ウマは、セルロースを多く含む硬い草を食べる。 噛み続けると、著しく咬耗が進む。 そのため歯冠が長い。これを高冠歯や長冠歯と呼ぶ。 実際の下顎骨と歯の断面を見てみよう。 歯冠が極めて大きいことがわかる。 馬ヅラは、歯が大きいことが原因だったのだ。 しかも、歯根も大きく根尖が開いたままだ。 すなわち萌出が完了後も、歯根の形成により歯が伸び続ける。 自然界での咬耗のスピードは、年に2~3ミリ。 一生に臼歯は、6~8cm伸びるという。 これを割り算した30~40歳がウマの寿命とされる。 ところでヒトの歯冠は、象牙質の外側にはエナメル質がある。 しかし、ふしぎなことにウマの歯冠は、セメント質で囲まれている。 どうしてだろう? この理由がおもしろい。 歯根は、歯根膜を介して歯槽骨とつながる。 しかし、エナメル質や象牙質は、歯根膜とつながることはできない。 そのためにはセメント質が必要なのだ。 かくして、咬耗が進むとともに、セメント質も萌出し歯冠を取り囲むのである。 さて、ウマの前歯は、硬くて短い草を引き抜くため切端咬合となっている。 そのため、前歯部の咬耗状態により年齢の推定が可能となる。 (参考) ちなみに英語の諺で“贈られた馬の口の中を見てはいけない”という言葉がある。 これは“贈り物のあら捜しをしてはいけない”という意味だ。 老馬は、歯を見ればわかるためである。 以前、ある調教師から 「切端咬合のウマは食欲旺盛で、顎の張ったのは何でも噛めて健康だ。 だから歯を見て、育てるウマを選ぶことにしている」と言われた。 なるほど! 馬券を買う時、パドックで咬合状態をじっくり見ると、大当たりするかも知れぬ。 続く 参考:歯の咬耗状態と年齢 誕生時は、上下それぞれ2本ずつの乳切歯が萌出。 生後6か月過ぎに、上下6本の乳切歯の萌出が完了。 さらに2歳半から切歯から永久歯の交換が始まり、5歳頃には萌出が完了。 この時の摩耗により黒窩の形は刻々変化する。5歳までは黒窩が見える。 6・7歳で、黒窩の周りのエナメル輪が見える。 8・9歳では、摩耗により歯髄腔の上端に第2象牙質が形成され、円形の歯星が出現。 15歳前後では、黒窩の横にあったエナメル輪も消失。 18歳以上では、第2象牙質の形成はさらに進み、歯星が唇舌に楕円形となる。
著者岡崎 好秀
前 岡山大学病院 小児歯科講師
国立モンゴル医科大学 客員教授
略歴
- 1978年 愛知学院大学歯学部 卒業 大阪大学小児歯科 入局
- 1984年 岡山大学小児歯科 講師専門:小児歯科・障害児歯科・健康教育
- 日本小児歯科学会:指導医
- 日本障害者歯科学会:認定医 評議員
- 日本口腔衛生学会:認定医,他
歯科豆知識
「Dr.オカザキのまるごと歯学」では、様々な角度から、歯学についてお話しします。
人が噛む効果について、また動物と食物の関係、治療の組立て、食べることと命について。
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