私は薬学研究者として口腔ケアに関する基礎実験を行ったことがあるので、まずそれを紹介したい。ナタマメ（なた豆、刀豆）は食用としてだけでなく、口臭予防にも用いられつつある。現代人がもっとも感染している歯周病には多くの病原性細菌が関与しているが、なかでもジンジパインという強力なプロテアーゼ※１を産生するジンジバリス菌が近年注目されている。われわれはナタマメ抽出物のジンジバリス菌に対する抗菌効果を検討した。ナタマメ抽出物の各菌株に対する最小発育阻止濃度※2はジンジバリス菌に対しては 6 mg/mL、ヌクレアタム菌に対しては 10 mg/mL 以上であった。このことから、ナタマメ抽出物には歯周病の病原菌であるジンジバリス菌に対する抗菌作用を有することを明らかにした。

最近、ナタマメが口臭予防に対する有効性を期待して歯磨きの中に入れて販売されているが、その根拠の一部を明らかにすることができた。このように、薬学研究者として口腔ケアに関する基礎研究は行うことができるが、では薬剤師として口腔ケアにどのようにかかわっていけるのであろうか？

歯周病（菌）が糖尿病、脳梗塞や心筋梗塞などの全身疾患の原因の1つとして指摘されている。また、薬による口腔内の副作用もある。代表的なものとして、カルシウム拮抗剤（降圧剤）、フェニトイン(抗てんかん剤)、シクロスポリン(免疫抑制剤)などの薬は、歯肉が肥厚する場合がある。特にフェニトインは服用者の50%が歯肉増殖を起こすとされている。

口腔乾燥症の原因はさまざまであり、疾患によるもの、薬の副作用によるもの、脱水、口呼吸、ストレスによるものなどがあり、それらが複合的に関与している場合もある。原因となる疾患では、糖尿病、甲状腺機能障害、シェーグレン症候群などが挙げられる。最近では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響でほとんどの人がマスクをしている。マスクをすると鼻呼吸では酸素が体内に入りにくいので、口呼吸が多くなる。そのことが、口を乾燥させやすくしている。

このように、薬剤、疾患、マスクなどによる口腔内の副作用や各種症状を患者に説明することは、薬剤師の役割でもある。健康サポートの観点からも、今後積極的に薬剤師が口腔ケアに関与していくことが求められてくるだろう。

今年度から、歯科医師と薬剤師や、歯科医院と薬局の関係を強める新しい取り組みが始まっている。日本口腔ケア学会は薬剤師部会を設立し、都道府県薬剤師会では在宅訪問を通じた歯科受診勧奨を計画する動きがある。今年の４月に開催された第19回日本口腔ケア学会では、さらなる口腔ケアの発展には、薬学部の薬剤師教育における口腔ケア領域の充実および臨床現場における薬剤師の口腔ケアへの参画が重要であることが報告された。

今後、薬剤師は健康サポートの一環として、医薬連携などが進んでいるなか、これまであまり積極的に行われてこなかった口腔ケアの理解と患者への指導などを行うことが求められるであろう。今後、歯薬連携さらには医歯薬連携が盛んになって、口腔ケアが進み、ひいてはさまざまな全身疾患の病気や障がいの予防につながることを期待したい。

※1　タンパク質やペプチドのペプチド結合CO-NHを加水分解（切断）する酵素の総称。タンパク質分解酵素ともいう。
※2　細菌に対して抗菌活性を示す抗生物質などの薬剤が、細菌の発育を完全に阻止するのに最低限必要とされる最小の濃度。この値が小さければ小さいほどその薬剤が高い抗菌活性をもっていることになり、細菌に対して抗菌力すなわち有効性が高いことを示す。（日本大百科全書ニッポニカより引用）

参考文献
1．増田智美，宮久保秀機，飯沼宗和，原英彰．歯周病関連細菌に対するナタマメ抽出物の抗菌作用．Food Function. 2014；13：2-6．