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2022年9月のピックアップ書籍

2022年9月のピックアップ書籍
2022年9月のピックアップ書籍

全部床義歯臨床を始めた先生方が階段を上るためにも適した書籍 『無歯顎補綴の治療戦略 総義歯とインプラントを用いた難症例へのアプローチ』

評 者 鮎川保則 (九州大学大学院歯学研究院口腔機能修復学講座教授) 吉松繁人/奥野幾久・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 13,200円(本体12,000円+税10%)・184頁 都心部では無歯顎患者が少なくなってきているという話を聞く。福岡は都心近くに田舎が迫っているような街であるが、それでも天神周辺の先生からは同様の話を聞くことがある。しかし日本の人口動態を鑑みると、一般歯科を生業にする以上、今の新卒の先生くらいまでは全部床義歯を避けては通れないのではないだろうか。日本の一般歯科医はPもPerもMTもHRTも、患者さんが思いつく歯科治療はすべてやれて当たり前(と患者さんは考えていると思う)の過酷な労働環境であり、その点で狭い領域を、大学という波静かな博多湾のような環境にて昼行灯で担当している評者にとっては、開業医の先生方には頭が下がる思いである。 今回拝読した本書は、そのような「何でもこなすトップランナー」の手に成る書籍である。吉松先生のところには評者の教室員が外勤でお邪魔し、ほぼ毎週先生のすごさを自慢され、奥野先生も5年前に日本口腔インプラント学会でご登壇願って以来密かにマークしていたので、この書籍の広告を見たときにお二人のコラボを楽しみにしていたところ、書評の栄に浴することができた。 すべてこなさないといけないとはいえ、読者の先生方にも得意不得意はあるだろう。とくに義歯は患者に出来不出来がわかりやすいため、プレッシャーがかかる分野である。その点において、本書は「全部入り」であるので義歯が不得手な先生、インプラントオーバーデンチャーに手を出したもののやはり患者満足度を上げることができていない先生にとってはバイブルとなるといえる。 本書はサブタイトルに「難症例へのアプローチ」とあるように、初学者向け書籍ではない。しかし、人工歯選択、研磨面形態、排列、咬合接触…歯科技工士任せでも義歯の形はできあがるので、任せきりになってしまいやすい分野であり、その結果うまくいかないことは多い。義歯製作を歯科技工士に任せるにしても、「どういう理由でそこがそのような形をしているか」「どうすればそれができるか」を知ったうえで歯科技工士と共同作業をすることなしに、良い義歯の製作は難しく、その点で全部床義歯臨床を始めた先生方が階段を上るためにも適した書籍である。 一方で、義歯の深淵を覗く旅の途中の先生にも、本書は強く推薦できる。アドバンスレベルの手技や考え方も惜しみなく、相当ハイレベルな内容が散りばめられている。とくにセファロ分析や骨格分析の解説は無歯顎補綴に関してトップレベルといえ、145, 146ページの表はコピーして目につくところに貼っておきたいと感じられた。 評者個人の考えで恐縮だが、明日から全部床義歯を製作しはじめる患者さんをお持ちの先生は、CHAPTER4から読んでみられてはどうだろうか。デンチャースペースはもっとも歯科技工士任せになっている概念であり、この点に配慮するだけで義歯がステップアップすること請け合いである。

「20の原則」「長期安定性」に続く、アレキサンダーディシプリンの集大成 『アレキサンダーの矯正臨床シリーズ 第3巻 アレキサンダーディシプリン 非典型症例と難症例』

評 者 久島文和/稲毛滋自* (大阪府・くしま矯正歯科、日本矯正歯科学会臨床指導医/*神奈川県・いなげ矯正歯科医院、Instructor and Examiner of Charles H. Tweed International Foundation) R.G. “Wick” Alexander・著 アレキサンダー研究会・監訳 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 13,200円(本体12,000円+税10%)・200頁 治療方針の決定を迷う矯正患者に出会った時の必携の書 本書はアレキサンダー先生が2016年に出版された矯正臨床シリーズ第3巻の日本語版である。開咬、過蓋咬合、外科併用かどうかのボーダーライン症例、Ⅲ級症例、早期治療、成人矯正、変則的な抜歯症例、埋伏歯や移転歯や欠損歯症例など、いずれも矯正臨床医として興味ある非典型的な8項目について24症例を提示している。こういった症例の治療方針には定石がなく担当する先生によりかなりの幅があると考えられる。私の場合、まず初診時の資料から自分なりの治療計画を考え、後にアレキサンダー先生の治療方針と結果を比較することですべての症例を興味深く読むことができた。アレキサンダー先生はそれぞれの症例について、治療計画、評価、考察、長期安定性と分けて簡潔かつ明快に解説されており、先生が一人ひとりの患者を大切にされていることを改めて感じた。 本書の各症例には数多くの経過写真があるので、非典型的な症例に出会ったとき、類似した症例を参考に診断したり患者さんの説明に活用することができる。前著の「アレキサンダーディシプリン20の原則」および「アレキサンダーディシプリン長期安定性」とともに、このテクニックをされている先生方はもちろん、されない先生方にも日々の臨床に大いに役立つと確信する一冊である。 (評・久島文和) 不世出の矯正歯科医Dr. Alexanderからのヘリテージ Dr. Alexanderは2022年4月21日に神のもとに召された。Dr. Tweed門下の大先輩である先生とは過去3回お会いし、うち2回は先生の個人的な時間を拝借して私のつたない治験例に心温まるアドバイスをいただいたことを鮮明に覚えている。さて、アレキサンダーの矯正臨床シリーズ第3巻「アレキサンダーディシプリン 非典型症例と難症例」の日本語版が上梓された。この本の冒頭で先生は、「矯正歯科という専門分野が進化していくなかで、患者さんの健康と福祉のために何が適切で最善の治療であるかに焦点が当てられることが私の願いです。」と述べられている。先生の人としてプロフェッショナルとしてその高潔さに胸を打たれた。本書は九つのカテゴリーに分けられた非典型症例と難症例について、それぞれの章の冒頭で不正咬合の病因や治療方法の概説がなされ、続いて初診時から長期予後に至るまで経過がつまびらかに写真で開示されている。加えて治療で用いたワイヤーシークエンスや治療のメカニックスが記載され、顧みて治療結果の評価や考察などが述べられている。私はページを捲った瞬間から本書の虜になり時間の経過を忘れ一気に読了してしまった。 テクニックに関係なく矯正歯科治療を専門とする先生や矯正歯科を志す先生方にとって本書は、非典型症例と難症例を治療する際の羅針盤の役割を担ってくれるものと思う。 (評・稲毛滋自)

学生からGP、口腔外科医にまで役に立つ充実した内容の1冊 『科学的根拠に基づいた ビジュアル下顎埋伏智歯抜歯』

評 者 堀之内康文 (公立学校共済組合九州中央病院歯科口腔外科) 岩永 譲、畠山一朗、伊原木聰一郎・編著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 9,900円(本体9,000円+税10%)・128頁 丸ごと1冊全部、下顎埋伏智歯の抜歯について書かれた内容の濃い本が出版された。これまでの類書と異なるところは、ベテラン口腔外科医の経験と勘に頼って書かれたものではなく、新進気鋭の3人の著者が多くの文献にあたり、書名どおり科学的根拠に基づいて書かれているところである。 下顎埋伏智歯の抜歯に必要な解剖に始まり(著者の1人は解剖学者)、画像診断、エビデンスに基づいた抜歯適応や禁忌、理に適った抜歯法、合併症回避法、さらに従来の抜歯のリスク評価法に加えて新たに筆者らが考案した新しいリスク評価法、手を出してはいけない症例まで記載されており、まさに至れり尽せりの本である。そして「ビジュアル~」の書名どおりに写真とイラストがきれいで、関連する構造の形態や位置関係、重要ポイントなどが非常に理解しやすい。また、文章は平易な表現で記され、簡にして要を得ていて読みやすく、わかりやすい。 3人の著者の取り合わせがまた絶妙である。岩永先生は、卒業後に大学で口腔外科を学んだ後に解剖学に転じた研究者で、米国Tulane大学の准教授にして、この7月からは母校東京医科歯科大学の顎顔面解剖学分野の主任教授を兼任する世界的な口腔解剖学者である。臨床をよく知っている解剖学者であるため、この本も解剖と手術が直結している。ずいぶん以前に、ある学会であったか研究会であったか、私が下顎管の中での動静脈と下歯槽神経の配置について質問したところ、演者ではなくフロアから答えてくれたのが岩永先生であった。若いのに優秀だなと思った記憶があり、それ以来、岩永先生のファンである。 また、伊原木先生は岡山大学口腔外科の准教授で、診療と若手医局員、学生の教育に情熱を注ぐ大学人で、指導のポイントを心得ている。もう1人の畠山先生は、横浜で「親知らず専門外来」を開設して1人で年間4,000本以上の抜歯をしている第一線の開業口腔外科医である。それぞれ出身大学は異なるが、研究会や講演会を通して知り合い、書籍執筆やリサーチカンファレンスの運営で協力しあっている良きライバル、良き仲間のようで、今まさに脂の乗った新進気鋭の3人である。 本書は、研究者、大学人、開業医のそれぞれの立場からの知識、経験、意見を持ち寄って書かれたもので、内容的にバランスが良く、学生からGP、口腔外科医にまで役に立つ充実した本に仕上がっている。この本に込められた3人の著者の願いは、経験と勘ではなく、理論と根拠に基づいた下顎埋伏智歯抜歯のスタンダードを確立し、口腔外科経験のないGPの先生方であっても、自信をもって安全に抜歯できるようになってほしいということであろう。 40年間口腔外科一筋で来た私にとっても、学ぶべきところの多い有用な内容であった。一読をお勧めする良書である。

術者の本音を叶えるアシスタントワークがわかりやすく学べる 歯科衛生士ブックレットvol.5 ライティング・バキューム操作・圧排 歯科手術アシスタント マスターBOOK

評 者 植松厚夫 (東京都・ウエマツ歯科医院) 岩渕 慧/今村栄作・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 2,420円(本体 2,200円+税10%)・40頁 私と今村栄作先生との出会いは、いまから29年前、今村先生が横浜労災病院歯科口腔外科に研修医として勤務され、私が横浜市港北区で開業したばかりの頃で、歯科医師会の仕事でお会いしたのがきっかけだったと記憶している。その時は横浜労災病院歯科口腔外科へオペ見学に行くことが多く、今村先生から色々と教えていただいたことを思い出す。その後、私が2009年に東京都世田谷区二子玉川へ移転開業したことをきっかけに、東急田園都市線で隣の駅になるあざみ野駅で下車すると横浜総合病院があり、そこの歯科口腔外科で部長をされている今村先生に再会することになった。 今村先生は口腔外科医として種々の手術を手掛けておられるが、インプラント治療に関しては、日本口腔インプラント学会の専門医、ITI (International Team for Implantology)のFellowであり、インプラント治療を依頼される近隣の歯科開業医の先生方から歯科補綴学がわかる口腔外科医として好評であると伺っている。 そんな今村先生が歯科衛生士向けの『歯科手術アシスタントマスターBOOK』を発刊された。歯科医師が治療に集中するためには歯科衛生士のライティング・バキューム操作・頬粘膜などの圧排が大変重要だが、その手技を伝えるわかりやすい書物がないことから、第一線で活躍される中で常日頃実感している部分を一冊の本にわかりやすくまとめてもらえたことを非常に嬉しく思う。 この本が特徴的なのは、今村先生が口腔外科医局員として手術のアシスタントをした時に勝手気ままにライティングして教授や助教授に怒られた経験、その後15年経った時に、その当時の新人医局員メンバーと情報交換をして、当時怒られた原因が何であったかよくわかるようになった気づきなど、すべて臨床現場を永く経験した実感から書かれている部分だろう。 最も感銘を受けたのは、本書で解説されるアシスタントワークの基本が「術者と患者さんの安心をアシストすることにある」という点である。日常の臨床現場において、歯科医師は限られた時間の中で治療に集中し、効率良く、チェアータイムが延長しないように、治療内容を予定通りに遂行していきたいと考えている。その集中力と効率的な状況を妨げる要因はなるべく少なくしたいのが術者の本音だと思う。 この本は歯科衛生士向けに書かれたものだが、これから歯科小手術を手掛けていく若い歯科医師にとっても、様々な小手術時に最適な術者とアシスタントのポジショニング、そしてアシスタントワークで使用する器具に関して大変役立つ情報が詳細に記されている。 本書が多くの方々の臨床に役立ち、術者と患者さんの安心をアシストすることを通して、歯科衛生士が楽しくやりがいの多い仕事として、さらなる歯科界の発展に寄与することを祈念している。

一般臨床家にとっても口腔外科関連の最新知識のアップデートに役立つ 別冊ザ・クインテッセンス 『口腔外科YEARBOOK 一般臨床家、口腔外科医のための口腔外科ハンドマニュアル’22』

評 者 山城正司 (東京都・NTT東日本関東病院歯科口腔外科) 日本口腔外科学会・編 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 7,260円(本体6,600円+税10%)・240頁 筆者は現在まで30年余りを口腔外科医として過ごしてきた。母校の口腔外科教室に入局した当時は、毎年の入局者が10名以上という人気講座であった。ところが最近、口腔外科は人気がないという。対象疾患も治療も多岐にわたる口腔外科は、長年やっても飽きることなく「面白い」と思うのだが……。一方で、紹介患者を診ていると、抜歯などの外科処置、有病者や抗凝固薬、骨吸収抑制薬などの薬剤を服用している患者への対応について、苦手意識をもつ開業歯科医が多いとも感じる。超高齢社会の今、こうした背景をもつ患者は増え続けている。難症例は口腔外科専門医へ紹介するとしても、軽症例は自院で対応できるようになると、患者にも感謝されると思う。 『別冊 口腔外科ハンドマニュアル』は、日本口腔外科学会が編集し、毎年発刊されるYEARBOOKで、掲載論文は編集委員により校閲が行われている。まず今回の特集として、2021年版に引き続いての「ウィズコロナ時代の歯科・口腔外科医療(第2報)」と、「口腔外科における内視鏡手術」が取り上げられている。 「Chapter1 口腔外科ビジュアルセミナー」では、「ビギナー&ミドルのための必修ベーシックテクニック」「認定医・専門医をめざすエキスパートのためのアドバンステクニック」「口腔と全身の管理 診断・治療・ケアからトラブル予防まで」の3つのSectionがあり、若手口腔外科医だけでなく、一般臨床家から経験のある口腔外科上級医にとっても興味深い論文が掲載されている。 Section1の「抜歯時の偶発症の予防と対処」「小児の外傷への対応」「診療室における患者急変時の緊急対応」は、誰もが遭遇する可能性があり、早急な対応が求められるため、慌てることがないように、日ごろからシミュレーションしておく必要があるであろう。「インプラント治療に用いる人工骨 最新情報」は、インプラント適応症の拡大に寄与してきた骨補填材で、今注目されている「Cytrans® Glanules」と「Bonarc®」についての最新情報を提供している。Section3の「免疫抑制薬服用患者への対応」「周術期における基本的な栄養管理」は、実臨床にすぐに活かせる記事であり、「洗口液による感染予防」を読めば洗口液の選択について、自信をもって患者指導ができると思う。 Chapter2以降も、「口腔外科最新レビュー」「口腔外科治療における画像診断」「歯科医・口腔外科医が知っておくべき臨床解剖生理」「診断・治療に役立つ 臨床医学の基礎知識」「若手口腔外科医からのメッセージ」とバラエティに富み、充実した記事が続く。 歯科医師は歯や歯周組織だけでなく、口腔の専門家であるべきと考えるが、厚い成書を読むのは骨が折れ、また歯科医療も日進月歩であり、教科書の記述はあっという間に古くなる。こうした読みやすい本で最新知識へのアップデートをお勧めする。

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