筆者は、乳歯の歯列を時系列的に第1世代から第4世代に分けた。 まず第1世代:空隙歯列弓、次に第2世代:閉鎖型歯列弓、続けて第3世代:過蓋咬合、さらに第4世代:下顎後退位の順に出現し増加したと考えている。(図1) 今回から、第3世代“過蓋咬合の増加の原因について考えてみたい。 第3世代は過蓋咬合であるが、被蓋が深くなるに伴い下顎前歯も以下のような変化が見られる。 1:下顎乳前歯が、わずかに舌側傾斜。 2:下顎乳側切歯の捻転。 3:下顎乳前歯の叢生。 (図2) 過蓋咬合の増加に伴い、臨床的に何らかの兆候があるはずだ。 そこで1980年代中頃~1990年代の記録から、その兆候について紹介する。 A:筆者は、齲蝕予防のため、ラバーダムを利用しすべての第1大臼歯にシーラントを行っていた。 このことは、よりスムーズに・痛みを与えない装着法を習得することは、他の患児にも還元ができると考えていた。(図3) ところが、当然装着できる年齢であるにも関らず、クランプが外れたり、かけることのできないケースが続出した。(もちろん男女差や個人差はある) 今から考えれば、クランプにより最大豊隆部を保持できないのである。 またそのようなケースは、第1大臼歯の遠心が歯肉と等縁であった。(図4) すなわち咬合高径が少ないため、完全萌出していなかったのだ。 B: 小児科より“発音不明瞭”の主訴で紹介を受けた。(4歳男児) 発語不明瞭の原因には1:前歯部の重症齲蝕 2:唇顎口蓋裂など 3:舌小帯の異常 4:知的障害 5:友人関係の不足等による2次的な遅れ(一人っ子など)などが考えられるが、全く問題がない。 発音を聞くと、声が小さく不明瞭である。 年齢は?と聞くと”よんたい”(4歳)、何組ですか?“トラグミ”(空組)と答える。 口角は少し後ろに引かれ、口を動かさないで、腹話術のような声となる。 4歳児の発達としては正常範囲であるが、やはり発音が気になる。 ちなみに、3歳児は、舌の発達が不十分なので“サンサイ”といえず“タンタイ”、“サカナ”といえず“タカナ”と発音する。 これらは5歳でほぼ正常な発音となる。 問題点を強いてあげれば、過蓋咬合であった。(図5) しかもoverjet 4mm、overbiteが9mmであり、発語不明瞭の一因となる可能性がある。 すなわち仮に切端咬合の小児が、話すために10mm開口するとする。 ところがoverbite 9mmの小児の場合、同じ大きさの声で話すためには19mm開口しなければならない。(図6) これが生理的な開口量を超え、声が小さく発音不明瞭になる可能性がある。 また口腔容積の減少は、舌の可動域が狭くなることや、共鳴腔にも影響する。 そう言えば診療中、”もう少し大きなお口を開けて!”と何度もいうケースには、過蓋咬合が多い。 小児は大きな口を開けているが、術者からは開口していないように見えるのだ。 そこで、保育園での歯科健診や診療で過蓋咬合の小児を見る度に、「声が大きい方ですか?小さい方ですか?」・「外向的ですか?内向的ですか?」と質問するようにしている。 すると「声が小さく・内向的」と答えられることが多数みられた。 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
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人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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