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全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第8回 簡単だと思ってはいけない“試適”

全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第8回 簡単だと思ってはいけない“試適”
全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第8回 簡単だと思ってはいけない“試適”
前回は水平的な顎間関係について解説を行いました。今回は試適のアポイントメントについて解説したいと思います。

試適は重要度の高いステップ

読者の皆様は全部床義歯の試適は丁寧に行っていますか?ひょっとすると、完成したろう義歯を口腔内へ挿入し、軽く咬合させ、違和感がないかを聞いて、手鏡を渡し、“見た目は問題ないですか?”と簡単に質問する程度で、短時間で終わっているのではないでしょうか?  実際には試適は非常に重要であり、けっして簡単だと思ってはいけないステップです。今回はその理由とポイントについて解説したいと思います。

最後の砦となる試適

義歯製作のステップというと、「概形印象→最終印象→咬合採得→試適→完成」というように一方通行に進むように見えます。しかし、実際の臨床現場では、咬合採得を一度行ってから、再度最終印象を行ったり、試適まで進んだものの、印象を修正したり……などステップを戻してやり直す必要がある場合は少なくありません。 逆にいうと、義歯が重合されるまで(試適を終えて埋没されるまで)は、いつでも前のステップに戻ってやり直せると考えることができるといえます。 つまり、試適はより良い義歯を製作するために、すべてのステップをやり直せる最後のチャンスとなります。そのため、けっして気を抜かず、必要なら戻る!という意識で取り組むことが大切です(図1)。

図1 蝋義歯試適が終了し、義歯床が重合されるとこれまでのステップに戻れない。

試適のステップで行うべきことと優先順位

では、試適のステップでは何を行うべきなのでしょうか。大きく分けて、審美的な確認と機能的な確認に分けられます。審美的な確認では、人工歯の排列位置や歯軸、平面などを確認して、問題がなければ患者さんに最終確認をしてもらいます。また、機能的な確認としては顎間関係や臼歯人工歯の排列位置、研磨面の形態、床縁の長さ、発音などの確認が挙げられます(図2)

図2 試適時の主な確認項目。

限られた時間の中で優先すべき事項といえば、やはり顎間関係であり、上下のろう義歯にしっかりと指を添えて義歯の動きがないかどうか丁寧に確認するように心がけましょう(図3)。

図3 咬合を確認する際には、必ず義歯を触れて動きを確認することが重要である。

顎間関係の確認は前歯部試適が有利

前述のように、全部床義歯臨床において、もっとも難しく、重要度の高い咬合採得は一回で成功させることはとても難しいため、複数回にわたって確認や修正が必要なステップです。 そして、いうまでもなくそのタイミングは試適のステップであり、しっかりと確認することが大切です。 可能であれば、前歯部のみを排列して臼歯部をワックスにしておくと、顎間関係の確認や再採得がとても行いやすいので、咬合採得時に難しいなと感じた症例は、特に前歯部排列試適を行うことをお勧めします(図4)。

図4 前歯部のみを排列した試適を行うと、顎間関係の確認や修正が行いやすい。

著者松田謙一

大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授

略歴
  • 2003 年、大阪大学歯学部卒業
  • 2007年、同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)

同大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座助教・臨床講師を経て、2019 年より医療法人社団ハイライフ大阪梅田歯科医院院長、HILIFEDENTURE ACADEMY 学術統括者。
現在、大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授も務める。
https://dentureacademy.org/

松田謙一

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