競走馬に、漁業で使う網にエサの草を入れ与えている。 どうして,このような与え方をするのだろう。 それは、早食い防止のためである。 そもそもセルロースを多く含む草は,エネルギー効率が低い。 そのため、1日16時間食べ続けなければ体を維持できない。(図1) 通常のエサでは,体を維持するのに精一杯だ。 しかし,これでは競争に勝てない。 そこでに,高カロリーで消化しやすい配合飼料を与える。(図2) それならエネルギーは、バッチリ!と思われだろう。 しかし、ここに思わぬ落とし穴がある。 ウマは,栄養面より,食べることに当てる時間が大切だ。 小さな固形試料は、早く食べ終えてしまう。 短時間で食べ終えた後、他のウマが食べているのを見ると,ストレスを感じるらしい。 イライラして,調教どころではなくなるという。 そこで,飼い葉桶に大きな石ころを入れたり,サカナの網にエサを入れて与える。 こうして食べ難くすることで,早食いを防止するのだ。(図3) 栄養のあるペレットでは,満腹感は得られても,満足感が得られない。 どうやら、忙しい現代社会,ウマに見習うべきことがたくさんありそうだ。 ところで歯科医師にとって、ウマの歯は興味深い話がたくさんあるので紹介しよう。 ウマは、咀嚼効率を高めるために,小臼歯も大臼歯化させた。(図4) 臼歯の咬合面は,大きいだけではなく、ヒトとは異なっている。 さてヒトの歯は内側に象牙質,外側にエナメル質がある。 ウマでは,さらにエナメル質の周囲をセメント質が取り囲む。 同時にエナメル質の間の空隙もセメント質で満たされる。 どうして,かくも複雑なのか?(図5) ヒトの大臼歯も咬耗が進み平坦になれば,咀嚼能率が低下する。 これでは,草をすり潰すことができない。 そこで,ウマの神様は考えた。 エナメル質と象牙質やセメント質では硬さが違う。 咬耗が進みやすい部分と遅い部分を作ればよい。 この差が適度な凸凹を作り,噛める歯が誕生したのだ。 さらに面白いことがある。 ウマの歯冠周囲は、セメント質で覆われている。 どうしてだろう? 続く
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
知っているようで知らなかった、歯に関する目からウロコのコラムです!
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