高齢者に意外と多く見逃しがちな口腔カンジダ症
高齢者に意外と多く、見逃しがちな口腔粘膜疾患が口腔カンジダ症です。口腔カンジダ症は真菌に属するカンジダによる口腔粘膜感染症です。このカンジダは通常病原性を示さない口腔内常在菌として口腔内に存在します。 もともと、胎児は生まれる前は無菌です。生まれた直後から産道や外界から来たカンジダが侵入して、口、食道、胃、小腸、大腸などに定着していきます。Candidaは菌糸形と酵母形があります(Candida glabrataだけは菌糸形とはなりません)。病原性を示さないカンジダ酵母は、粘膜と物理的に引き合って一次付着します。しかし、その力は弱く簡単に除去されるので、酵母は唾液や血液のタンパクを介して二次付着します。菌糸を伸ばすとさらに強固に付着し、菌糸を上皮下に侵入させると、痛みや発赤等の症状を出し、口腔カンジダ症とよばれるようになります。 口腔カンジダ症は口腔乾燥のある患者のほか、ステロイド服用患者、抗菌薬を長期に使用している患者、癌患者、高齢者に発症しやすいといわれています。AIDS患者や終末期の患者で免疫力が低下している場合には重症化しやすく、治りにくいのです。 口腔内常在菌のバランスの崩壊(参考文献1より引用)。症状が多彩な口腔カンジダ症への対応
口腔カンジダ症は白色の偽膜を生じる偽膜性カンジダ症、発赤のある紅斑性(萎縮性)カンジダ症、粘膜が肥厚して固くなる肥厚性カンジダ症など、症状が多彩です。最近では潰瘍性口内炎や正中菱形舌炎、口角炎もカンジダが関与すると考えられています。カンジダ症は高齢者の疾患と考えられがちですが、カンジダ属は新生児より口や消化管に定着することが知られており、新生児や乳児にも口腔カンジダ症は発症することがあります。 (症例は参考文献2より) 口腔カンジダ症の臨床診断では、ハイリスクの状態で、口腔カンジダ症の特徴的な臨床所見、例えば舌痛、口腔内出血、口腔粘膜の白苔、口腔粘膜の発赤、口腔粘膜の潰瘍を有する場合にくだされます。確定診断を行うためには、病変部の擦過や舌を擦過して培養するか、鏡検で菌糸を確認することが必要となる。カンジダはそもそも口腔内常在菌であるため、口腔粘膜から分離培養されただけでは原因微生物とは断言できません。 口腔カンジダ症の治療は主に薬物療法です。現在歯科の適応のある薬剤はアムホテリシンB(ファンギゾンシロップなど)、ミコナゾール(フロリードゲルなど)、イトラコナゾール(イトリゾールなど)の3種類です。 アムホテリシンBは殺菌的で、すべてのカンジダによく効くとされています。腸管からの吸収が少ないため、併用禁忌や併用注意が少ない薬剤ですが、アレルギー症状が出現する場合があるため注意が必要です。ミコナゾールゲルは併用禁忌や併用注意が多く、抗凝固薬であるワルファリンは、ミコナゾールゲルの服用量に関係なくPT-INRが上昇し、出血傾向が増加するといわれています。ミコナゾールは保険診療では2週間で投与を終了しなければなりません。イトラコナゾールも併用禁忌や併用注意が多い薬のため、高齢者には注意が必要です。いずれの薬も安全とは言いがたいと思いますが、アムホテリシンBが使いやすい印象です。 意外な臨床症状が口腔カンジダ症に関連しています。口腔カンジダ症については、症例写真を数多く掲載した書籍を2021年に上梓させていただきました。ご興味のあるかたは、拙著『常在菌との共存を考慮した 口腔粘膜疾患の診断・治療・管理』(クインテッセンス出版刊)をぜひお読みください。 参考文献 1.山城崇裕.口腔カンジダ症の臨床像第1回(全3回)口腔カンジダ症の主症状.ザ・クインテッセンス2021;40(9):164-172. 2.山城崇裕.常在菌との共存を考慮した口腔粘膜疾患の診断・治療・管理.東京:クインテッセンス出版,2021.
著者山城崇裕
やましろ歯科口腔外科
略歴
- 2000年 九州大学歯学部卒業、九州大学病院顔面口腔外科勤務
- 2006年 博士号取得(歯学博士)
- 2008~2010年 飯塚病院歯科口腔外科勤務
- 2010~2013年 大隅鹿屋病院歯科口腔外科勤務
- 2013~2014年 九州大学顔面口腔外科勤務
- 2014~2016年 福岡県内の複数の歯科医院に勤務
- 2016年 やましろ歯科口腔外科開院(福岡県福津市)
【資格】
日本口腔外科学会認定専門医/日本口腔科学会認定認定医/歯科臨床研修指導歯科医
【所属学会】
日本口腔外科学会/日本口腔科学会/日本先進インプラント医療学会/日本有病者歯科医療学会