TOP>技工情報>がん専門病院で働く歯科技工士になるまで 第4回:がん治療にも歯科技工士がかかわる?

技工情報

がん専門病院で働く歯科技工士になるまで 第4回:がん治療にも歯科技工士がかかわる?

がん専門病院で働く歯科技工士になるまで 第4回:がん治療にも歯科技工士がかかわる?
がん専門病院で働く歯科技工士になるまで 第4回:がん治療にも歯科技工士がかかわる?
今回は、手術療法における歯科技工士の役割についてお話しさせていただきます。

まず、全身麻酔下で手術を受ける患者さんには事前に歯科を受診していただいています。手術を受けるのに歯科受診?と疑問に思う方も多いかもしれませんが、手術を受ける前に歯科を受診して周術期に口腔健康管理を行うことには、気管挿管時のリスク軽減、術後の誤嚥性肺炎のリスク軽減、術後の経口摂取再開の支援、術後合併症のリスクの軽減など、たくさんのメリットがあります。

全身麻酔による手術では、呼吸管理を行うため、喉頭鏡という器具で気管の中を見えるようにして口から気管内にチューブを挿入しますが、その衝撃で歯が割れたり抜けたり歯科技工物が外れたりすることがあります。特に歯周病で歯に動揺がある方や、口が開きづらい方に起こりやすいです。

そこで、安全かつ安心して挿管が行えるよう、患者さんの歯列に合った保護用のマウスピースを一つ一つ歯科技工士が製作します。

周術期の口腔ケアにおいては、特に歯科医師や歯科衛生士が重要な役割を担っています。歯科技工士は、手術後すぐに装着できる装置を手術前から準備・製作、手術中に使用するバイトプレートの製作など、間接的ではありますが、手術前から手術中、手術後まで患者さんとかかわっています。

周術期の患者さんにかかわるうえにおいて、現在のような歯科診療室と歯科技工室が隣接して行き来が容易である環境は、非常にありがたいです。以前は院外のラボ勤務ということもあり、治療や手術後の傷が落ち着きようやく義歯が製作できる段階、早い方でも手術後数か月、長い方なら数年というたいへんな期間を経てからのかかわりでした。歯科技工物ができるようになるまでの辛く長い道のりを知り、考えたときに、がん治療における歯科技工士の役割とはいったい何なのか、存在意義とは……と悩んだ時期もありました。

そのような時、ある歯科医師の先生から「がん診療には"時間"も大事なファクターとなるので、歯科技工士は歯科技工物だけでなく、患者さんや歯科医師にとっての"時間"もつくっているのですよ」とのありがたいお言葉をいただきました。精微で機能的な歯科技工物を製作することが歯科技工士である私にできることであり、やるべきことだと強く思えた出来事でした。

口腔内のがんには、舌がん・歯肉がん・口腔底がん・硬口蓋がん・頬粘膜がん・口唇がんなどがあります。歯肉がん、口腔底がんなど口腔がんの一部では下顎の骨の切除を行うことがあります。下顎骨の連続性が失われると、下顎骨は位置がずれてしまいます。それによって顎の形態維持や咬合機能など大切な機能が失われてしまい、生活の質を著しく落としてしまうことになります。その際、自分の骨や金属プレートを用いて下顎骨の再建が行われます。



2020年6月から再建をともなう下顎区域切除術を行う際、形成外科医とともに手術前に3D造形模型を用いた再建のシミュレーションを行っています。私たちは手術後の義歯装着を目標、目的としたシミュレーションを行っていますが、形成外科医に最初「理想的な顎を作ってください」と言われたことは衝撃的でした。それまで、義歯製作における理想的な骨の位置について考えたことは正直ありませんでした。なにが正解なのかいまだ暗中模索していますが、自分にはない視点や考えるきっかけ、新しい気づきを与えていただける機会をたいへんありがたく思うと同時に、歯科技工士として広い視野をもつことの大切さを日々感じています。

次回は、がん口腔支持療法における歯科技工士の役割についてお話しさせていただきます。

著者小室美穂

歯科技工士 国立がん研究センター中央病院 歯科

略歴
  • 2010年 大阪大学歯学部附属歯科技工士学校卒業
  • 同年  株式会社アヘッドラボラトリーズ入社
  • 2019年2月より、国立がん研究センター中央病院 歯科に勤務
  • がん専門病院の常駐の院内歯科技工士としては全国初
小室美穂

tags

関連記事