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面白くて深〜い骨免疫学の世界 Part2 〜歯科研究者ってどんな仕事?〜

面白くて深〜い骨免疫学の世界 Part2 〜歯科研究者ってどんな仕事?〜
面白くて深〜い骨免疫学の世界 Part2 〜歯科研究者ってどんな仕事?〜
知っているようで知らない歯科研究者の世界。普段、どんな1日を送り、どんなふうに研究を行っているのか。塚崎雅之先生のグループで骨免疫学の研究を行う安藤雄太郎先生と中村和貴先生をお迎えし、最新の研究から趣味に関することまで、いろいろなお話を伺いました。

東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座
特任助教 塚崎 雅之 先生

東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座
東京歯科大学 微生物学講座
博士課程4年 安藤 雄太郎 先生

東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座
東京大学大学院医学系研究科口腔顎顔面外科学
博士課程3年 中村 和貴 先生



新しい研究への期待

-- 塚崎先生のグループはどのような体制で研究されてるのでしょうか? 塚崎先生:現在は主にこの3人で研究しており、全員が歯科医師です。最近まで中国出身のリウマチ内科医も一緒に研究してくれていましたが、アメリカに留学したため、メールやzoomなどでやり取りをして共同研究を続けています。ベトナム出身の歯科医師も一緒に研究していましたが、帰国したためにやはりメールやzoomで連携しています。短期で私のグループに参加してくれるメンバーもおり、いまは中国からの整形外科医が1人います。2年前に短期実習で参加してくれた広島大学医学部生の石田くんは、いまでも一緒に(主にサウナに関する)研究をしてくれています。 -- 安藤先生と中村先生はどのようにしてこの世界に入られたのですか? 安藤先生:研修医の時に塚崎先生の歯周病に関する論文を読み、それが非常に面白かったんです。実は学部時代から免疫や細菌、歯周病の研究をしたいという思いがあり、その頃、お世話になっていた先生にその論文の話をしたら、幸運にも塚崎先生ご本人を紹介してくださり、東大免疫学教室で塚崎先生のご指導のもと、研究させていただける機会に恵まれました。それがこの研究室にお世話になるきっかけです。 中村先生:私は長崎大学歯学部を卒業後、東京大学医学部附属病院の口腔顔面外科で研修医として勤務しました。日々の臨床経験から生まれる疑問に対して研究を通じて解決したいという思いを抱いていました。転機となったのは、研修医時代に参加した学会で高柳教授と塚崎先生にお会いし、お話をさせて頂いたことでした。高柳研究室で骨免疫学に基づくアプローチを博士課程で学びたいという強い意欲が湧き上がりました。その後、所属する東京大学口腔顔面外科の星和人教授に相談したところ、高柳広教授と塚崎先生の指導のもとで、免疫学教室での研究させて頂けるようになりました。 -- お二人とも普段どんな研究をされているのでしょうか? 安藤先生:私は非常に詳細な細胞の情報を解析できるシングルセル解析という手法を用いて、これまでにない解像度の高さで細胞同士の相互作用を網羅的に調べ、歯周病で骨が壊れるメカニズムを研究しています。もう一つ、血管の石灰化に関する研究も行っています。 塚崎先生:動脈硬化や心筋梗塞などは血管が最終的に骨みたいに石灰化します。安藤先生の研究ではそれに対する大きな発見をして、もしかすると血管の病気の予防や新しい治療法の開発にもつながるのではないかと期待しています。 中村先生:私はがんが骨に直接浸潤するメカニズムを研究しています。これまで適したモデルマウスが存在しなかったのですが、私たちはそのモデルマウスを確立することができました。そのマウスを使用して、さまざまな解析を行っています。 塚崎先生:これまでがんを排除する細胞は免疫細胞だけだと考えられていたのですが、中村先生の研究では免疫細胞ではない骨の構成細胞の1つががんと戦う力を持っていることを発見したんです。もしかすると、いろんな臓器でも同じような細胞があるかも知れず、そうした細胞を制御できれば、従来のがん治療と違ったアプローチが可能になるんじゃないかと思っています。

歯科研究者のオンとオフ

--研究室では皆さん、おもにどんな一日を送っているのでしょうか? 安藤先生:朝、ラボに来たら論文をチェックすることから始まります。それからミーティングをして、実験を行ったり、データーを解析したりします。 中村先生:マウス室にこもって実験をすることも多いですね。マウス室には菌を一切持ち込めないので、宇宙服みたいな作業着を着て実験をしています。 実験室での安藤先生、中村先生の様子。 広い実験室には30名前後の研究者が働いている。 実験中の安藤先生と中村先生。お二人とも1日の多くをこの実験室で過ごす。 --塚崎先生は普段どのようなルーティーンなのでしょうか? 塚崎先生:今は予算を取るために資料を作成したり、いろいろな書類と格闘したり(笑)、そういうデスクワークが増えました。研究者のステージとしては自分で実験して自分が筆頭著者で論文を出すよりも、一歩下がって後進を指導するなど、そういうことをする立場に移りつつあります。 --休日はどんなふうに過ごされていますか? 安藤先生:野球観戦ですね。あとは唯一の自慢なのですが、以前は体脂肪率が5%でイチロー選手と同じだったんです。最近は10%くらいになってしまったのですが、キープするために筋トレをしています。 中村先生:私は2歳の娘がいるのですが、休日に一緒に遊ぶことが楽しいですね。それと私も塚崎先生を見習ってサウナでととのうというのを実感しようとトライしているところです。 塚崎先生:サウナには医学的にもいろいろな効能があることがわかってきています。休日といえば、彼らはそれこそ土日も実験していることが多く、非常に頑張っています。研究者のステージとしては、まずは筆頭著者として論文を出して、学位を取ることがスタートで、そこでようやく研究者として研究の世界に入るチケットを得ることになります。それまでは本当に大変です。博士課程の4年間で順調にチケットを手にできる人もいれば、4年間では終わらない人もたくさんいます。 --中村先生はお子さんがいらっしゃって、そうした状況で休日に仕事をされていると奥様に怒られたりとか… 中村先生:そこは深く聞かないでください(笑)。でも、家庭を大事にしながら、オンオフを切り替えるように心がけています。実は妻も歯科医師で、妻が学位を取得後、私が従事していた東京大学医学部附属病院で出会っているんです。だから、学位を取る難しさを理解してくれていていつも応援してくれています。 休憩室には卓球台が。安藤先生と中村先生は休憩時間に卓球をしてリフレッシュすることがあるのだとか。 --最後に今後の皆さんの目標を教えてください 安藤先生:サイエンスの道に進んだからには、最終的には「この分野といえばこの人」みたいに言ってもらえるような学問領域を確立したいですね。ただ、今は大学院4年目なので、直近の目標としてはとにかく論文を出して学位を取らなければと思っています。 中村先生:私は博士課程3年目の学生であり、学位取得後も研究と臨床の両方を続けたいと考えています。将来的には臨床現場での疑問点を研究し、その研究成果を臨床に還元できる専門家となりたいと思っています。直近の目標としては、がんの骨浸潤を防ぐメカニズムに関する論文を発表することに力を注いでいます。 塚崎先生:大きな方向性や目標は持ちつつも、サイエンスは何が起こるか分からない世界なので、その時々の面白いと思えることを追究していきたいですね。そして、歯科臨床のことは忘れずに、歯科医師としての着眼やユニークさを活かした研究を続けたいと思っています。 【関連 動画コンテンツリンク】 面白くて深~い骨免疫学の世界 Part1 ~歯科との密接な関係性~ 面白くて深~い骨免疫学の世界 Part2 ~歯科研究者ってどんな仕事~

著者塚崎 雅之

東京大学大学院医学系研究科骨免疫学寄付講座 特任助教

略歴
  • 2013年昭和大学歯学部卒業後、1年間の臨床研修を経験したのち、東京大学大学院医学系研究科に進学。
  • 免疫学教室にて骨免疫学研究に従事し、2018年に同大学院を修了(医学博士)。
  • 日本学術振興会特別研究員DC1、PDを経て、2020年12月より東京大学大学院医学系研究科 免疫学(骨免疫学寄附講座)の特任助教に就任。
  • 2018年より昭和大学歯学部口腔生化学講座兼任講師。
  • 2021年11月より東京歯科大学 微生物学講座 非常勤講師。
塚崎 雅之

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