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全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第10回 加減が大事な“義歯調整”

全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第10回 加減が大事な“義歯調整”
全部床義歯臨床ワンポイント講座~知っておくと役立つ基礎知識 第10回 加減が大事な“義歯調整”
前回は義歯装着時に最低限やっておいてほしいポイントについて解説しましたので、今回は装着後の義歯調整について解説したいと思います。

装着後のアポイントメントはいつが良い?

新義歯装着直後は痛みが出やすく、1回目のアポイントメントはなるべく早い方が良いと考えられます。ただし、多くの場合1〜2日程度使用していると徐々に疼痛や不快感が出てくる場合が多いので、装着翌日よりも2~3日後ぐらいにアポイントメントを取るのが望ましいのではないでしょうか。なかなか日程が合わない場合でも、少なくとも1週間以内には調整を行うようにしましょう。

問診と視診を合わせて確認する

装着直後に生じる問題としては、やはり義歯床の接触による疼痛がもっとも頻度が多いと考えられます。いうまでもなく、どの部位がどうすると痛むのか?を問診する必要があります。ここで注意が必要なことは、“患者は痛みの場所を正確に把握するのが難しい”ということです。 さすがに左右を間違えることは少ないですが、奥や手前、一番奥という表現で疼痛部位を説明される場合には、「間違っているかもしれない」と考えて、口腔内を視診することが大切です。患者さんの言われるままに、特に過圧部位でもないところを切削しても良くなりません。あくまでも潰瘍が認められる(図1)、発赤・びらんが認められる(図2)、フィットチェッカーにて過圧部位だと判断できる(図3)のような所見が見られるかどうかという、客観的な判断が必要だと思います。 図1 顎舌骨筋線部に生じた潰瘍。 図2 下顎舌側に生じたびらん。 図3 下顎舌側後縁部に過延長を疑わせる所見。

疼痛の出やすい場所を覚えておく

また、疼痛が出やすい場所を覚えておくことも重要です。たとえば、過圧による疼痛が生じやすい部位から考えてみたいと思います。下顎の舌側の後方部、顎舌骨筋線付近や下顎舌側の前方部の斜面なども粘膜が薄く、潰瘍などを生じやすい部位です。同様に上顎であれば、上顎結節の外側面や口蓋隆起が挙げられます。 続いて、過延長により潰瘍が生じやすい部位は、上顎では上顎結節の後端部、下顎ではレトロモラーパッドの内側や後顎舌骨筋窩付近の舌側下縁、前歯部唇側などが挙げられます(図4、5) 図4 装着後に疼痛が生じやすい部位(上顎)。 図5 装着後に疼痛が生じやすい部位(下顎)。

どのくらい削るのかを理解する

では、潰瘍部や発赤部をどの程度削れば良いのでしょうか? たとえばすでに潰瘍が生じ、周囲粘膜がわずかに腫脹している症例です。患者さんがまったく不快感を感じない程度まで調整するのは、切削しすぎている可能性が高く、調整後に同部の適合が悪化してしまう可能性があります。 多くの場合、“わずかに傷に触れる感覚はあるけれど、痛みはましになった”という程度が一つの目安になるように思います。 また、これまでにあまり具体的な数字で説明されることは少なかったかもしれませんが、一回あたりの切削量は、概ね100~200μm(0.1〜0.2mm)前後ぐらいが目安ではないかと筆者は考えています。 一回あたりの切削量を多すぎないように心がけ、不要な場所の切削を避け、できるだけ良い適合を保ったまま、不快感なく義歯が使用できるようにていねいに調整を行いましょう。

著者松田謙一

大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授

略歴
  • 2003 年、大阪大学歯学部卒業
  • 2007年、同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)

同大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座助教・臨床講師を経て、2019 年より医療法人社団ハイライフ大阪梅田歯科医院院長、HILIFEDENTURE ACADEMY 学術統括者。
現在、大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座臨床准教授も務める。
https://dentureacademy.org/

松田謙一

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