これは、某県の1970年の広報誌である。 ランドセルを担いでいることから小学校1年生だろう。 ところで一番右の小児の口元を見ていただきたい。 ランパントカリエスで前歯部が真っ黒である。 これは、現在では使えない写真である。 しかしこの頃は、これが当たり前の時代だったのだろう。 さて1970年代は、小児の齲蝕が多く"乳歯齲蝕の洪水"と言われた時代があった。 高度経済成長の時代、齲蝕予防に対する知識がないまま、甘いお菓子に子守をさせていた。 幼児は常にドロップを口に入れ、小学生は学校帰りに自動販売機でジュースを買い飲んでいる光景を頻繁に目にした。 筆者は1972年の入学であるが、母校の小児歯科では、診療の開始まで4年待ちという状態であった。 この様な背景があり小児歯科を志した。 これは1970年代後半に撮影した4歳児の1枚の写真である。 当時、大学の小児歯科では毎日のように、このような初診患者が訪れていた。 初診は、3~4歳児が中心だった。 最も頻繁に行った処置は、乳臼歯部は、生活歯髄切断法を行い乳歯冠のセット。 これを1ブロックずつ行うので臼歯部の処置は4回で終了。 乳前歯部は、サフォライド塗布か抜歯を行うというものであった。 若手の歯科医師や歯科衛生士は、"乳歯齲蝕の洪水"といっても、にわかに信じられないだろう。 さて現在は、小児の大多数がカリエスフリーである。 しかし、齲蝕は一気に減ったのではない。 そこには環境の変化が存在し、一定の順序があるように思われる。 そこで、おおまかに乳歯齲蝕の減少の経過についてタイプA~Eに分けてみた。 タイプA:乳前歯部の残根・乳臼歯部の多数歯の重症齲蝕 タイプB:乳前歯部の齲蝕軽症化・隣接面中心・乳臼歯部の多数歯の重症齲蝕 タイプC:乳前歯部の齲蝕減少・初発は乳臼歯部の咬合面齲蝕 タイプD:乳前歯部の齲蝕なし・初発は乳臼歯部の隣接面齲蝕 タイプE:乳前歯・乳臼歯ともに齲蝕なし このような経過を通り小児の齲蝕は減少したと考えている。 そこで次回から、乳歯齲蝕の減少の歴史、そして当時感じていたことについて述べることにする。
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
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