技工士としても、自身が定めた定価で仕事の依頼を受けたい気持ちは山々ですが、この先の依頼を切られることを恐れるあまり、ダンピングを受け入れてしまっている、安い価格でやることが常態化した状態に甘んじてしまっていることが大きな問題です。それは結果的に自分たちの首を絞め、歯科医師の首を絞め、最終的に患者さんの首を絞めることになりかねません。この状況は、なんとしても変えていかなければいけないと私は思うのです。 後編「歯科技工士の明るい未来のために」の記事へ
書籍情報:「歯科技工士の仕事:」手に職をつけて、人々の笑顔をつくる 村田彰弘 著 出典:合同フォレスト株式会社

著者村田彰弘

株式会社LAZARUS
代表取締役/歯科技工士

略歴
  • 2002年3月    兵庫歯科学院専門学校卒業
  • 2002年      保険技工所にてデンチャー担当
  • 2003~2005年   伊藤歯科医院(大阪・新大阪)
  • 2005~2006年   Au Ceram(USA・サンタモニカ)
  • 2006~2010年3月 カツベ歯科クリニック(大阪・本町)
  • 2010年5月6日~  LAZARUS開業
所属学会・講習会受講歴
  • 大阪SJCD会員
  • 顎咬合学会会員
  • 顎咬合学会認定技工士
  • スタディグループN・H・K会員
  • Amorphous会員
  • 咬合・補綴治療計画セミナー 本多正明先生
村田彰弘

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