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全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第9回 どこまでやるかを考える“義歯装着”

全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第9回 どこまでやるかを考える“義歯装着”
全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第9回 どこまでやるかを考える“義歯装着”
前回は試適とその重要性ついて解説を行いましたが、今回はいよいよ完成した義歯を患者さんに装着するステップについて解説したいと思います。

装着前によく見て調整する!

皆さんは、装着のアポイントメントの際、仕上がった義歯をまず患者さんに手渡して、“入れてみてください”と言ってしまってないでしょうか? 必ず完成した全部床義歯を口腔外でよく観察し、細かいバリや鋭縁部、アンダーカットがないかどうかをよく観察し、必要な調整を行ってから、術者自身が装着するようにしてください。 特に上顎結節部のアンダーカットはあらかじめ調整していないと装着する際にかなり強い疼痛を与えてしまうので要注意です(図1)。 図1 アンダーカットが生じやすい部位。

まずは適合?咬合?

アンダーカットなどの調整後、義歯が定位置に装着可能になったら次は何をチェックするのでしょうか? 教科書的には、まずは適合をチェックすると書かれている場合が多いのですが、それではシリコーン適合試験材を用いて適合をチェックするべきでしょうか。この場合の適合は、マクロな目線で見て義歯が定位置に装着されているかどうか、あるいは装着しただけで疼痛を感じるほどの大きな不適合部や長すぎる床縁がないかを意味していると考えてください。 つまり、多くの場合、義歯を装着し手指でしっかり押さえて疼痛がなければ、次に咬合を確認し、咬合調整を行います。その際もまずは早期接触がないか、大きなズレはないかというマクロな視点で見ます。続いて咬合接触というミクロな視点で見て、咬合調整へと進み、最後に時間があればシリコーン適合試験材を用いた適合試験と予防的リリーフを行いましょう。

咬合調整のポイント

咬合調整はどこを削って良いのかわからない、どこまでやれば良いかわからない。という質問を良く聞きます。たしかに難しい問題ですが、逆に最低限やっておいてほしい調整と簡単なルールを1つだけ説明したいと思います。 まず、簡単なルールとして、“上顎の舌側咬頭は基本的に削らずに、その他で調整する”ということを覚えておいてください(図2)。 図2 咬合調整の簡単なルール。 続いて、どこまでやるか(最低限やっておいてほしい)についてですが、まず中心咬合位の調整は“左右複数の臼歯が同時に接触する”というところまでは調整しましょう。理想的には臼歯すべてが接触することが望ましいと思いますが、それがかなわなくてもせめて左右の臼歯部2歯ずつが左右差なく接触するように調整しましょう。そして、少し時間に余裕があれば、偏心位の調整は“作業側は複数の臼歯でガイド、非作業側では1歯以上接触し、両側性にガイドされる”ところまで調整できたら良いと思います。もちろんその際も前述したルールは変わらないので、基本的に下顎の展開角を広げるように調整してみてください(図3、4)。 図3 必要最低限やっておきたい中心咬合位の調整。 図4 必要最低限やっておきたい偏心位の調整。

予防的リリーフの重要性

咬合調整終了後、患者さんに咬合時に疼痛や強い不快感がないかを聞き、問題がない場合には当日の調整を終了します。次回以降で適合の調整へと進んでも良いですが、可能なら予防的なリリーフを行いましょう。適合試験を行い、疼痛が起こりやすい部分に過圧部がないかを確認し、あればリリーフしておきます(図5)。当日に一手間かけるだけで、患者さんが感じる疼痛の程度と次回以降の調整回数を減らすことができるのでぜひ行ってください(図5)。 図5 予防的リリーフを行うことで患者さんも術者も負担軽減につながる。

著者松田謙一

大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授

略歴
  • 2003 年、大阪大学歯学部卒業
  • 2007年、同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)

同大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座助教・臨床講師を経て、2019 年より医療法人社団ハイライフ大阪梅田歯科医院院長、HILIFEDENTURE ACADEMY 学術統括者。
現在、大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授も務める。
https://dentureacademy.org/

松田謙一

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