これまで述べたように、乳歯齲蝕の減少は上顎前歯から始まった。 その背景には、砂糖の制限や規則的な間食回数が、一般的に認識され出したことがあげられる。 ところで齲蝕予防には、砂糖の制限と歯磨きがあげられるが、どちらの方がより効果があるのだろう? 筆者は低年齢児の場合、砂糖の要因の方が大きいと考えている。 実際、1歳0か月児の歯科健診では、歯が輝いている小児がほとんどだ。 しかし、1歳6か月・2歳0か月児になると、くすんだケースが増加する。 これが見事に砂糖の摂取時期と一致する。 砂糖の味を覚えると、歯垢が付着し歯がくすむのだ。 これこそ、ミュータンス菌の感染が考えられる。 次にタイプCでは、乳前歯の齲蝕はなくなったが、乳臼歯部の咬合面齲蝕が多かった。 乳臼歯の咬合面齲蝕の予防には、歯ブラシによる歯垢除去が不可欠なのだろう。 続く時代では、タイプDが増加した。 これは乳臼歯の隣接面齲蝕で、3歳6カ月以降に初発する。 問診では、歯は磨いているが,間食が増えてきた場合に多い。 咬合面や頬舌側の歯垢は歯磨きで取れる。 しかし隣接面は、歯ブラシが届かない。 そこでデンタルフロスの指導が欠かせない。 日本の乳歯齲蝕は、このような順序で減ってきた。 すなわち、齲蝕の初発時期が、遅くなることがきっかけとなった。 この様な視点を持つと、齲蝕がどのような原因でいつ初発したかをイメージし指導を行うことができる。 では、齲蝕減少の中でフッ化物は、どのような役割をしてきたのだろう? かつての乳歯齲蝕の洪水の時代。 診療室に訪れた保護者が「保健センターなどで,フッ化物だけは塗ってもらっていたのですけれど・・。」と言われることが多かった。 低年齢から砂糖漬けの生活では、その効果が得られるわけがない。 フッ化物の最大の副作用は、"保護者の過信"なのである。 乳歯齲蝕の減少は、間食や歯磨き習慣が定着してきた時期に、フッ化物が応用されたことで一気に加速した。 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!
- 岡崎先生ホームページ:
https://okazaki8020.sakura.ne.jp/ - 岡崎先生の記事のバックナンバー:
https://www3.dental-plaza.com/writer/y-okazaki/