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2022年8月のピックアップ書籍

2022年8月のピックアップ書籍
2022年8月のピックアップ書籍

ややこしい話もDr.Hiroにかかればこれだけ楽しくなる! 『Dr.Hiroのペリオ図鑑 組織・病因・分類・検査・治療・薬・メインテナンスの“知りたい”が見つかる!』

山本浩正・著 クインテッセンス出版 問合先03-5842-2272(営業部) 定価19,800円(本体18,000円+税10%)・336頁 評者:月星光博 (愛知県・月星歯科クリニック) ザ・クインテッセンス誌での連載『イラストで語るペリオのためのバイオロジー』(1999年連載)で衝撃的なデビューを飾った山本浩正氏にまた一つ勲章が加わった。山本氏は上記の連載の書籍化を含め、現在までに20数冊の著書を上梓している。評者の記憶が正しければすべてペリオに関する著書である。このことは、ペリオ学がいかに奥深いかというだけでなく、山本氏の知識(勉強量)がいかに豊富かということを物語っている。また、彼の著書はすべて興味深く、おもしろく、わかりやすく書かれており、多くの歯科医師と歯科衛生士に愛読され、ベストセラーになっている所以である。 山本氏の著書の大半を読んだ評者が、彼の深い知識と洞察力に感銘した1例として、「妊婦が歯周病を放置すると低出生体重児・早産になる」というペリオドンタルメディシンに関する考察をあげることができる。ペリオドンタルメディシンとは、全身疾患が歯周病に影響を及ぼすだけでなく、歯周病が全身疾患に影響を及ぼすことから、双方から関連性を追求しようとする学問である。この概念が発表されて25年以上経過した現在でもその信ぴょう性は定かでないとはいえ、山本氏は著書の中でcampylobacter rectus(歯周病の原因の一つかもしれない)によるDNAのメチル化を挙げている。DNAのメチル化とは、エピジェネティクスという遺伝子の後天的な発現異常(抑制)の一つであり、これにより胎盤で産生されるIgf2(insulin-like growth factor 2)が減少し胎児の成長が低下するというものである。一見すると難しく聞こえるが、山本氏の巧みな言葉選びとイラストでわかりやすく説明されている。この内容も新刊の中で紹介されているが、詳しくは『人はなぜ歯周病になってしまうのか?』(2014年、クインテッセンス出版)を参照されたい。このように歯周治療における最新のトピックスについても、原著を読むことに慣れていない臨床医が、山本氏の著書を通して知ることができるのはうれしい。 今回上梓された『Dr.Hiroのペリオ図鑑』は、彼の今までの数々の著書の名場面が集約された図鑑(ペリオ辞典)である。発生学、解剖学、病因論、細菌学、分類、歯周検査法、治療法、薬剤、そして、歯周治療に関連したさまざまな用語などが図鑑形式で解説されている。一つのテーマについて見開き2ページで、山本氏独特のエスプリのきいた言葉とイラストで解説されており、楽しく読むことができる。「歯周病原因菌の種類と特徴」「抗生物質の種類と特徴」「抗生物質の歯周治療への応用の是非」「正しい歯周検査法と診断」「咬合とペリオの関係」「非外科療法と外科療法の種類と選択基準」「聞きなれないペリオ用語」など、歯周病について疑問が湧いたらまずこの本を開いてみてはいかがだろうか。必ずや答えが見つかるはずである。

難抜歯や偶発症の対応がくわしくなってアップデート 『必ず上達 抜歯手技 増補新版』

堀之内康文・著 クインテッセンス出版 問合先03-5842-2272(営業部) 定価13,200円(本体12,000円+税10%)・236頁 評者:坂下英明 (明海大学名誉教授/我孫子聖仁会病院口腔外科センター長) 皆さんは知人に「臨床に役立つ本を1冊紹介して下さい」といわれたときに、推薦する本があるだろうか? 私にはある。それはこの本『必ず上達 抜歯手技』である。本書の初版が2010年に出版されたときに、臨床写真の美しさと記載の的確さに驚いた。まさに、キャッチフレーズの「安全で手際のよい抜歯の実践テクニックが満載」の内容そのものであった。 私も著者の堀之内先生と同様に「現在一般に行われている抜歯には、お家流や自己流が跋扈している」と考えており、当時、類書の『抜歯テクニックコンプリートガイド』(2015年・刊)を企画していた私にはある意味ショッキングな内容の本であった。これでは臨床写真の美しさでは負けるぞと考え、拙著では、見えない方向から可視化するためのイラストを多用することにしたことが、まざまざと思い出される。 発行以来、『必ず上達 抜歯手技』は絶えず歯学書のベストセラー街道を走り続けて、増刷を繰り返してきたので、初版からもう12年も経過したとは考えもしなかった。しかし、著者の抜歯に関する情熱は衰えず、若手歯科医師や抜歯が苦手な方が独習でマスターできるようにと、増補新版でさらに多くの写真やイラストを用いて、実践的なポイントやコツを示した解説を大幅にアップデートしたことには、驚きすら感じている。 困ったことには(?) 抜歯の動画を28本掲載している。28本ですと! 抜歯の動画の撮影はアングルが難しく、とくに、上下顎智歯の撮影には通常は難渋するものである。さらに、「難抜歯」や「偶発症」の対応などの章を追加され、至れり尽くせりの状態となっている。これはまさに類書の営業妨害以外の何者でもないだろう? 類書を編集した私からは、著者には強く反省を求めようと考えている。おそらく、他の類書の著者も同様の思いに違いない。 唯一リクエストするならば、抜歯時のポジショニングや体位についての内容の記載がないことである。最近の書籍では、この基本の記載がないことが多いため、私も著者の堀之内先生もいつも気にしている内容である。第3版発行の折には同部の追加を希望している。可能であれば、拙書に先生が記載された際の、あの凜とした姿勢のモデルの方をそのまま御起用くだされば幸せだ。あの抜歯時のポジショニングや体位の写真も秀逸である。 抜歯テクニックの参考図書の筆頭が米国口腔外科の父ともされるArcherの著書であり、われわれの世代の抜歯の基本は、やはりこの本であると再認識した。Archerの著書の副題には「A Step-by-step Atlas of Operative Techniques」とあり、まさに本書にもふさわしい。抜歯や口腔外科の内容に興味のある方にはぜひ一読をお勧めする。 本書はベストセラー街道を走り続けることは請け合いの良書だ。堀之内先生が日本のArcherと呼ばれる日は近い!と考えている。

カリエスマネジメントの理解を深めたい方への決定版 『歯を守る う蝕治療─非切削う蝕治療へのパラダイムシフト─』

杉山精一・著 クインテッセンス出版 問合先03-5842-2272(営業部) 定価13,200円(本体12,000円+税10%)・240頁 評者:渡辺 勝 (埼玉県・わたなべ歯科) 「う蝕は減ってきているのに、今さらカリオロジー?」と考えた方がもしいらっしゃったならば、ぜひしっかりと本書の内容を読み込んでいただきたい。 本書は、冒頭の「う窩をう蝕としていた時代は過去のものになりつつある」という問題提起から始まる。たしかに、う窩は減っているように見えるかもしれない。しかし、MIH(Molar Incisor Hypomineralisation)などはその発症率の高さ(1割から2割近くの報告がある!)から、つねに臨床の場でのDetection(検知)をしっかりと行わなくてはならない。 発症率を頭に入れて臨床に挑むことで見えるものを本書は示唆している。発症率を考慮していなかった評者は、「見落としていたかもしれない!」と痛いところを突かれた。 これは、Hidden caries(視診では見逃されるが、エックス線検査や他のう蝕検査機器では探知される、象牙質まで進行したう蝕)でも同様である。見落としを防ぐためには、規格性をもった資料を採り続けて、集積、分析、振り返りを行うことが大切である。う窩に見えるような大きな欠損が見つかる患者も、カリエスマネジメントを理解した考え方の下、歯の萌出前からかかわれば、う窩の発生を最小限に抑えられるかもしれない。 Detection(検知)した後は、記録が必要である。修復が前提の時代は、C1やC2といった島田の分類での記録が適切だった。しかし、う蝕の洪水状態は過去のものとなり、今はハイリスクストラテジーを臨床応用するようになっている。ハイリスクストラテジーでは、う窩を形成する前からの客観的で規格性のある記録が必要になる。 著者は、ICDASやXRといった、評者が学生時代に教わらなかった、“歯を守るための診断基準”での記録を推奨している。これらを用いると、修復が必要になる前から定量的に記録ができ、経時的で客観的なデータの蓄積ができる。 さらに、ICDASやXRを院内の共通言語にすれば、情報が共有できるようになる。本書では、実際の記録方法と活用法も掲載されているので、初めてこの用語を知った方も、容易に臨床応用できるだろう。 また、経験がないと想像しにくいかもしれないが、修復が必要になる前の患者との、記録を使った情報共有も大変有効であり、本書を読めば、その仮想体験ができる。 そして、本書には長期経過の臨床事例が多数紹介されているので、カリオロジーを実践するのに最適な書となっている。臨床でカリオロジーを実践するには、その背景にあるさまざまな専門家の見解、論文を参考にしなくてはならないが、本書はそういったエビデンスに裏付けられており、経験からくる著者の憶測ではないので、再現性が見込める。 本書を歯科医院のスタッフと一緒に紐解くことで、カリオロジーの真の理解を得られ、患者利益が増すことだろう。

現在の歯科臨床家が直面するであろう多岐にわたるケースを1冊にまとめた贅沢な書籍 『ペリオ・インプラント再生治療 2022 ベーシックからアドバンスまでのエビデンスに基づく 72インプラント症例』

一般社団法人日本インプラント臨床研究会・編 クインテッセンス出版 問合先03-5842-2272(営業部) 定価8,250円(本体7,500円+税10%)・144頁 評者:高井 康博 (広島県・医療法人双樹会 高井歯科医院) 本書は、2024年に創立50周年を迎える一般社団法人日本インプラント臨床研究会が編集した書籍である。500名を超える会員の中から厳選された72症例がカテゴリー別に網羅されている。本書籍を十二分に活用するためには、まず構成を十分に理解してから読むことをお勧めしたい。本書は、巻頭論文、巻頭症例に続き本編の7章、そして最後に専門医へのアンケート結果から成っており、1章ぺリオ&インプラント周囲外科、2章骨増生&上顎洞底挙上術、3章デジタルデンティストリー&矯正歯科、4章インプラント補綴&咬合回復、5章コンピューター支援インプラント手術、6章インプラントスタディ、7章抜歯即時&即時荷重&顎補綴で構成されている。 まず、巻頭論文では「歯周組織再生療法における術式の変遷と適応症」ならびに「歯周炎の新分類」について写真、イラストを用いて非常にわかりやすい解説が施されている。このパートを読むだけでも歯周組織再生療法の歴史の一端を垣間見ることができる。 続く、巻頭症例では4名の会員が、本書を代表する症例を「検査・診断」「治療計画」「術式選択のポイント」「結果とメインテナンス」の4部構成でふんだんに口腔内写真とレントゲン像を掲載し、それぞれにコメントを付与しながら解説を行っている。その結果、治療の流れが手に取るように把握、理解できることが特徴的である。 そして本編では、各症例に対し「参考文献」「本症例の注目点」「本症例の治療内容とその根拠」の構成で、口腔内写真やパノラマX線写真等を惜しみなく取り上げ、各画像に解説が施されている。特に症例写真が多数掲載されているので、読者の皆様が悩んでいる症例や過去の症例と照らし合わせ、治療計画・術式の立案や過去の症例の反省、今後の展望等において非常に参考になるのではと推察する。また、注目点が記載されていることで、何に配慮して読むべきかの指標があり、さらには参考文献を孫引きすることで、類似した他の症例の科学的根拠を得ることができる等、利用価値の広がりを感じさせる書籍となっている。 最後の専門医へのアンケート結果では、ご自身の歯科医院の現在の立ち位置が垣間見える、興味深いデータが掲載されている。 本書においては、ペリオ、組織再生、インプラント、デジタル、IOS、矯正、アライナー矯正、自家歯牙移植など、ほぼ現在の歯科臨床家が直面するであろう症例が、コンベンショナルなものから最新のものまで多岐にわたり網羅されており、従来の知識、技術の復習から新しい知識・技術の習得までもが可能な贅沢な構成である。歯科医院に本書を1、2冊置いておくだけで、院長をはじめ勤務医からスタッフまで、日々悩ましい症例の解決や勉強会での症例検討等においてのマイルストーンとして活用できる1冊になることは間違いないと思われる。

経営を歯科医療に置き換えた解説が的確でわかりやすい! 『技術と売上だけでは、幸せになれない!お金と人で悩まない歯科医院経営の原則』

坂本佳昭・著 クインテッセンス出版 問合先03-5842-2272(営業部) 定価2,420円(本体2,200円+税10%)・296頁 評者:岩野 義弘 (東京都・岩野歯科クリニック) 院長依存度100%のクリニックを経営し、自分の理想とする医療を提供するためには、他人に任せるなんてありえないだろう、と考えてきた評者にとって、院長依存から脱却する組織作りは、目指すものではないと考えていた。開業して10年が経過し、経営的にもある程度安定していると考えていたが、忙しい毎日に忙殺され、スタッフや医院の将来について深く考える時間、あるいは家族との時間が取れないなど、心のどこかに現在の状況に対する問題点も感じていた。 そんな中本書を読む機会があり、これまでの考えが一変した。恥ずかしながら経営についてきちんと勉強をしたこともなく、それでも医院運営はうまくいっていたため必要性を感じてこなかったが、本書を読み進むにつれ、自分の考えは少し間違っていたのかも知れないという気持ちになってきた。気づけば書籍は付箋だらけとなっていた。 経営に関する書籍というと難しく感じるが、本書を読んでいてまず感じるのは読みやすさである。見開き1ページに1項目ずつ歯切れのよい言葉が並んでおり、スッと頭に入ってくる。随所で歯科医療に置き換えた表現がされているのも、臨床医としては理解しやすい。「人材育成は、先に知識を高めてから技能を高める。」評者の臨床に対する考え方と一緒である。「決算書がまったく読めないということは、治療でいえばX線画像を見ても口腔内の悪い箇所がまったく分からないということと同じです。」非常に耳が痛いが、的確な指摘である。スタッフ教育においても、スキルを高めることは、本人にやる気があることが大前提であるから、先に考え方の教育を行ってからスキル教育に移行した方がよいなど、共感できることが多々記載されている。 本書にはまた、規模ごとに、また目指す方向ごとに具体的な数値が記載されており、本気で成功を望む者には参考にしやすい。院長依存を脱却するための具体的方略も満載であり、院長依存度の高い歯科医院においても、大きな不安なく方向性を転換することが可能である。「スタッフにやりがいをもって仕事にあたってもらうには」「スタッフの生産性、歯科医院の生産性を上げるには」「経営計画の重要性と作り方」読み込むほどに頭の中が整理され、方向づけが明確になる。 地域社会に貢献するといっても、自分ひとりでできるものではない。同じ目標をもったスタッフと一丸で目指した方がより大きな貢献ができるはずである。経営は単に金儲けではなく、自分とかかわるすべての人の幸せに直結する。 医院の成長はスタッフの幸せにもつながり、それが地域医療に貢献することにもなる。本書を熟読した結果、評者はこの考えに至った。読者諸氏におかれても、ぜひ本書をお手に取っていただき、改めてご自身の歯科医院経営について考えてみていただければと思う。

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