臨床の場を熟知した著者による、インプラント解剖の最新書籍! アナトミー2 もう一度確認したいインプラント臨床のための解剖
Louie Al-Faraje・著 森本太一朗/新井聖範/長尾龍典・監訳 五十嵐 一/松成淳一/坪井陽一・翻訳統括 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 30,800円(本体28,000円+税10%)・320頁 評 者 河奈裕正 (神奈川歯科大学歯科インプラント学講座顎・口腔インプラント学分野)インプラント外科にかかわる臨床解剖の名著『アナトミー』の続編、『アナトミー2』日本語版がついに発刊された。解剖ではなく臨床解剖の名著とあえて申し上げるのは、本書が人体構造と機能のみを述べた解剖学書にとどまらず、診断や手術をおおいに意識した書籍であるからで、この態度は『アナトミー』、『アナトミー2』と一貫している。 著者はもちろんAl-Faraje先生である。同氏は、ご自身が主催するインプラント・コースで臨床解剖を最重視なさっているが、世界中の歯科医師に教える間に新たな考えを蓄積し、『アナトミー』の大切な項目を残したまま、『アナトミー2』では約50ページを増量してブラッシュアップされている。名著をさらに大幅改訂するアグレッシブさに頭が下がるが、どのような内容なのかを検証してみた。 特筆すべきは、豊富な解剖イラストに基づいたCT像や臨床写真など、現場に即した多くの資料の提示である。実際の患者を診ているような世界へ誘ってくれることを実感する。すでに『アナトミー』で使用した図も系統立てた並べ換えが行われ、部位別にフォーカスした章立てとなっており、読みやすい。 内容を充実させたのは、「顎下腺窩」の重要構造、動脈に限らない「口底」の筋層や副舌側孔の存在、萎縮した歯槽堤における「オトガイ孔」周囲の臨床解剖で、手術の臨場感を持って解説している。また、「手術時緊急事態の解剖」は、手術を行う者にとって最重要項目であるが、緊急処置の準備と対処法にまで言及しているのは臨床解剖書を超越している。緊急時はどうすべきかの警鐘を鳴らしてくれている。 また、新たに「頬骨」の章が加わった。口腔外科医にとって「頬骨」の臨床解剖はきわめて重要であるが、本章ではザイゴマインプラント手術を前提とした視点で、画像診断、ドリリングのランドマーク、インプラント通過部位と上顎洞との関係、周囲の重要解剖構造が網羅されて非常に参考となり、同時に、ザイゴマインプラントは歯科医師だれもが行うべき術式でないことも改めて認識させられる。 臨床の場では、解剖学に基づいた精度の高い診断や副損傷を避けるための手術が求められるが、臨床の場を熟知したAl-Faraje先生の視点は細かな配慮に溢れ、本書を読み込むほど、奇をてらわない手術の大切さを実感させられる。 原本の題は『Clinical Anatomy for Oral Implantology:Second edition』であるが、日本語版には、原本にはない、『もう一度確認したいインプラント臨床のための解剖』の副題が付記されている。監訳の森本太一朗先生、新井聖範先生、長尾龍典先生や訳者の先生方からの、患者を大切にしたい気持ちと読者への「安全」の願いが込められたメッセージとして輝いている。
難解な下顎位について圧倒的な総合力で解決してきた著者による良書 その下顎位をどう決める? ─全顎的補綴修復治療・矯正治療のための臨床的知識─
中村茂人・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 14,300円(本体13,000円+税10%)・228頁 評 者 山﨑長郎 (東京都開業・原宿デンタルオフィス)「その下顎位をどう決める?」という表題は、非常にチャレンジングなテーマである。確かに、咬合再構成における下顎位の決定はその症例の成否に大きな影響を及ぼす。本書は矯正治療と補綴治療を適切に、また理論的に組み合わせ、この難題を臨床的に解決している。このようなフルマウスリハビリテーションのみを集め治療し、結果を残している書はかつてないと思われる。それゆえ、かなり価値のあるものである。 目次を開いてみると、第0章〜第5章からの構成となっている。以下、これら各章の特徴と読みどころについて簡単に説明を加えていきたいと思う。 最初の第0章「症例を『みる』─資料収集から治療ゴールまで─」は、審美と機能をあわせて達成できた1症例を供覧し、スタートからゴールまでのそれぞれのステップを詳細に説明している。また、必要となる矯正治療の基本知識であるセファロ分析の基礎知識もあわせて説明している。矯正治療においてセファロ分析は特に重要であることから、第0章におけるセファロ分析の解説は、本書を理解するための前準備として必読に値する。 次に、第1章「顎位の問題が引き起こすさまざまな症状」では、適切な顎位を付与しないと顎口腔系に変化および偏位を引き起こす原因となることについて、さまざまな角度から検討している。 そしてさらに突き進んで、第2章「中心位の考えかたと臨床的応用」では、顎位における最大の問題点である中心位に関し、その考えかたと臨床的応用について、過去からの変遷と新しいアプローチとしての「Deprogramming」をふまえて、中心位採得の実際をいくつかの症例をとおして詳細に述べている。この第2章は本書のハイライトといえるかもしれない。 第3章「顎位が安定しやすい理想咬合」では、理想的な歯列の位置および機能についてフューチャーした歯の位置とあわせて解説している。また、特に顎の形態から下顎位が変化しやすいパターンを見極めている。 第4章「症例供覧」は、それまでの章で述べてきた中村先生の理論をふまえた、それぞれに特徴のあるケースを3つ供覧している。特に咬合高径と垂直的顎位の決定方法は興味を引くものである。 最後は第5章「経過症例から振り返る」と題されている。この第5章は、中村先生のもつ、顎位に関する臨床力に留まらずすばらしい総合力がふんだんに披露されていて、圧巻である。そのうえ症例の経過も順調であり、理論と技術が正しいことの証明がなされている。 以上、紹介してきたように、本書は、難解である下顎位について圧倒的な総合力で解決してきた著者による稀に見る書であることに間違いない。本書評で示した以外にも読みかたはさまざまで自由であるが、咬合再構成を手掛ける歯科医師にとって必携の1冊といえよう。
親子の口と歯、こころのために歯科ができる支援の具体的取り組みを解説! 妊婦、赤ちゃん、子どもの診かたがわかる本 マタニティ期も出産後も、保護者と小児の口腔と健康のために歯科ができること
藤岡万里・監著 井上美津子/片山育子/西村滋美/原 聰/ 宗田友紀子・著 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 8,580円(本体7,800円+税10%)・168頁 評 者 田中英一 (東京都開業・田中歯科クリニック)2023年6月に厚労省は「2022年の日本の出生数は77万747人と1899年の統計開始以来、初めて80万人を割り込んだ」と発表した。政府も「出生数が5年間で20万人近く減少した。これは“静かな有事”と認識すべき」との見解を示した。 社会全体がこの課題に取り組まなくてはならない今、歯科界にとってまさにタイムリーな企画だと、この本を手に取ったとき強く感じた。というのは、新たに設立された「こども家庭庁」は、「こどもまんなかアクション」を施策の柱にし、すべての人が子どもや子育て中の方々を応援するという、社会全体の意識改革を目指しているからだ。私たち歯科医療関係者も、小児歯科を専門とするしないにかかわらず、社会の一員として、それぞれの立場でできることに取り組むことが求められているはずだ。本書は、その具体的取り組みをわかりやすくまとめているところが、新しい発想の内容となっている。 本書は3つのPartから成り、Part1の「マタニティ期に歯科ができること」から始まり、Part2「出産後の歯科治療と歯科からできるサポート」そしてPart3「親子に寄り添い、子どもの成長を支援する」まで、Part名を見ただけでも、むし歯の予防や治療にとどまらず、親子の口と歯の健康づくりにかかわり、親子のこころと体の健康にも目を向けてほしいという著者らの熱い思いが伝わってくる。 目次を見ていくと、こんなことからも歯科がサポートできるのかという新鮮な気づきが得られる。『妊婦「歯科」健診と、歯科からの工夫、配慮(Part1 Chapter1)』では、医科の「産婦人科研修の必修知識」で妊婦歯科健診を受けることをアドバイスするよう記載されているなど、他領域の情報や妊婦の方の歯科治療に対する意識調査結果などが紹介されている。『思春期をどう乗り切るか(Part3 Chapter6)』では、生涯の健康維持へつながる広い視野をもった対応なども具体的に提示されている。どの項目も、実態や科学的データに基づいたサポートが簡潔に書かれているので、読みやすく現場で役立つ内容になっている。 書籍全体をぜひ通読してほしいが、全12のChapterにある「はじめに」だけでもじっくり読まれると良い。こうしたサポートが求められている社会的背景や現状がわかりやすくまとめられていて、本書が出版された意図や全体像が心に残るはずだ。そのうえで、臨床で疑問に感じたときや困ったときに目次を見ながら必要なところを読んだり、時間のあるときに目次のなかで興味あるところに目を通したりするのも、効果的な利用法といえる。 少子化がすすむ今、生まれてきた子どもがこころも体も健やかに育っていくよう、地域や社会で支えていくことが大切だ。歯科医療関係者もその一端を担えるよう、この本が必携の書として活用されることを願う。
年1回の発行になってから内容がより凝縮し、読む楽しさがさらに増す PRD YEARBOOK 2023 成人矯正を成功に導くための歯周-矯正治療
岩田健男/山﨑長郎/和泉雄一・主席編集 クインテッセンス出版 問合先 03-5842-2272(営業部) 定価 7,480円(本体 6,800円+税10%)・200頁 評 者 木村英隆 (福岡県開業・医療法人木村歯科))PRD(英語版)が1981年に創刊され、40有余年が経過した。筆者も1990年に大学を卒業し、気づけば2か月ごとに発刊される本誌を楽しみにしていた。PRDは歯周組織の再生は言うもでもなく、インプラント周囲の硬・軟組織の再生や審美修復治療の最新技術や材料の情報が溢れていた。2016年からは年1回の発行となり、1年間の論文が凝縮され、これも大変楽しみの1冊となった。 例年、YEARBOOKには歯周病学・補綴・外科・インプラント、そして新材料・テクニック等のパートごとに厳選された論文が選ばれている。今年も興味深い論文が収載されており、いくつか紹介したい。 補綴Ⅱの「臼歯部咬合崩壊:形態と機能に基づく治療ガイドライン(Nakamura SSら)」は、臼歯部咬合崩壊に対してグレード1からグレード4に分類し、各グレードの治療に関するガイドラインを明示している。臼歯部咬合崩壊に対して咬合高径の回復治療を行う場合は咬頭嵌合位と中心位を一致させる咬合治療を行うことを示唆していた。 外科Ⅰの「水平的骨造成のための改訂ディシジョンツリー:ナラティブレビュー(Yu S-H and Wang H-L)」は、水平的に必要な骨造成量を“軽度:<3.0mm”、“中程度:3.0〜6.0mm”、“重度:≧6.0mm”に分類し、ディシジョンツリーにてそれぞれの欠損における水平的骨造成に対する外科的アプローチを簡潔に選択できるように示している。また、骨造成で選択される術式についての考察とともに、“インプラント周囲に少なくとも1.8〜2mmの健全な骨を確保するために、より直径の細いインプラントを埋入することが実践的な治療選択肢”と示唆していたことには同感した。臨床医として水平的骨造成をおおまかに概要を得るにはとても役に立つ論文と思った。 インプラントⅡ の「インプラント上部構造-隣在歯間コンタクトポイント喪失に関する分析:10年の後ろ向き研究(Manicone PFら)」は、インプラント上部構造においてしばしば遭遇する合併症である“コンタクトポイントの喪失”に関する研究である。インプラント治療をする歯科医師なら誰もがコンタクトポイントの喪失は経験していると思う。この論文の中で、コンタクトポイントの喪失頻度は51%と高頻度で起こること、そしてインプラント上部構造の近心面のコンタクトポイントの喪失の発言頻度が有意に高いと報告していた。患者にコンタクトポイントの喪失について知らせることは、臨床医の義務であると強調していたことには同感した。 その他の論文も最新の研究と臨床経験に基づいた実用的な情報が凝縮されており、臨床医にとって貴重な参考資料となる。歯周組織の健康を考慮した外科手術、インプラント治療、そして矯正治療は、治療の安定性と効果の持続に大きく寄与するであろう。本書で示される治療戦略や手技は、臨床医のみならず患者においても非常に有益なものといえる。