TOP>臨床情報>全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第3回 勝敗は“概形印象”にかかっている

臨床情報

全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第3回 勝敗は“概形印象”にかかっている

全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識  第3回 勝敗は“概形印象”にかかっている
全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第3回 勝敗は“概形印象”にかかっている
今回からは義歯製作の臨床ステップについて、解説していきたいと思います。

概形印象採得後、個人トレーを製作するわけ

読者の先生方の中には、概形印象を採得せず、既製トレーを用いた印象を最終印象として義歯製作を行っている先生もいらっしゃるかもしれません。実際のところ、個人トレーを用いない簡便な印象方法であっても、機能する義歯を製作することは可能だといえます。ではなぜ、概形印象採得後に、個人トレーで最終印象を行う必要があるのでしょうか? その理由は、「少しでもすぐれた義歯を製作するため」です。いうまでもなく全部床義歯はちょうど良い長さの床辺縁によって、辺縁封鎖による維持が得られます。つまり、辺縁が短すぎると、維持力のない、外れやすい義歯となってしまったり、長すぎると、当然口の動きを邪魔したり、痛みや潰瘍を引き起こします。逆にいうと、“維持力が少なくてもなんとか使えるだろう”、“痛みが出るなら調整すれば良い。”と考えるのであれば、個人トレーを用いなくても良いかもしれません。ですが、「装着後の患者さんの苦痛を減らし、少ない調整回数で、少しでも良い義歯を製作してあげたい!」と考える先生であれば、やはり概形印象採得を行い、個人トレーを製作するべきではないでしょうか。

概形印象(&個人トレー)で勝敗が決まる理由

前述のように、義歯はその辺縁の長さや形態によって機能が大きく変わります。そのため、適切な形態の印象が大切になるのですが、適切な長さのトレーがある方が楽に印象できると考えられます。たとえば高いところにある荷物を取ろうとしたときに、適切な高さの脚立を使うと“楽に&安全に”取れるのと同じイメージです。脚立が低すぎても高すぎても、無理をしてしまいます(図1)。つまり、適切なトレーがあれば、良い形態の印象が“楽に採れる”わけです。 ただでさえ、難しい義歯臨床において、適切な道具(トレー)を得られるかどうかはまさに勝敗を決する大きな要因だといえます。 図1 高いところのものをとるのに……。踏み台が低すぎても、高すぎても危ない。適切な高さの踏み台があると“楽に&安全に”取れる。

概形印象を上手く採る5つのポイント

では、最後に概形印象を上手く採るための5つのポイントを簡潔に解説します。このポイントをおさえることで適切な概形印象をとることができます(図2~5)。

①邪魔しないトレーを選ぶ

既製トレーは口腔内の顎堤のアーチはもちろん、前庭部や舌側溝のアーチにぴったり適合することはまずありません。そのため、トレーのフレームが長すぎず、邪魔しないかどうかをよく見て選ぶ必要があります。つまり上顎は少し大きめ、下顎は少し小さめのトレーを選択してフレームが顎堤等に接触しないものを選びましょう。

②結果を左右する患者指導

義歯臨床は患者の協力が不可欠な臨床分野ですが、概形印象でもそれは同じです。たとえば、口唇が緊張した状態では辺縁部が短くなったり薄くなったりしやすいので、口唇の力を抜くように指示する必要があります。

③印象材は多めに盛り上げる

前述のように、既製トレーは基本的に口腔内と適合しないといえます。ではどうやってそれを補うかというと、「印象材の硬さと量」です(図2)。トレーが合わない分、少し硬めの印象材をトレー代わりに採得するというイメージはとても有効です。 図2 硬めの印象材を多く盛り上げ、流水下で気泡を抜きながら、形態を整える。

④採りにくい場所には先に注入しておく

上顎結節部の前庭部、バッカルスペースや口蓋の深い部分など、印象材がどうしても届きにくく、気泡が入りやすい部分には、指やシリンジを用いて先に注入しておくことで、印象の成功率を向上させることができます(図3)。 図3 アルジネート印象材をシリンジに入れ、大切な部分に先に注入しておく。

⑤圧接時には閉口させる

大きく開口した状態では口唇をリラックスさせることが難しく、相対的に口腔底も浅くなります。そのため、特に下顎の印象時にはトレー挿入後、圧接するタイミングで患者さんには閉口させることがとても重要です(図4)。 図4 圧接時には必ず患者さんに閉口を指示する。 図5 適切な概形印象例。

著者松田謙一

大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授

略歴
  • 2003 年、大阪大学歯学部卒業
  • 2007年、同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)

同大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座助教・臨床講師を経て、2019 年より医療法人社団ハイライフ大阪梅田歯科医院院長、HILIFEDENTURE ACADEMY 学術統括者。
現在、大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授も務める。
https://dentureacademy.org/

松田謙一

tags

関連記事