切歯骨について調べたら、第1大臼歯・前歯部交換期以降には成長量が極めて少ないとの文献があった。(参考1) この点について簡単に触れる。 まず歯牙の萌出状況により上顎歯列を5段階に分ける。(図1) Ⅰ:乳歯列期 Ⅱ:第1大臼歯萌出期 Ⅲ:中・側切歯の萌出期 Ⅳ:混合歯列・永久歯列で第2大臼歯の萌出期 Ⅴ:第3大臼歯の萌出期 次に口蓋に基準点を設けて計測する。(図2・3) その結果は、以下の通りである。 1) 切歯骨口蓋部の長さは、ほとんど変化しない(Ⅰ~Ⅴ期間の成長率1.01倍)。 2) 口蓋突起の長さは、大臼歯の萌出と伴に大きく増加(成長率1.55倍)。 3) 前方口蓋の幅(左右乳犬歯・犬歯の舌側)は、変化が少ない(成長率1.08倍)。 4) 後方口蓋の幅(左右の第2乳臼歯・第1大臼歯の舌側)は、中程度に増加(成長率1.26倍)。 このように口蓋は部位によりⅠ~Ⅴ期の成長率が異なる。 最も成長率が低いのは、口蓋骨の長さ(i-im間 1.01倍)、前方口蓋の幅(C-C間 1.08倍)であり、切歯縫合より前方部である。 Ⅰ期においては、すでに切歯縫合より前方の成長は終了していると考えられる。 一方、後方の上顎骨口蓋突起は成長率が大きく(im-tm間 1.55倍)、大臼歯の萌出により口蓋の長さが増加した。 さらに、口蓋後方の幅は(M-M間 1.26倍)で中程度に増加した。 このことから口蓋の成長は、混合歯列期以降に大きく、長さが幅に勝るため歯列弓は前後に長くなるとの結論であった。 確かに混合歯列期の標本を見ると、切歯縫合が不明瞭となっている。(図4) 切歯骨の成長は、乳歯列完成期に終了するのであれば、より早期からの取り組みが必要だ。 これが口腔機能から見た、前歯部の配列の鍵となる。 おそらく、その一つが乳前歯による食物の“かじり取り”であろう。 この刺激により歯根周囲の骨添加が促される。(図5) しかし最近、小児が食べやすい様に小さく切って与えることが増えた。 これでは十分な切歯骨の成長は期待できない。 そして、もう一つ考えられるのが舌筋の発達の問題だ。 続く 参考 祐川励起ら:頭蓋における口蓋の成長変化について.Jpn. J.Oral Biol.,30:156-163,1988.
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!
- 岡崎先生ホームページ:
https://okazaki8020.sakura.ne.jp/ - 岡崎先生の記事のバックナンバー:
https://www3.dental-plaza.com/writer/y-okazaki/